【はじめまして。僕たちが】親睦を深めるにはやっぱお泊り【read i Fineです!】#1-おまけ
バスに揺られ早数十分。先程適当なパーキングエリアで一度休憩を取り、再度ロケバスは運行を始めた。アテンドをしているプロデューサー・
「正直、先程の自己紹介だけでシャープを終わらすのはちょっとアレなので」
「めっちゃ正直に言いますやん、難波さん」
苦言を呈する
「もうちょっと雑談していただけると有り難いです。では宜しくお願いします」
宜しくと言われてもなあ、と『
まだそこまで関係性が出来上がっていないグループで雑談、それもバラエティ的に面白い雑談をしろ、というのは端的に話術の話になってくるのだ。こんなことでへこたれてはいけないのだが、と思いつつ
○ ○ ○ ○ ○
「そういやこうして
雑談開始のゴングを鳴らしたのは、やはりと言うべきか月島だった。非常に慣れた口調で、『Now Tubeの初回動画の雑談』に相応しい話題を提供していく。それに追随するのはこれまた予想通り、水面だ。水面は元気よく手を挙げて「あります!」と声高々に宣言した。
「ほお、みなもんあるんやな」
「ありますとも」
「じゃあ他の人おります?」
「訊かないの⁉ ねえ、普通に悲しいんだけど⁉」
「しょうがないから僕が話そうか」
月島が一旦ボケて、それを水面がツッコんで回収している間に
「やっぱりボードゲームじゃないかな、Now Tube企画と言えば」
「いいねえ」
そう合いの手を打ったのは南方だ。そんな南方に後ろから御堂が「でしょ」と手を差し出し、最終的にふたりは握手をしていた。
「え~じゃあ、侑太郎もボードゲーム賛成派?」
「ボードゲームは普通に面白いと思う。あと人狼とかやってみるのもあり」
「あ、俺、人狼得意」
「得意そうですねー!」
すかさずアピールをしてきた
「へえ太一、どこがどのように得意そう?」
「……なんか俺、まずいこと言っちゃいましたか?」
「普通のことしか言ってないと思うよ」
「単純に日出くん、自分のことを褒めてほしくてそんな話題出したんじゃね」
森富が慌てて周りの人間に現状の解説を求めるが、
「なんか俺の良い話聞けるかな、と思ったんだよ」
「あ~なるほど! だって日出くん、演技上手じゃないですか! 多分俺なんかすぐに騙されちゃうなあって思って」
「太一に百ポイント」
「何のポイント⁉」
「え、私もほしいです! のでポイント!」
「それらしい名前が付いちゃってびっくりしちゃった……」
森富が褒めたことにより日出が指差しでポイント付与宣言。それに食い付いたのがまさかの
「ちなみに日出、のでポイントが付与されるとどうなるん?」
「演技が上手くなる」
「ご利益⁉」
「芸事の神様かなんかなん?」
「最早効能がひみつ道具なんだよなあ……」
てれれってれ~、のでポイント~、と御堂と水面、土屋がハモる。全員物真似の完成度は今一つであったが。しかしそれに南方が口を挟む。
「ひみつ道具なら、『のでポイント』を付与する何か、の方じゃない?」
「なるほどな? それならひみつ道具は日出やん?」
「俺が……ひみつ道具……⁉」
「『わたしが、バニチャミ⁉』みたいですねー」
「待って、高梁お前バニチャミ知ってるんだ」
知ってますよ! と高梁は元気よく返事をする。『バニチャミ』というのは日曜の朝に放映されている女児向けアニメである。十年以上続くシリーズであり、毎シーズンのコンセプト変化が『大きなおともだち』にも大人気な作品だ。余談だが今シーズンは機械武装に身を包んだ魔法少女というコンセプトで、男児の視聴率も良いらしい。
「アニメは日本語をおぼえるために、とても役に立ちますから。いろいろおすすめされたものを見てます」
「誰からオススメされてるの~?」
「いつきくんです!」
「ですよね~」
「妙な納得感が漂い始めたの、どういうことだってばよ」
自分の名前が出されて、さもありなん、と言いたげな雰囲気になったことへ御堂が不服そうに頬を膨らませた。『read i Fine』どころかヤギリプロモーションの練習生の中でも、実は屈指のアニメ通である御堂だ。本人的には「そんなに詳しくない」とのことだが、その知識量は常人の比ではない。
現に日本語が不得手な高梁に、万国共通で分かりやすい一話完結シナリオ・アクションシーンが多く視覚的に楽しめる・難しい日本語がそこまで使用されない、という三本柱を持つ『バニチャミ』を勧めているところから素養の高さが窺い知れる。
「あと今期の『バニチャミ』は群を抜いて作画が良い。初代に匹敵するアクションシーンのぬるぬるさだよ」
「何言っとるのかまったく分からん」
「ぬるぬる……?」
「動きが滑らかなことを『ぬるぬる動く』って言うんだよね、出典元は分かんないけど」
南方が差し込んだ解説に、感心したように桐生と月島が頷いた。
「っていうか侑太郎、お前パンピーの振りしてるけどそこそこアニメ見るタイプじゃん」
「いっちゃんほどじゃないから黙ってただけですよ。生贄にしようとは思ってない」
「……なんかこの空気感が既に人狼っぽいですね」
「人と狼ならぬ、人とアニオタ、人アニオタ」
「語呂悪っ。ラッパーとして看過したくないくらい語呂が悪ぃな!」
「あとこれだとアニオタは人でないということになってしまう」
人種差別だ! と叫び出す御堂。
そしてここで話が大分脱線していることに全員が気付いた。マスターオブセレモニーを務めていた月島が咳払いをひとつし、水面の方を覗き見る。
