佐々木水面 誕生日配信【2020年1月28日】
【0:38~ 声入り】
「こんにちは~、どうも『
見慣れた会議室、背景に移る誕生日を祝う装飾の数々。それに囲まれながらカメラに向かって気さくに手を掲げて自己紹介をする水面は、練習着としてファンにとっても馴染みのあるグリーンのジャージと黒のトレーナーを着ていた。
ビーニーも黒色、こちらは髪色を隠すようにかぶっており早速コメント欄で「髪の色変えた?」などと憶測が飛び交っている。水面はよく髪色を変えるため、そうした疑問も持たれやすいのだ。
「髪色についてはもうちょっと待ってね。てかみんな、ぼくの髪色覚えてる?」
覚えていない訳がないだろう、と画面前のファンもとい“
「『紫!』『モーヴパープルって言ってなかった?』『モーヴパープル! めっちゃ好きでした!』……すごいな、みんな覚えてる。さっすが“&YOU”~!」
素晴らしい~! と満足げに拍手をする水面。そして拍手をして満足したのか、髪色という話題から離れて居住まいを正した。
「さて、じゃあ先に先週お兄ちゃんも、
沢山の「気にしないで」が流れてきて、水面は柔らかく目を細めた。上唇で下唇を食むその顔つきは、泣くのを堪えているようにも見える。大変な日々だったのだなと、薄ら想像できてしまった。
「マジで“&YOU”ってあったかいよね~。みんな見てると、ぼくらも心根の温かい人間でいないとな、って思える。良い影響をみんなから受けてると思う」
それこそお互い様だ、と画面越しにほとんどの人間は思ったのではないだろうか。
『read i Fine』が温かい人柄を持っているからこそ、自分たちも温かい人間でいようと思えるのだと。良い影響を君たちから受けているのだと。
【14:28~ マブダチに祝ってもらった話】
「誰に祝ってもらったか? メンバーには当日祝ってもらったし、家族からも連絡きたし、あ、そうそう! 『マブダチ』からもお祝いしてもらった! 先々週くらいかな」
水面が言う『マブダチ』というのはその呼び名の通り親しい友人のことだが、実名非公表ながら度々彼の話の中に登場する謎の男のことである。とはいえ、話の端々をかき集めると、あるひとりの人物が浮かび上がってくる。あえて実名を出すのは野暮なので、だれひとりとしてその者の名前を表に出すことはないが。
「毎年誕生日を祝い合ってるんだよ。ぼくがデビューする前までは、それこそ互いの家に泊まって日付変わっていちばんにおめでとう、って言ったり~。今年はさすがに直接言われてないけどね! どっちも忙しすぎたんだよ~、ぼくは零時ぴったりに透から『おめでとうございます』って言われたね。何故か一緒にいた透」
宿舎だったかな? 寝る直前で、と『マブダチ』からすっかりメンバーのことへ話題が移動してしまった。──と思いきや、
「だけどスマホ開いたら零時零分ぴったりに『マブダチ』からおめでとうメッセージ届いててさ、あいつも忙しいのにせっせとメッセージ送ってくれてるなんて嬉しすぎて、……ん? 『みなもんも「マブダチ」くんの誕生日に零時ぴったりのおめでとう送ったんじゃないの?』……ああ~、いやぼくはね電話したんだけど繋がらなくて、渋々零時十二分くらいに動画撮って送りました……電話は、だめですね……」
どうやら日付変更とぴったりに祝えなかったことが水面的にはショックだったようだ、顔色がよろしくないし表情も曇っている。
「来年、っていうか今年か、今年こそは零時ぴったにお祝いするんだ……! もうあんな悔しい思いはしたくない……! 『プレゼント貰った?』うん貰った~! 『マブダチ』かた貰ったものは部屋で使える小型のプロジェクターで、メンバーからは、そう! みてみて~」
と言いながら水面は自身の爪をカメラにアップで映してくる。彼の爪は深い青、しかし光の加減で赤く見える不思議な色に染まっていた。
「えいちゃんからマニキュア貰ったの~! すっごい不思議な色してない? めっちゃ気に入ってるんだよね~」
メンバーの
「ああいう気遣いのできる大人になりたいな~」
あえて言っておくが、桐生は水面より三学年ほど年下である。
【18:39~ 手紙コーナー】
「みなさん、例のブツはこちらにありますよ~」
水面がさながらババ抜きの手持ち札のようにして見せたのは、パステルオレンジの封筒だ。この中にメンバーが書いた手紙がそれぞれ入っている。
誕生日配信恒例の手紙コーナー。誕生日だからこそ今まで言えなかった感謝や苦情などを手紙にしたため、読んでもらうという企画である。
「まあまずはお兄ちゃんがなにを書いてるか確かめようか」
そう言って抜き出した封筒は実の兄である、佐々木日出のものだった。
「クソ短い! ウケる! さすが兄弟! え~っと、
『水面、誕生日おめでとう。まあ俺もだけど(笑)。色んなところで言ってるから知ってると思うけど、俺はお前がいたからここまで頑張ってこれたと思ってる。これからもよろしく頼みます。愛してるぜ。佐々木日出。』
ぼくも愛してるぜお兄ちゃん! 改めて文字にされると嬉しいねえ」
相好を崩しながら手紙を封筒に再度押し込む。日出がヤギリプロモーションのオーディションを受けたのは、水面が先んじてヤギリのスカウトを受けたことがきっかけとなっている。その話が出る度に日出は「水面がスカウトを受けてくれたからこそ」と自分の今について語ってくれていたのだ。
そこを再三話す形となるが、こうして本人の直筆で貰えるのはよっぽど嬉しいことなのだろう。ニコニコしたまま水面は封筒を開く、次は末っ子、
「頑張って書いてくれたんだね~。
『佐々木水面くん、お誕生日おめでとうございます。突然ですけど水面くんって不思議な人だな~と思います。グループでいちばん自由そうなのに、実はメンバーをちゃんと見ているし色々助けてくれます。なんか助けてくれなさそうなのに(笑)。』
そんな風に見られてたのぼく⁉ 偏見だよそれは!
