第3話 クラスのみなさまのおもちゃです
ボク、鑑定士アベルは檻の中で考えた。
残された三十日の中でしなきゃいけないこと。
その一、自分の新たなスキル【
その二、魔物たちのスキルを気づかれずに奪う。
その三、檻から脱出する。
この三つ。
とにかく【
もし、スキルが一つしか奪えないとなったら、かなりヤバい。
さっき吸収した【
これだけで打ち止めってことになるからだ。
無理だ。
【
力だ。
絶対的な力が
考え込んでいると、地面が揺れた。
ぐゎん!
いや、地面じゃない。
檻が揺れてるんだ。
オークが──檻を持ち上げてる。
「はい。では、それ、後ろに投げといてくださいね~」
え? は? 投げ……?
「はァい」
ふゎり。
「うわわわ!」
ドシーン!
「わはははは!」
爆笑で包まれる教室。
「大丈夫ですか~? 死んでませんか~?」
「生キてます」
大悪魔の問いに、オークがぎこちない言葉で答える。
「それはよかったですね。みなさん、フィード・オファリングは運がいいようです」
再び教室が笑いに包まれる。
魔物たちから
これだ……。
この力……!
何トンもの重さの檻を軽々と放り投げる圧倒的な力。
これさえあれば──。
オークのスキル。
【
必ずボクに必要となるスキルだ。
目星をつけておこう。
それからは普通に授業が始まった。
歴史や地理、あとは残酷な人間の殺し方や、いろんな魔物についての生態など。
驚くほど普通の学校だ。
粗暴に見えた魔物たちも真面目に授業を受けている。
とはいえ、ボクに授業なんて聞いてる暇はない。
と言っても、一定時間ごとに吸収を試してみるくらいしか出来ることはない。
そして、なんの成果も得られないまま──昼休みを迎えた。
キーンコーンカーンコーン。
授業と授業の合間の時間に物珍しそうにボクを眺めてた魔物たちが、初めてボクの前に集まってきた。
(あ、これ、なにかされるな……)
いじめられっ子特有の勘が働く。
集団の先頭に入るのはミノタウロスとオーガ。
最初に散々下品な野次を飛ばしてきてたのも、この二人だ。
スキルはそれぞれ【
「お~、人間ごときが生意気によ~? あ? オレたちみたいな魔物のエリートに飼われるってのは、どんな気分だぁ? あん?」
どうやらここはエリートが通う学校らしい。
どうりでいるのが上位種ばかりなわけだ。
しかし、このオーガは使えそうだ。
情報を引き出すために怖がるふりをしてみよう。
「ひっ……! こ、ここって魔界なんですか……!? ボ、ボクなんにもわからなくて……!」
我ながら迫真の演技。
だてに学生時代ずっといじめられてきてない。
まぁ、自慢できるようなことじゃないんだけどね……。
「おい! 喋ったぞ! 喋れるじゃねーかこいつ! 『魔界ですか?』だってよ! 人間界にこんな学校があるわけないだろうが、ば~~~か!」
周りも釣られて笑ってる。
いいぞいいぞ、その調子でどんどんボクに情報を与えてくれ。
「ちょっとぉ、やめてあげなさいよぉ~!」
美しい声。
上半身が女性、下半身が魚の魔物、セイレーンが割って入ってくる。
あきらかに自信満々って感じで、余裕の笑みを浮かべている。
なんというか、スクールカーストトップ感が半端ない。
持ってるスキルは【
「そうよぉ、やめなさいよ男子ぃ!」
そのセイレーンの子分的な位置から口を挟むのはスキュラ。
上半身が女性、下半身がタコの魔物。
紫色の肌が健康に悪そうだ。
所持スキルは、見た目の通り【
(下半身が海の魔物系の女の子コンビか……。この二人からも情報を引き出せないか演技してみよう)
「な、なんですかぁ、あなたたち……! っていうか、ボクはなんでこんなところにいるんですか……!?」
スキュラは性格悪そうなツリ目で、セイレーンは見下した目で、それぞれボクを見つめる。
「ゴミムシ──ウジ虫──じゃなくて、なんでしたっけぇ? このクズの名前ぇ?」
「たしか『フィード・オファリング』とか言ってましたわ」
「そう、フィード。フィードでしたわね。いいですことぉ?」
バァっとセイレーンが手を振りかざすと、子分のスキュラがどこからか取り出したスポットライトを照らす。
「わたくしの名前はセレアナ・グラデン! いずれ世界を統べる歌姫、セレアナ・グラデンとはワタクシのことですわぁ~! よ~く覚えておきなさい、フィード・オファリング」
パチパチパチ。
スキュラ一人だけの拍手が教室に鳴り響く。
う~ん?
