第29話 二十九日目

 【二十九日目 朝】



 決闘まで残り一日。

 スキル吸収ストック数18。


 教室の中。

 シクシクとすすり泣く声が響いている。


「人間と過ごした思い出」

「人間が話すまで」

「わたくしのファン第八十七号、フィード・オファリングについて」


 オレとの思い出を振り返る作文。

 生徒たちが、それを順に読み上げていく。

 どうやら今日はこんな調子で、午前中ずっとオレとのお別れの会のようなものをするらしい。


(まるで生前葬だな)


 教壇に立つ大悪魔の仏頂面ぶっちょうずらを観察しても、なにを考えているのか読みとれない。

 オレを怖がらせたいのか。

 イラつかせたいのか。

 それとも──。


 絶望させたいのか。


 相変わらずの悪趣味だ。

 きっと、ここに監禁されたばかりの頃のオレなら泣いて怯えていただろう。

 けど、様々な経験を経て覚悟を決めたオレにとっては、こんなもの、ただの茶番にしか見えない。


「では、明日死ぬことになるであろうフィード・オファリングに花を捧げましょう」


 大悪魔の言葉で生徒たちは立ち上がると、一人ずつオレに献花していく。

 一輪の黒百合。

 それを檻の中に添えながら、別れの言葉を残していく。


「短い間だったけど、楽しかったぜ」

「明日、せめて一発かましてやれよなっ!」

「ううっ……たかが人間なのに明日死ぬとなると憐れで可哀想……」

「ちゃんと食べるからね……美味しく食べてあげるから……」


 みんな、オレが明日死ぬ前提で、好き勝手なことを言っていく。


 明日、死ぬのは──自分たちの方だとも知らず。


 オレにスキルを奪われて。

 自分の身に何が起きたのかを理解する間もなく。

 殺されるんだ、お前たちは。

 オレに。


 だが、心配しないでくれ。

 お前たちが死ぬ原因となる大悪魔と王国は、きっちりとオレが潰してやるから。


 魔物とオレ。

 オレと魔物。

 互いに「こいつ、明日死ぬんだな」と胸中で思い合いながら、目線を交わす。


 午前の授業は、こうしたくだらないレクレーションに時間を費やし、終わりを告げた。



 【二十九日目 昼】



 昼休み。

 昼食は激辛インフェルノスープと、別皿に盛られた極太ストレート麺のデーモンヌードル。

 赤黒い悪魔小麦を練って作られてるため、色味も辛味も最悪だ。

 いつまでもグツグツと沸騰を続けるインフェルノスープに麺を浸してズルルと吸い込む。口の中では辛さ爆発。思わずオレのスキルも発動。



 【偏食ピッキー・イート



 フゥ……。

 なんでも食べることの出来る「偏食ピッキー・イート」のおかげで事なきを得た。

 こんなの食べて明日お腹痛い痛いなんてことになっちゃ大変だからね。


 にしても。

 オレの健康な生活を保証するように大悪魔に洗脳してたってのに、こんな食事を用意するようじゃ、もしかすると効果が薄れてるのかもしれない。

 頼むから、あと一日。なんとかってくれよ……。


 今日の格好は全身黒のローブ。

 用意したのはローパー。

 黒百合に囲まれた黒ローブのオレは、まるで魔宴サバトに捧げられた生贄みたいだ。


 女子~ズのチアの練習もさすがに今日は休み。

 男子との校庭でワイワイみたいな誘いもない。


 ただ、静かに時が過ぎていく。

 そして、形ばかりの空虚な午後の授業を終えた放課後。

 魔物たちは、オレに最後の言葉をかけて教室から出ていく。

 別れを惜しみながら。

 一人、また一人と。


 オレは、その絶好の機会に、今奪っても問題のなさそうなスキルを片っ端から吸収していく。



 【怪力ストレングス

 【嘶咆哮ネイ・ロア

 【地獄の業火ヘル・フレイム

 【毒液ヴェノム

 【毒触手ポイズン・テンタクル

 【死の予告インスタント・デス

 【邪眼イビル・アイ

 【腐食コロション

 【投触手ピッチ・テンタクル



 以上の九つ。

 奪ったことによって人化する魔物もいなくて助かった。

 なかでも「死の予告インスタント・デス」と「邪眼イビル・アイ」は強力なスキルだ。

 前日のうちに奪えてよかった。