『あと案外きびしいですよね、そのきびしさに愛情を感じています。愛を持って人にきびしくするのって難しいことなのに、水面くんは朝ごはんを食べるみたいに愛あるだめ出しをくれて本当に有り難ないなあと思います。これからもそんな水面くんでいてください。大好き! 森富太一。』
最後の『大好き』ですべてがどうでも良くなってしまった……恐るべし末っ子」
怖いわあ、と唸る水面であるが正直なところ水面自身がかなりチョロいだけだと思われる。現にコメント欄は「チョロい」の四文字で埋まりまくっていた。
「チョロくないし! みんなだって太一から『大好き』って言われたらどうでも良くなると思うよ! これは賭けてもいいくらい!」
水面のその発言により、七割ほどが「それはそうかも知れない」という肯定意見に変異していた。恐るべし末っ子パワーである。そんな掌返しのコメントを見て満足したのか、水面は鼻息荒いまま封筒から手紙を抜き取った。
「誰だろ、実は封筒の名前を見ていないんだな~と、
『みなもん、お誕生日おめでとうございます。みなもんとは宿舎で初めて同室になった頃から、何となくなあなあで仲良い? みたいな感じですよね。中途半端、というか。俺的には最近もっと深く仲良くなりたいな、と思ってるんでがっつり絡んでもらってもいいくらいなんですけど、グループ結成してすぐのあれこれでみなもんはかなり遠慮をしてるなと思いました。』
よくもここまでいけしゃあしゃあと身から出た錆みたいな話できるなお前……。
『まあ俺の行いが悪いからなんですけどね(笑)。』
分かってんじゃん⁉ 今までの前振りなんだった⁉
『ひとつだけ思うのは、みなもんが塞ぎ込んで考えるようなことは絶対言葉にして誰かにぶつけた方が良い、ということです。これは俺にはあんまり当てはまらないんだけど、俺は言葉がどうしても攻撃的になっちゃうから、でもみなもんは違うでしょう?』
侑太郎が言うと妙に納得するけど納得して良い内容なのこれ?
『配慮をして、言葉を考えた上で「どうせ言ってもな」みたいな気持ちになって言わない。それはとてももったいことだと思います。ぶっちゃけ言ったもん勝ちみたいなところが世の中あるので、どんどん不平不満・怒り悲しみ、言っていこう! 少なくともうちのメンバーで否定する人は誰もいないと思うから。そんな感じで、今年も健康に幸せに過ごしてください。よろしく。南方
ツッコみどころが多すぎて笑う、や、笑っていいのこれ……? 少なくとも侑太郎はカウンセラーには向いてないことが分かった。メンバーだから、納得はできるけどさあ~」
一緒にいる時間の濃さを舐めるなよ、と水面は渋い顔をしたまま封筒に手紙を仕舞う。自虐と自尊と他者分析が折り重なる『南方節』の利いた手紙だ。咀嚼するのに少々時間がかかる。
「今年はもっと侑太郎と仲良くしてやろうと思いました……、はい、じゃあ次!」
深掘りすると余計なものまで掘り起こしそうだと察知した水面は、とっとと違う話題に移る。続いてはこの雰囲気を払拭してくれるだろう、しごできリーダーこと
「『みなもんへ、お誕生日おめでとう! ほぼ同い年だと思ってるみなもん、だからみなもんが二十二歳だと思うとオレも老けたなあとしみじみしてしまいました。初対面の時まだオレは中学生だったのに、もう二十代になって二年、とか考えると時の流れの爆速さに恐れ慄いてしまいます。』
このペースだとあっという間におじいちゃんですね~。
『まあだからと言ってみなもんが年の分だけ変わったか、と問われてばそれは微妙です。』
おっと? 風向きが怪しいぞ?
