【reflect i Fine】read i Fine 動画コンテンツ(企画もの)

【はじめまして。僕たちが】親睦を深めるにはやっぱお泊り【read i Fineです!】#1-①

 三月中旬。徐々に春めき、桜のつぼみもじわりと膨らんできた今日この頃。

 最高気温十五度という比較的暖かい日にも関わらず、そこにいた少年たちは(ひとりを除いて)ダウンコートを着用していた。ヤギリプロモーション本社の駐車場でのことである。


「全員ガチ装備ですね」

「当たり前じゃないですか」


 難波真利夏なんばまりかの発言に佐々木日出ささきひのでが食い付く。例によってこの最年長兼双子の兄もダウンを着ていた、あるアウトドア用品ブランドのものでブルーのダウンパーカーだ。


「これから俺らが行くの、山ですよ?」

「山ですが……そんな雪山とかじゃないですよ。普通に林間学校的な感じです」

「山を舐めたら駄目です」

「土屋くんまでそんなことを……」


 続いて口を挟んだのは土屋亜樹つちやあきだ。イタリアのファッションブランドのダウンコートを着ている。色はブラックで、フード部分にはファーがついたタイプのものだ。メンバーの誰よりも豪奢に見える。


「山の天気は変わりやすい上に標高が上がれば気温だって下がるんですよ! 俺、調べましたもん! 最高気温七度ですよ七度!」

「え、なな……?」

「どうしたサーシャ」


 最早演説と言わんばかりに声を張り上げる土屋に、高梁透たかはしとおるアレクサンドルが不可解そうに呟く。それに言及をしたのは御堂斎みどういつきだ、ファストファッションブランドのダウンコートに身を包んでいた。

 彼は咄嗟に目配せをし、周囲の人物をつかって土屋を黙らせる。まあその程度で黙らないのが土屋亜樹であるが、やや落ち着いたところで高梁がやっと話し始めた。


「七度、はさむくないですよ……?」

「サーシャの実家ってどこら辺にあるの」

「ここが日本じゃないですか」


 高梁は自らの左手をきつく結び、それを日本と仮定した。

 そして右手人差し指を立て、左のグーからその指先を目いっぱい右に移動させる。右、つまり西? 加えて指を上昇させる。右肩上がり。要するに北だ。


「めっちゃ西のめっちゃ北」

「そうです! 今くらいだといちばんあたたかくても二度くらいです」

「最高気温で二度⁉」


 メンバーは一様にどよめく。特に熱弁を奮っていた土屋は顔を蒼くさせていた。

 ロシア出身の高梁にとって一桁台の気温は深刻になるようなものではないのだ。その証拠に彼はメンバーで唯一、ダウンコートを着ていない。フード付きのモッズコートだ。


「雨とか雪とかないなら大体平気です。あると最悪です」

「そりゃそうやろな……体感が段違いやで」


 大きく頷く月島滉太つちやこうたもカジュアルなスポーツ系ブランドのダウンコートを身に着けていた。上位モデルでシックなスタイルである。


「京都って冬寒いんだっけ」

「夏はくそ暑くて冬はくそ寒い、盆地舐めんなや」

「名古屋は?」


 名古屋は、と訊いたのは双子の弟こと佐々木水面ささきみなもであり彼はややハイソなアメカジブランドのダウンジャケットを着ている。訊かれた人物──御堂と南方侑太郎みなかたゆうたろうは立ち位置は離れていながらも顔を見合わせ、ほぼ同時に「まあまあ」と答えた。物言いをつけたのは、またも土屋である。


「名古屋ビル風ひどいじゃん!」

「でも雪降らないし」

「雪降ってる方があったかいこともある」

「伊吹おろしがなあ……」


 遠い目をする南方は日出のもとはまた違った、アウトドア用品ブランドのダウンジャケットを着ている。メンバーのほとんどは『伊吹おろし』という単語が聞き取れていないようだが、御堂だけは納得したように「ああ」と同意の声を漏らす。


「伊吹山ね」

「赤城おろしとか、六甲おろしとかと同じ?」

「うん」


 桐生永介きりゅうえいすけの言葉に御堂は頷く。桐生は世界的なスポーツブランドのダウンコート、ブラックとグレーのツートンカラーのものをアスリートのように着こなしていた。また知らない言葉が、と頭を抱える高梁に「山の名前だよ」と呼び掛ける。