 明日の朝までの間に、こういう攻撃系スキルを使う機会もそうないだろう。

 よって、バレる可能性も少ない。


 これで、オレの現在のスキル数は22。

 スキル吸収ストック数9となった。



 【二十九日目 夜】



「今日は、一人ずつ話したいんだ」


 そう言って、狼男ウェルリンと二人だけにしてもらった。

 ルゥとリサには隣の教室で待機してもらっている。




 【一人目:ウェルリン(※ウェルリン目線)】




 オレの名前はウェルリン・ツヴァ。

 泣く子も黙るツヴァ組の跡取り、つまり組長の一人息子だ。


 当然、オレを目のかたきにしてるやつも多い。

 次期組長の座を狙う奴らだな。

 そいつらに負けないよう、ナメられないよう、オレは強くあらなければならなかった。

 もちろん、ダチなんかいやしねぇ。

 オレと釣り合うやつなんか存在しないし、仮にいたとしてもオレのウィークポイントにしかならねぇ。


 ただ、一人。

 ローデンベルグ家の跡取り、リサを除いて。

 魔界を二分にぶんする敵対マフィアの一人娘。

 オレと同じ境遇だ。

 しかも可愛い。

 オレが対等でいられるのは。

 オレが甘えられるのは。

 オレをしいたげてくれるのは。

 この世で彼女だけだ。

 そう思っていた。


 が、ある日、リサちゃんに男が出来た。

 しかも人間。

 しかもクソ弱そうな雑魚。

 いつもオドオド、ビクビクしてるくせに「人間の生き血」を使ってリサちゃんに取り入ってるクズ中のクズ。

 正真正銘のゴミだ。

 この世から消えた方がいい害悪。


(おいおい……。まさかリサちゃんは、このゴミクズ人間を眷属にするとか言い出さないよな……?)


 そう思って見守っていたオレは、満月の夜に決行することにした。

 この人間を殺して、オレをリサちゃんの眷属にしてもらうんだ。


 しかし、計画は失敗。

 ゴミカスだったはずの人間に気絶させられるという一生の汚点を晒してしまったうえ、ショックでスキルまで使えなくなってしまった。

 終わりだ。

 魔物としても、マフィアの跡取りとしても。


 スキルが使えなくなったことを知られるわけにはいかない。

 弱みを見せたら骨の髄までしゃぶられるのがヤクザのつねだ。

 オレは、以前にも増して虚勢を張らなければいけなくなった。


 そんなある日、いつものようにリサちゃんを見守っていると、思いがけない誘いを受けた。


「あんた、私の下僕とのスパーリングに協力しなさい」


 愛しのリサちゃんからの頼みだ、断る訳にはいかない。

 っていうか人間とスパークリングだぁ?

 こないだは、たまたま油断してノサれちまったが、普通にやったら人間なんか一瞬で細切れだぞ?


 そう思いながら参加してみたら、意外や意外。

 人間の野郎、あれよあれよという間に強くなっていきやがった。

 おまけに、黒板消しと魔王の爪なんていうふざけた武器で戦いやがる。


 挙句の果てには「殺しを経験したい」だなんて抜かしやがった。

 いい機会だ、逆に人間を殺させよう。

 そして、その死体をこっちでいただこう。

 そうすれば、リサちゃんもオレの思いのままに……。


 そう思って元組員のトロール、ルートォンを紹介してやった。

 ルートォンは先代の鉄砲玉として活躍していたが、鉄砲玉どころか関わった全てを破壊し尽くす超特大大砲玉のような人だった。

 みんなから恐れられてると同時に、ルートォンの暴れっぷりは、子供だったオレにとっては憧れの対象だった。


 それを──。


 この人間は、あっさりと殺しやがった。

 多分、まだオレにスキルがあったとして。

 満月だったとしても。

 もう、この人間に──フィードに、オレはかなわないんじゃないのか……。


 初めて男としての敗北を感じた。

 と、同時に尊敬を抱くようにもなっていた。

 弱い人間という種族のくせに、知恵と勇気だけで、ここまで魔物に立ち向かうことが出来る。

 そして、実際にねじ伏せている。

 奇跡に近い。

 いや、奇跡と言っていいのかもしれない。


 これなら。


 なれるんじゃないか?