「それで、みなもんは何がしたいんやったっけ?」
「え、ここでぼくに来る⁉」
「だって言いたがっとったのに。話よく聞かんくてほんまごめんやで」
「いちばんどうしようもないところでボール渡されても困る」
本音が駄々洩れな水面であった。実際このタイミングで話を戻され、トークのターンをもらったところで何もできやしない。ごく普通のアイデアを言って、更に取り返しのつかない空気になるだけだ。
「あ、じゃあ、俺いいっすか」
「お、おお⁉ 桐生⁉」
しかしそんな駆け引きなんてお構いなし、さながら『空気は読むものではなく吸うものだ』と言いたげに手を掲げたのは桐生だった。これには責任を水面に押し付けようとしていた月島も、断固として拒否の姿勢を示していた水面も、傍観していた他の面々も驚きを隠せない。よりにもよってお前が行くのかよ、と。
「もしや発言権は平等ではない……?」
「ちゃうよ、うちはちゃんと民主主義やで」
「一瞬独裁に傾きかけたけどね」
「侑太郎~……?」
的確かつ辛辣な南方の発言だった。この物言いに月島も青褪める。
「ま、まあ気を取り直して、永介、何かやりたいことあるんやろ? 何やりたい?」
「しれっと軌道修正したなあ……」
「俺、ミックスフライ選手権やりたいんだよね」
「……なにそれ」
疑問の声が飛び出てしまったのは土屋だった。飛び出てしまったのは土屋だが、バス内にいる人は全員土屋の発言に同意している。
「ミックスフライってあれ? 定食屋さんにある、フライの盛り合わせ的な」
「それっす。エビフライとか、コロッケとかのってるやつ」
「お腹空いてきましたねー」
「透くん言わないで……お腹空いてること思い出すから……」
早朝集合であったため、朝食がかなり早い時間であった『read i Fine』だ。まだ午前中とはいえ、そろそろ空腹感を覚えてきた頃合いだろう。森富は腹を押さえて、恨みがましそうに高梁の方へ顔を向けていた。
「で、選手権言うと何すんねん」
「最強のミックスフライ定食を作ろう、ってことで万人が納得する三種盛りを考えたい」
「うわ何それめっちゃ楽しそう~!」
食い付いたのは水面だ。まさか桐生から、ディベート系の企画が提案されるとは思いもしなかったが。しかしミックスフライっていうのが桐生らしいな、と水面は深く頷く。
「ていうか、こういう系の話題ってマジで血を見ない?」
「日出の発想が物騒……」
「そんなことないよ。いっちゃんだって兄弟いっぱいいるから分かるだろ、食べ物の恨みはとんでもなく恐ろしいものだって」
「まあね……」
七人きょうだいの四番目である日出(ちなみに五番目は水面だ)と、三人兄弟の末っ子である御堂だ。食べ物で揉めたことなんて、星の数より少ない程度ではあるが経験してきている。対する桐生は一人っ子とのことで、恐らく『食べ物の恨み系いざこざ』とは疎遠なのだろう。こういう発想が素直にできる時点で、何となく察せられる。
「やるならほんまに血が出ぇへんようにしてやるしかないわな」
「つっきーも一人っ子なのにそこの見識は深いんだ」
「なに言うてはるん、いっちゃん。オレくらいになると、じいちゃんと大揉めやで?」
ドヤ顔で宣う月島だが、ドヤ顔になる理由がまったく分からない。
※ ※ ※ ※ ※
「あのー、ごめんなさいー、良いですか?」
「どうしたんサーシャ、謝らんでええけど何があったん?」
「あきくんがぐっすりです」
「はあ⁉」
「いや寝てない寝てない! ちょっと気が遠くなってただけで……」
一人席のため窓にもたれていた土屋は勢い良く姿勢を正し、周りをちらちらと窺い見る。その表情におかしなところは見られない、とメンバーのほとんどは感じたが最も至近距離で見ていた月島だけが異変に気付いた。
そして前の方で待機していた難波に声を掛ける。彼女はすぐに来てくれた。
「亜樹の顔色なんですけど」
「顔色、……確かに良くはないですね。寝不足ですか?」
「まあ、多少は……」
歯切れの悪い返事だ。これは良くない、と難波の直感が告げる。恐らく副次的なものだろう、寝不足と長時間のバス移動によって引き起こされた体調不良。そういえば土屋は軽い乗り物酔いの気がある、本当に軽いものだから誰も認識していないだろうが。
「ひとまず水分補給をしましょう。あと前の席に移動を、少し寝れば治まると思いますよ」
「……すいません、体調管理できてなくて」
「どうしようもない時は誰しもあります。そして、どうしようもない時にどうするかがプロフェッショナルというものです。ひとつ学びましたね」
だいじょうぶー? 休めよー、というメンバーからの声が土屋に投げ掛けられる。土屋は申し訳なさそうに、照れたように笑って前の席に移動していった。
「ここで一旦終了ですね。続きは現地に着いてからにしましょうか」
「尺的にどうでしょう」
南方の言葉に難波は少し視線を上げ、思案するように目を細めた。数秒して、問題ないでしょう、と彼女は応える。
「みなさんのキャラクター性と、ギャップが垣間見える良い雑談でしたよ」
到着十分前になったら声を掛けます、とだけ言い残し難波は自分の座席へ戻っていった。果たしてそうだろうか、と半分は疑心を覚え、もう半分はそれなら良かったと安堵している。
目的地到着までおよそ四十五分──とのことだった。
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