「山から吹く風を『おろし』って言う、だよね? 侑太郎くん」

「正解~、山颪ともいうねそのまんま」


 フェーンも意味的には同じだけどフェーンは温かいんだ、という謎の豆知識を披露する南方とそれに感心するメンバー。その中でただひとり、着古したスポーツブランドのダウンジャケットを着込んだ少年がそろりと手を挙げた。


「というか、あの、お兄さん方」

「どうした末っ子」


 末っ子、こと森富太一もりとみたいちである。尚体格は全然末っ子らしくはない。


「えーと、その、」

「なんかあった? ぱっと言いな?」

「……えっと、あの、……ずっとカメラ回ってますよ」

「え」


 この動画は編集され、本編のおまけとして付け加えられた。


○   ○   ○   ○   ○


「せーの、」


『こんにちは! read i Fineリーディファインです!』


 全員でマイクロバスに乗り込み、正面にあるカメラに向けて全員で挨拶をする。

 これが『read i Fine』として公に発することとなる、初めての挨拶だった。


「今日は全員で山に合宿に行く、ということで。なんか楽しみやねえ」

「こういうのなかったもんね、今まで」

「ね~、楽しみ」


 二人掛けのシートに並んで座っているのは南方、水面。通路が空き、一人席に座っているのは月島だ。水面は各人に持たされたゴープロの設定に勤しんでいる。


「そもそも結成してからメンバー全員でどこか行くのも初めてなのか」

「あれ、引っ越しのあとに蕎麦食べたのはカウントされない?」

「どこか行く、って感じじゃないよあれは。ただご飯食べただけだし」


 南方・水面の後ろに座っているのは日出と御堂。月島の後ろに座っているのは土屋だ。何故か御堂は日出の肩に頭を預けていた。


「透とか、日本でどっか行くの初めてじゃない? 忙しかっただろうし」

「はい! でもみんなで行けるのが楽しいですし嬉しいです」

「俺もすっごいわくわくしてる、何するんだろうね」


 日出たちの後ろ、最後尾の四人掛けとなっているシートに桐生、高梁、森富が座っている。高梁は両腕を伸ばし、桐生と森富と肩を組んでいた。絵面だけ見れば完全に『はべらせている』構図である。


「じゃあまあ早速やけど、バス内で何もしないのもアレやし自己紹介でもしときます? オレら初見って人も多いやろうし」


 忘れてはいけないのだが、これはあくまでコンテンツ撮影である。

 この動画は編集された後、しばらくしてから『Now Tube』という動画投稿プラットフォームにあがる予定だ。

芸能系コンテンツなので当然撮影(一部はメンバーだが)も編集もプロが行う。正直バラエティ番組と何が違うのかという話であるが、こういうコンテンツでリスナーが見たいのは『素に近いアイドル』だろう。基本的には素材本来の味を楽しんでもらう、が、それではファン以外のリスナーを置いてきぼりにしてしまうため要所でバラエティ要素を入れるのだ。まあ最初はファンなんてそういないだろうし、と思いながら月島は進行に徹する。


「自己紹介ってなに言うの」


 日出からの質問に、待ってましたと言わんばかりに月島は持っていたキューシートを取り出す。一見分からないように、というかバラエティ番組のように厚紙の表紙がついている。


「えー、まず『名前』。次に『生年』、lineやね。『入社年月』、『パート』、『最近ハマってる食べ物』と、『この合宿の意気込み』でいってみよう」

「手本、つっきーお手本見せて」

「あ、オレから? ええけど別に」


 茶々を入れたつもりの水面だったがあっさり受け入れられて拍子抜けだ。不服そうに唇を尖らせていると南方に「どういうつもりだったの」と笑われた。水面は不服顔のまま、月島からキューシートを受け取る。代わりに進行しろ、ということか。