 ずっとオレが求めてたものに。


 オレと対等の立場の──ダチに。


 愛するリサちゃん、尊敬するフィード、そして、いい奴のルゥ。

 いつからか、四人で夜の学校で会うのが楽しみになっていた。

 これだけの実力者たちだ。

 ダチになっても、オレの足を引っ張ることなんてないだろう。

 むしろ、オレがこいつらから取り残されないように必死についていかなくちゃいけないかもしれない。


 いいじゃねぇか、ダチでありライバル。


 悪くねぇ。


 フィードは明日決闘だ。

 多分、いや、間違いなく勝つ。

 で、勝ったら条件次第で解放されるらしい。

 解放されたら、うちのファミリーに誘ってやってもいいかもしれない。

 オレがトップで、あいつが右腕。

 そんな未来もあるだろう。


 そんなことを考えていたオレに、フィードの野郎は信じられないことを抜かしやがった。



「ウェルリンのスキル、奪ったのオレなんだよね」



 ………………は?

 奪っ…………た?



「そして、お前が人間化したインビジブル・ストーカーを殺すように、オレが差し向けたんだ」



 人間化…………?

 インビジブル・ストーカー…………?

 こいつ、一体なにを…………。



「で、そのこと自体、オレのスキルで忘れてもらってたんだ」


「おい、フィード……!? あんまりわけわかんないことばっか言ってっと……」


 やっと言葉が出た。

 何言ってるんだ、こいつは?

 いや、そういえば誰かを殺して埋めたような記憶が……いや、嘘だろ? そんな……。



「詳しくは明日以降に思い出してくれたらいい。全部オレが悪いんだ。罪はオレにある。オレが、お前から奪って、罪をなすりつけた。リサも、スキルも、罪も。後から思い出したら、いくらでも恨んでくれて構わない。でも、オレは、ちゃんとお前に感謝してるんだ。だから少しだけでもいい、憎みながらでも、ここで過ごした時間のことを覚えていてくれたら……嬉しい」


「オイッ! テメェ、いい加減に……」



 【魅了エンチャント



 そこからの記憶はない。

 気がついたら家に戻っていた。


(あれ……? オレ何してたんだっけ……? いつの間に家に……?)


 まぁ、いい。

 夜だし、もう遅いし寝るか。

 明日の夜はリサちゃんを探しにいこう。

 変な虫がつかないように、オレが見守ってやらないとな。


 少しの違和感を抱きながら、オレは枕を抱いて眠った。




 【二人目:ルゥ(※ルゥ目線)】




 ああ、フィードさん。フィードさん。


 私の憧れの、人間。


 私みたいに「呪われた種族」だからといって、皆から無視されることのない人間。

 平等に弱く、平等に儚い人間。

 私が憧れ、焦がれた、人間。


 その人間のフィードさんが今、目の前にいる。


 フィードさん。 

 最初は凄く弱かったですよね?

 裸で、怯え、泣いていましたよね?

 私に出来ることは、せめて少しでも穏便に済むような名前をつけてあげること。

 それから、なにかあったら駆け寄ってあげることだけでした。

 ほら、ゴーゴンの私が近づけば、みんな離れていきますから。


 そんなフィードさんが、必死に一日一日を生き延びていく姿を見て、私は感動していたんです。

 

 そしたらある日、フィードさんがトイレで襲われて命を失いかけて……。

 ああ、私のせいだ。

 私がしっかり守ってあげられなかったから……。

 気がついたら無我夢中で一面を石にしてしまっていました。


 おかげでどうにかフィードさんは一命を取り留めたんですが、フィードさんが目を覚ますのを待つ間、私は気が気じゃありませんでした。

 おまけに目を覚ましたフィードさんからは、私のつけた名前を非難されてしまって……思わず泣いてしまいました。


 でも、その後──。


 わ、わ、私のことを──か、かわいいって……言ってくれて……。


 あ、あわわわ!

 今、思い出しても顔が真っ赤になります!


 それから、夜の教室に誘ってくれて、私はあの忌まわしい家に帰らずに済むようになったんです。

 気がつくと、私はフィードさんのことを「人間だから」ではなく、「フィードさんとして」好きになっていました。


 それからは、めきめき強くなっていきましたよね?