なんか、押しが強いなぁ……。
質問も無視されたし、会話が成り立ちそうに思えない……。
それにしても、このセイレーン。
持ってるスキルが【
的はずれなことを言ってるからかな?
あ~。
ボクなら、もっと上手く使いこなせそうなのにな~、その【
「ちょっと! あなた、わたくしの話を聞いてまして!?」
「オラァ! セレアナ様が喋ってんだぞ! ちゃんと聞けよフィード・オファリング!」
スキュラがたくさんのタコ足の中から【
「ひ、ひぃぃぃ! やめてください、お願いします!」
ボクの目の前でうねうねとうねる毒々しい色の毒触手。
先っぽから謎の液体が垂れてるし、こんなの食らったら確実に死ぬ。
どれだけ無様なさまを晒してでも絶対に生き延びないと……!
「あらあら、セレアナ様! 見てください、この惨めな人間の姿を! こぉ~んなにビビっちゃって!」
「憐れねぇ。どうせ三十日後に食べられるってのに、こんなに必死に生きようとするなんてねぇ」
この二人の煽り方、イヤすぎる。
直接的な暴力じゃない分、なおさらたちが悪い。
「あの……」
集団の後ろから、弱々しい声が聞こえてきた。
「三十日飼うのは、いたぶるためじゃない……と、思う……」
声の主は、ボクにフィード・オファリングと名付けたゴーゴン。
頭から外国のお葬式のときのような黒いベールを被っていて目元が隠されている。
そして、そのベールの隙間からは、髪の毛──いや、小さい蛇の大群がウネウネとうねっているのが見える。
所持スキルは【
「はぁ!? いたぶるためじゃなかったら一体なんのために飼うのよぉ? いたぶって楽しんだ後に食べるんでしょ?」
「そうだ、そうだ! 意味分かんないこと言わないでくれる!?」
「あ……ぅ……」
二人に言い返されてたじたじのゴーゴン。
いるんだな、魔物の世界でもこういういじめられっ子タイプが。
ちょっと親近感を覚えるけど、このゴーゴンはボクに餌(フィード)供物(オファリング)なんて名前付けた張本人だ。
要するに、いくらいい人っぽく見えても所詮は魔物ってこと。
絶対に邪悪に違いないんだ。
ガラガラ。
扉を開けて教室に入ってきたのは緑色の肌をした巨体、ホブゴブリン。
「うボォい……エザ……餌……先生が……持ってげって……」
ガチャンっ!
腐臭を漂わせた皿をボクの前に乱暴に置く。
中身が床に飛び散る。
「うっ……!」
ネズミの死体。
蠢いてるムカデ。
腐ったなにか。
それらが山盛りに入っている。
【
すかさず何が入ってるのかを鑑定する。
【毒素】
【毒液】
【有害物質】
【害毒】
【猛毒】
毒。
ただの毒だ。
食べ物と呼んでいいものじゃない。
「どうじだ……はやぐ……ぐえ……」
ふるふると顔を横に振る。
こんなの食べたら今すぐ死んでしまう。
「どぉ~したのぉ? 早く食べなさいよぉ、フィード?」
「セレアナ様がおっしゃってんだから早く食え!」
「キュアラン? せっかくだから、アナタが食べさせてあげたらぁ?」
「それはいい考えですね! さすがセレアナ様、お優しいで・す・ねぇぇぇ!」
ズボッ!
スキュラの毒触手が皿の中身を掴み。
ボクの口の中に押し込んでくる。
「ボェ……ボェェェェェ……!」
ダメだ、胃の中のものが逆流してくる。
それにこの触手の……毒、が……。
意識が
遠
の
く。
倒れゆく中で、心配そうに駆け寄ってくるゴーゴンの姿が見えた。
ような。
気がした。
◆◇◆
夜の冷たさに目を覚ます。
どうやら──生きているようだ。
奇跡的に助かったのか。
それとも、すぐに戻したから大丈夫だったんだろうか。
なんにしても、気を失って時間を無駄にしてしまった。
三十日しか猶予がないのに、もう一日が終わってしまうなんて……。
「うっ……」
腕に力を入れてなんとか立ち上がると──。
檻の前には、月明かりに照らされて艷やかに光る金髪の少女がしゃがみ込んでいた。
「え、だ、だれ──?」
少女はニィっと笑う。
その口元から牙が覗く。
よだれがボトボトと落ちている。
よく見れば、少女の足元にはよだれで大きな水たまりができていた。
(こ、こいつは──!)
【
バンパイア 10086 【
夜の王。
伝説の魔物、吸血鬼だ──!
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