「みなもんとオレ、二年間番組の司会やっとったから」

「衛星放送だけどね、『週刊~』」

「「『ヤギリ通!』」」


 揃った声に他のメンバーは歓声を上げ、手を叩いて喜ぶ。衛星放送で放映されているヤギリプロモーション練習生主体の番組こと『週刊ヤギリ通!』のタイトルコールだ。

月島と水面は同時に司会へ抜擢され、二年間その役目を務め上げた。すなわり、水面にとっても司会業は慣れたものなのである。

月島は居住まいを正す。するとカメラが近付いてきた。


「え~、月島さん。おじい様、お父様はどちらも落語家、ということで──」

「そのミリオネアの問題前みたいなんいる?」

「ナイスツッコミ。じゃあまず『名前』!」

「月島滉太でーす」

「『生年』は?」

「98lineです。九月生まれやで」

「『入社年月』教えてください」

「2013年の十一月! オーディション番組で、日出と同期」

「『パート』は?」

「リードラッパー、サブボーカル、サブダンサー。あとグループリーダー! オールラウンダーです!」

「『最近ハマってる食べ物』」

「なんやろ。梅干し? あとお茶」

「梅干しとお茶⁉ 渋いな~……『この合宿の意気込み』をどうぞ!」

「とりあえず楽しく、仲良く、んで勝負事はガチでやる、以上」


 簡潔かつ分かりやすい、そんなお手本のような自己紹介を終え、周りからはばらばらと拍手が鳴った。水面はさすが~と言いながら月島にキューシートを渡す。受け取った月島はなんてことないように顔を作り「じゃあ次やりたい人~」と希望者を募った。

 手を挙げたのは日出だ。


「年功序列で行きますかあ」

「そうするとお兄ちゃんの次、ぼくにならない? 別にいいけど」

「いいならわざわざ言うなよ。ほら、司会進行!」

「ちゃんとした四文字熟語みたいに言うなや!」


 行くで、と呼び掛けて日出の前にカメラが迫る。


「『名前』は?」

「佐々木日出です」

「『生年』!」

「98年だけど早生まれだから97lineです。元日生まれ」

「めでたいなあ。『入社年月』はいつですか?」

「さっきも言ってたけどこいつと一緒。2013年十一月」

「『パート』は?」

「リードボーカル、サブラッパー。ボーカル隊だね」

「『最近ハマってる食べ物』~」

「コンビニで買えるパスタサラダみたいなの、色んな味あるねあれ」

「ヘルシーかよく分からんやつな、『この合宿の意気込み』どうぞ」

「滅茶苦茶にします」

「何言うとんねんお前⁉」

「めっちゃ真顔だ……」


 恐ろしく味気のない真顔でとんでもないことを言い放った日出に、斜め前に座る南方がドン引いている。発言に、というより、その表情に。チベットスナギツネを彷彿させる、無味無臭無乾燥顔である。


「せめてもうちょい楽しそうに言ってよ、日出くん」

「強い意志を込めてみました……」

「こんな発言に意志込めないでくださいよ……いっちゃんも変なこと言ってるし……」


 土屋のツッコミは尤もである。間に入ってきた御堂も御堂でわりと変なことを言っていた。何故楽しそうな顔で「滅茶苦茶にする」と言う方が良いのだろうか。


「年功序列なら続いてみなもんか」


 気を取り直した月島が水面に目を向ける。水面はというと、隣にいる南方のことは省みず両腕を使って大きな丸を作った。省みられなかった南方は窮屈そうだ、掛けている眼鏡も歪まんばかりの不貞腐れた顔を披露している。


「みなもんはちょっと隣の人のことを気にしような?」

「大丈夫! 大好きだから!」

「何も大丈夫ではない、せめて筋を通してくれ」


 手を振って大丈夫でないアピールをする南方。何回目かも分からない気を取り直して、いよいよ水面の自己紹介が始まった。


「『名前』はなんですか?」

「佐々木水面です! 日出の弟~」

「『生年』も日出と一緒なん?」

「うん、双子なので。97line、元日生まれです」

「『入社年月』は?」

「2013年の九月、実はいちばん入社歴長いんですよ」

「先輩やねんな。『パート』は?」

「リードダンサー、サブラッパー。一応ダンス隊になるのかな」

「普通にダンス隊やと思います。『最近ハマってる食べ物』は?」

「南方によく貰うからグミ!」

「グミ! かわいい! 最後、『この合宿の意気込み』どうぞ~」

「グミってかわいい? えーと、頑張って早く起きます!」

「出ましたよ、夜型……」


 苦言を呈したのは桐生である。そんな彼を横目で捉えながら、水面は誤魔化すようにわざとらしい愛嬌を振り撒く。チャーミングに振る舞ったとて休日は深夜三時まで起き、昼夜逆転常習犯となりつつある事実は変わらないが。


「てかグミってかわいいの?」


 流石に己の愛嬌だけで状況は変えられないと察した昼夜逆転男は、さりげなく先程発せられた不思議発言にツッコむことにした。月島の「グミかわいい」発言である。


「かわいいやろ。あ、でもそうするとグミあげてる南方のがよりかわいいってことになるか」

「理屈が謎過ぎないか?」


 論理的に破綻している、思わずタメ口でぶっ込んでしまった南方だ。

 しかしその破綻した論理に、より敏感に反応したのは土屋と高梁だった。ふたりとも頭上に疑問符を浮かべて目を回している。


「貰うより、あげる方がかわいい……?」

「ゆうたろうくん、かわいいんです……?」

「なんか後輩が可哀想になってきたから話変えていい?」


 南方が珍しく(というと失礼だが事実である)配慮を見せ、自己紹介は次の人物へ移った。

 ここで状況が変わる。今までは年齢順だったが、次は御堂が手を挙げたのだ。南方と同い年だが月齢では御堂の方が下、まあ何でも良いのだが、と南方自身が「いっちゃんやりたいって」と声を出したため御堂の番になった。