 黒板消しを盾にしたり、メザリア先生の家に武器を盗みに入ったり。

 生まれ持ったスキルに振り回される私達とは違って、生まれながらのスキルを持たない人間だからこそ出来る発想と行動。


 私の人間に対する憧れはますます強まり、それは同時にフィードさんへの好意にも変わっていったんです。

 そして明日、とうとうフィードさんが決闘に挑みます。


 メザリア先生は「結果次第ではフィードさんを解放する」と言ってますが……。

 もし、いざとなったら……私が……全員を石にしてでも……。

 そして、フィードさんと二人で人間界を目指したり……。


 そんな事を考えながら、私は今、フィードさんと差し向かいで決戦前夜の二人っきりのお話に向かっています。

 い、一体何を言われるんでしょうか……。

 そして、私は何を言ってしまうんでしょうか……。

 自分のことながら、全く想像がつきません……ドキドキ……。



「オレは、他人のスキルを奪うことが出来るんだ」


 はい?

 スキル?


「そして、種族の根幹となるスキルを奪われた魔物は──人間になる」


 へ?

 人間に?

 ちょっと理解が追いつかな……。


「それはルゥ、おそらく──キミもそうなると思う」


 ふぇ?

 人間?

 私が、人間、に…………?


「奪ってください! 私を人間にしてください!」


 気づいたら、そんな言葉が口から出ていました。

 なんということでしょう。

 私の長年の夢を叶えてくれる人が、ここにいるんです!

 目の前に!

 しかもそれが……私の愛するフィードさんだなんて……!


 ああ……。

 貴方は、もはや私にとっての神です、フィードさん……。

 大好きを通り越して、敬愛しています。


 え?

 人間になったら魔界では生きていけないから、私のスキルを奪わないつもりだった?


「何言ってるんですか! ゴーゴンである私なんか、ずっと死んでるも同然でしたよ! もし人間になれなかったとしても! こんな忌まわしいスキルさっさと手放したいです! なんの未練もありません! 一日だけでもゴーゴンというかせを捨てて生きられるのなら、それが本望です! さぁ、早く奪ってください!」


 嘘偽りの一切ない本音です。

 私のこんな呪われたスキルが、少しでも貴方のお役に立てるのなら、私にとってこれ以上の幸福があるでしょうか?

 ああ、早く、早く私のこの呪われた力を、私から取り除いてください……。


 フィードさんは、少し「困ったな」みたいな顔を見せます。

 ああ、そんな顔も可愛いんですよね、フィードさんって。

 ……いやいや、コホンっ。そんなことよりも……。


 早く。

 私を、この地獄から救ってください。


 フィードさんは奈落まで響くような深い溜め息をついた後、私の顔を見つめます。


 ……。

 …………。


 あれ? なにか少し、体が軽くなったような……?


 両手で髪を触ってみます。


(…………!)


 髪……。

 髪です!

 蛇じゃない! 髪があります!

 髪が生えたんです!

 私!

 私! ついに……人間に……!


「ほら、やっぱり可愛い」


 私の顔を覆っていたベールを優しく外すと、フィードさんはそう言いました。


 私は。

 生まれて初めて。

 ベール無しで人の顔を見ます。


「私……今、どんな顔してますか……?」


「泣きながら、笑ってるかな?」


 あ、フィードさん。

 生まれながらの私の呪いを解いてくれた人。

 間違いありません。



 あなたは、私にとっての、神です。




 【三人目:リサ(※リサ目線)】




 ルゥが、泣きながら隣の教室から出ていくのが見えた。

 ベールが外れてたような気がするけど、なにかあったのかしら……。


 まぁ、フィードとの最後の夜になるかもしれないわけだし、何もないって方がおかしいわよね。

 それに……ルゥの気持ちにも気づいてたし。


 にしても。

 私が最後、ということは。

 おそらくってことよね……。

 その……眷属に。


 だから、二人と先に話して帰らせたのよね?

 ハァ~~~……。

 ずっと根気強く眷属化をすすめ続けてきた甲斐があったってもんね。


 さぁ、聞いてやろうじゃないの。

 下僕であるフィードの口から、眷属にしてください宣言を!


 

「は? はぁ? スキル……? 人間化……? ちょっと何言って……? へ? 私に魅了をかけてインビジブル・ストーカーを運ばせたことがある……? いや、ちょっと、下僕……? あんた、ほんとに何言って……」


 え? ルゥが? え? えっ?