「『名前』どうぞ」

「御堂斎でーっす」

「『生年』は?」

「99lineの十一月生まれだよ」

「『入社年月』、そういやオレも詳しく知らんな」

「2014年の四月だから、日出くんとつっきーと半年違いくらい?」

「あ、そうなんや。えと、『パート』は?」

「メインダンサー、リードラッパー。ダンス隊の長です」

「長⁉ 古風なんよ言い方が。『最近ハマってる食べ物』~」

「腸内環境に気を遣い出したのでヨーグルトですね」

「健康志向やな、尊敬するわ。『この合宿の意気込み』をどうぞ」

「うーん、清く正しく美しく?」

「オレらはこの合宿で何をやらされるん?」


 軽い打ち合わせはしているが、細かい部分では知らされていないことの方が多い『read i Fine』である。今持っている台本にもバス内での進行についてしか書かれていないのだ。

 ちなみに編集後、この場面には『それは後でのお楽しみ』というテロップがつけられていた。不安を煽る文言である。

 御堂の自己紹介が終わり、南方の自己紹介へ移る。質問者も水面へと移った。


「お『名前』ど~ぞ」

「南方侑太郎、です」

「『生年』は?」

「99line。六月生まれです」

「いっちゃんより月齢上なんだ? 『入社年月』もいっちゃんと一緒?」

「ううん。2014年の八月、練習生になったら斎がいて驚いたパターン」

「運命力たっか! 『パート』は?」

「メインラッパー、リードボーカル。ラップを取り締まってます」

「まさかのラップ警察。『最近ハマってる食べ物』なんですか」

「グミは質問者さんに言われたんで、なんだろ、チョコかなあ」

「南方って結構お菓子好きだよね。『この合宿の意気込み』を、カメラに!」

「勉強も頑張ります」

「偉すぎてちょっと辛くなってきた」


 現役受験生であり、メンバー随一の秀才である南方は勉強でも手を抜かない。それは同じ宿舎にいる以上否が応でも理解できるが、こうした合宿の場で改めて言われるとあまりのタスク量に同情さえ感じてしまう。つい先日まで受験生だった水面だからこそ、より重たいものに感じてしまう部分はあるだろうが。

 それよりも問題は、その発言に南方と御堂がきょとんとしていたことだ。不意に南方が口を開いた。


「なんか頭痛が痛い的なこと?」

「んぇ?」

「えらすぎて辛い……って」

「しんどいすぎてしんどい、ってことだよね?」


 ね、ね、と顔を合わせて確認し合う南方と御堂。今度は他のメンバーが置いていかれる番だった。困惑するメンバーの中でひとり、土屋だけが冷静に口を挟む。


「おふたりさん、方言だよそれ」

「「あ」」


 御堂、南方、土屋は三人揃って愛知県の出身だ。そして愛知県では「辛い」を「えらい」と言うのである。関西の方でもそう言うが、と三人が月島の方を見つめると「京都ではあんま聞かへんよ」と彼は漏らす。


「でも『Seventh Edge』さんが言ってはった気はするな」

「じゃあつっきーがツッコまなきゃじゃん」

「オレにもできることとできへんことがあんねんぞ、いっちゃん」


 まさかの月島、ガチトーンである。御堂は多少反省したのか「ごめーん」と反応して、次に進むようにアイコンタクトする。自己紹介はまだ途中なのだ。


「じゃあ桐生!」

「え、俺ですか⁉」

「だって土屋がお前の方が月齢上だって言うから……」


 月島は恨みがましそうな目で土屋を見遣る。それにシンクロするように桐生も似た動作を繰り出すが、土屋はどこ吹く風といったように涼しい顔をしていた。


「真冬生まれと早生まれが春生まれを差し置いて自己紹介はできないよ」

「入社年で言うと俺のが末っ子なのに……」


 ぎしぎしと桐生の歯が軋む音が聞こえてきそうだ。

 とは言え桐生、土屋、高梁は同学年であることに変わりない。正直なところ、この三人以外のメンバーはどの順番でやろうがどうでも良く思っていた。それほど第三者にとっては瑣末な問題なのである。