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!?」


 気がつくと私はブチ切れていた。


「下僕っ! あんたなんなのマジでっ! そんな……そんなことして! ほんとに! 人間化!? スキルを奪える!? 洗脳したことがある!? ハッキリ言って……私は怒ってるのっ!」


 言葉がスラスラ出てくる。

 これ……私の本当の気持ちだ……。

 これが、私が心の中で思ってたことなんだ……。

 喋りながら出てくる言葉で、私は私の本当の気持ちを知る。



「私はね! 信用してもらえてなかったことに怒ってるの!!!」



 一緒に時間を過ごした。

 いっぱい話をした。

 私の悩んでること、得意なこと、失敗したこと、自慢したいこと、嬉しかったこと、悲しかったこと、いっぱい、いっぱい。


 用意するように言われた食事にも頭を悩ませた。

 食事以外のものも用意した。

 一緒に楽しく過ごせるように。

 仲良くなれるように。

 そしてあわよくば──私の眷属として恒久の時を共に過ごしてもらえるように。


 フィードのどこがよかったのかは、わからない。

 最初はただのナヨナヨした餌にしか見えてなかった。

 でも。

 体を鍛え始め、実践訓練なんかもし始め、身の回りのあるものを工夫して装備品にして、とうとう私達マフィアの界隈で名の知られたトロールまで倒してしまった。

 餌だと思っていた少年は、次第に生涯を共にしたいと思えるような存在へと変わっていった。


 築いていけてると思ってた、信頼を。

 結べていけてると思ってた、絆を。


 でも。

 でも。

 それが全部、嘘だったことに──とてつもなく腹が立つ。



「で、なに!? それをなんで私に今更言ったわけ!?」


「そ、それは……」


 フィードは、ごにょごにょと口ごもる。


 まったく……こういうところは、最初のよわよわフィードそのままね。


「嘘をつきたくなかった!? 良心がとがめた!? それとも、お情けで私からスキルを奪うのをやめてあげるってわけ!? ハッ、天下のバンパイアも見下されたものねっ!」


 ああ、そうだ。


 私が、本当に望んでたのは──。



「私は……あなたと一緒にいたいのっ! 下僕、いや──フィード!」



 そうなんだ。


 下僕でも眷属でもなく。


 ただ、前を向いて必死に頑張っていくあなたを見て。


 一緒にいたい。

 

 私は、そう願ったんだ。


「スキル? 奪えばいいじゃない! 人間になる? いいわね、昼間も行動できるようになるわ、あなたと一緒に過ごせる! 奪いなさいよ! 人間になると魔界では生きていけないから死ぬ? なに勝手に決めつけてくれてんのよ! フィードですら三十日間も生き延びてこられたのに、この私が生きられないとでも!? さぁ、奪ってみせなさいよ、フィード・オファリング! そして──」


 困り顔で戸惑ってるフィードに優しく笑いかける。



「明日を生き延びなさい」



 頭を抱えたフィードが私に聞く。


「本当に……いいんだね?」


「ええ、覚悟はできてるわ。こう見えても私は、魔界で悪名高いローデンベルグ家の一人娘よ。自分の人生を自分で切り開く覚悟くらいとっくに出来てるわ。勢いで言ってるわけじゃないの。つ、つまり私は、あの……その……本気で……あなたと一緒に……いたいのよ……。だ、だから……」


「……わかった」


 フィードは小さくそう言うと、私の顔をキッと見つめた。


 …………?

 あれ、なんか、体が……。

 あ、今、夜なのに、ねむ……。

 あ、いや、夜だから、か……。

 え、これが人間の……感、覚…………。


 私の意識は、ここで途切れる。


 倒れながら、窓の外が目に入る。


 山の表面が紫色に白んでいる。


 まもなく、夜明け。


 フィード・オファリングの運命を決める、決闘の日だ。





────────────────────


 アベル(フィード・オファリング)

 現在所持スキル数 24

 吸収ストック数 7


 【鑑定眼アプレイザル・アイズ

 【吸収眼アブソプション・アイズ

 【狡猾モア・カニング

 【偏食ピッキー・イート

 【邪悪ユーベル・ズロ

 【死の悲鳴デス・スクリーム

 【暗殺アサシン

 【軌道予測プレディクション

 【斧旋風アックス・ストーム

 【身体強化フィジカル・バースト

 【透明メデューズ

 【魅了エンチャント

 【暴力ランページング・パワー

 【怪力ストレングス

 【嘶咆哮ネイ・ロア

 【地獄の業火ヘル・フレイム

 【毒液ヴェノム

 【毒触手ポイズン・テンタクル

 【死の予告インスタント・デス

 【邪眼イビル・アイ

 【腐食コロション

 【投触手ピッチ・テンタクル

 【石化ストーン・ノート

 【吸血サクション・ブラッド


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