「永介くん、がんばってください~!」


 高梁からのエールを受け、桐生はカメラの方を向いた。


「『名前』どうぞ」

「……桐生永介です」

「『生年』教えてくださいな」

「00Line、五月生まれです」

「春生まれ言うとったもんな。『入社年月』は末っ子言うてはりましたけど」

「えーと、2015年十月なんで、一年半くらいですか? 今」

「ぴちぴちやん。『パート』は?」

「ぴちぴち……⁉ あ、メインボーカルやらせてもらってます……」

「あとボーカルのリーダーもやってますねえ。ボーカルの要! 『最近ハマってる食べ物』も教えてください」

「やめてください……。食べ物、なんだろ、担々麺?」

「辛いん好きなんか。『この合宿の意気込み』をどうぞ」

「えー……、迷惑にならないように頑張ります」


 誰よりも控え目かつ自信なさげな決意に「迷惑なんて思ってないよお!」という日出の野次が飛んだ。大きく首を後ろにそらし、天にまで上りそうな潔い発声である。狭いバス内ですることではまったくないが。現に隣に座っている御堂なんかは耳を塞いでいた。

 気を取り直して、先程色々言っていた土屋の番。色々言っていたわりには、ひとり分しか時間を稼げていないのである。


「じゃあ土屋! 『名前』教えてください!」

「土屋って言ってるじゃん。土屋亜樹です~」

「『生年』は? 桐生と同い年?」

「そっす、00line。十二月生まれです」

「半年違いかあ。でも『入社年月』早くない?」

「いっちゃんとゆうくんと同年だから、2014年。十一月ですね」

「なんかエリートのイメージある。『パート』は?」

「メインラッパー、サブボーカル、サブダンサー。エリート、ではないです」

「オールラウンダーだからエリートじゃん? 『最近ハマってる食べ物』~」

「そういうもんすか? あー、蕎麦を食べに行くようになりました」

「わりと影響受けがちだね。『この合宿の意気込み』を、あのカメラに!」

「遠っ⁉ あ、ちが、こっちか、えー……、爪痕を残します」

「頑張るなあ……」


 一瞬カメラを見失ったが最後はきちんと締めた土屋である。

『爪痕を残す』という発言の貪欲さに一同感嘆、分かっていないのは言葉そのものを上手く理解できていない高梁くらいなものだ。そして高梁の順番が回ってきた。


「では『名前』から教えてください!」

「はいっ、高梁透アレクサンドルです」

「『生年』、生まれた年はいつですか?」

「学年? だと、00lineですが、生まれたのは三月なので2001年生まれです」

「早生まれなんやな。『入社年月』、入社したのはいつ?」

「2015年三月ですね、十四歳のたんじょう日をむかえてすぐでした」

「日本に来てまだ三年とかってことやろか。『パート』は?」

「メインダンサー、リードボーカルです。そうですね、そんな感じです」

「すごいなあ。『最近ハマってる食べ物』は?」

「おでん!」

「力強い! 『この合宿の意気込み』を、あのカメラに!」

「私がさいきょーです!」

「だから何をやらせられんねんオレらは⁉」


 何度も言うが企画内容はざっくりとしか知らされていない『read i Fine』諸賢である。

 いくら意気込みを具体的に言ったとて、その通りの企画がくるかどうかは運だ。


「緊張しないで大丈夫だよ。『名前』からどうぞ」

「えと、森富太一です」

「『生年』を教えてください~」

「01lineの八月生まれです。末っ子です!」

「末っ子だよみんな! 可愛いね!『入社年月』を教えてください」

「2015年九月ですね、その、桐生くんとほぼ同期です」

「ちょっと桐生より早いんだ。『パート』は?」

「リードダンサー、サブボーカルです」

「『最近ハマってる食べ物』はなんかある?」

「美味しい朝ごはんをどうやって作るかにハマってますけど……」

「なんかずっと白米に合うおかず考えてるよね。『この合宿の意気込み』を、あのカメラに!」

「元気よく、楽しく、頑張ります!」

「模範回答! 素晴らしすぎないかこの末っ子!」


 よくやった、偉いぞ、と他のメンバーが森富を褒め、撫でくり回す。流石の森富も迷惑そうで、対外的な苦笑を隠せていない。

 こうして自己紹介をしたところで、まだ道のりは半分弱、しかも一日は始まったばかりだ。

 果たして『read i Fine』にどのような事態が降りかかるのか──続く!

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