『本質は何も変わってないと思う。オレはみなもんがボーカルポジションをやめて、ダンスポジションに移った頃から知ってるけどその時から何も変わってない。自分を売り込むためにわざわざ苦手に挑戦するところとか、克服することに躍起になっているとことか。多分大学でもそんな感じに過ごしてるんじゃないかな。その姿勢にオレはすごく励まされたし、オレ以外の人間もきっとすごく慕ってると思う。ああでなきゃ、みたいな、お手本的な人物だと思うよ。』
良かった、風向き怪しくなかった……ありがとう、そう言ってもらえて嬉しい……。
『周りにはそんな風に見られてるから、「read i Fine」では逆にうざ絡みの佐々木水面として序列下の方でのんびりしてもらえれば、と思います(笑)。今年も仲良くしようね! みんなのリーダー、月島滉太。』
誰が序列下の方なんだよ……お前の方が下だろ……」
グループ内で序列最下位争いをしているふたりである。扱いの雑さは月島に対しての方が酷いが、いじられ具合は水面の方が酷い。現状甲乙つけがたいふたりなのだ。
月島の言葉に納得がいかないまま水面は次の手紙を開く。
「長い、より字が小さいことの方がきついな……目が悪いので。じゃあ、読みま~す!
『みなもんへ。お誕生日おめでとうございます。みなもんと出会って三回目の誕生日、祝えてとても嬉しいです。ケーキは美味しく食べてくれましたか? 初めて作ったにしては上手にできたと思っています。また来年も作るので、より美味しく作るのでぜひ食べてあげてください。僕は死ぬまで佐々木兄弟の誕生日ケーキを作る人でありたいと思います。おじいちゃんになっても作ります、柔らかいケーキにしますね。』
もう老後のこと考えてる……先のことを見越し過ぎなのでは。
『みなもんに対してはひとつ謝らないといけないことがあります。』
えっなに、こわいこわい。
『というか、僕がずっと気にしているだけでみなもんにとっては些細なこと、そんなこと? と思うようなことかも知れません。それは「read i Fine」が結成してすぐの頃、ポジション決めをした時のことです。僕はメンバーの支持や推薦を受けて、グループのダンスを指導する側、いわゆる「ダンスリーダー」というポジションにつきました。個人的には名誉なことと言いますか、今までもそういうポジションについたことはあって慣れていたので普通に受け入れてしまったのですが、みなもんはその時どんな気持ちだったのだろう、と時折考えてしまいます。』
や~うん……ごめん、そんなことで悩んでらっしゃったのかい、いっちゃん。
『実はグループでいちばん実力主義なみなもんのことですから、』
そそそんなことないよ! 図星っぽい言い方になっちゃった!
『「いっちゃんがいるなら当然の采配だよ」と言ってくれるような気がします。そもそもこれは言われた記憶があります、ただちゃんと本心なのかなと自分が弱っている時にちょっとだけ考えてしまうのです。で、思い出したのはダンスリーダーに任命された時、僕はその時に抱えていたちょっとした不安をみなもんに話したり、みなもんから助言を貰おうとしなかったこと。自分の中にある弱さを押し殺して、最年長メンバーを差し置いて自分がリーダーになったのだからそういうところは見せてはいけないと無駄に律してしまった、これが良くなかったのかなと思います。』
……うん。そうだねえ。
『みなもんは決して頼られないからと言って他人を見限ったり、不貞腐れたりするような人ではない、ということを知っていたのに。僕は何だかんだずっと不安でした。技術面なら兎も角表現の面ではまだまだ引き出しが足りていないことを実感しているので、その部分をもっとみなもんに相談すれば良かった、そう思っています。そしてそれを言わず、みなもんを頼れなかったことを今、このタイミングで謝りたいのです。』
マジで謝るようなことじゃないと思うよ。いっちゃんのダンスリーダーに不満を覚えたことなんてマジの一度もないし、でも、謝りたいって思うならそうなんだろうなあ。
『長くかかって、ごめんなさい。』
いいよ、こっちこそ上手く伝えられなくてごめんね。
『僕はこれからもみなもんと色んなものを作っていきたい、そのために力を貸して欲しいのです。できないことに対して直向きで、演技経験からの多彩な表情管理とジェスチャー、アクティング、そのすべてが僕にないものを持っていると思います。これからもより良いものを一緒に作っていってくれますか? グループでいちばん尊敬している先輩、佐々木水面が言葉をくれればもっと良いものができると思います。返事は要りません、これを祝辞の代わりにします。僕はずっとあなたを必要としています。御堂斎。』
……返事、させろよお! ぼくだって色んなものを一緒に作っていきたいわ! 御堂斎見てるか⁉ 答えはもちろんイエスだし、ぼくだっていっちゃんを必要としてます! いなくなったら困るってことをわかれ!!!」
壊れものみたいに扱いやがって! と今度は逆に丁重な扱いに怒り心頭な水面である。しかしその顔には薄く笑みが広がっている。『グループでいちばん尊敬している先輩』と言われたことが嬉しかったのだろう。ぽつりと「初めて言われたよそんなこと~」とはにかんでいた。
「いっちゃんは日頃からもっと素直になった方が良いね、うん」
お前が言うか、と言われそうな発言だった。
続いて引き出したのは明らかに厚みの違う封筒。触っただけで水面は察した、これは
「『水面くんへ。まず、この手紙は一度ロシア語で書いてから、』
はい、存じ上げているので割愛します。ロシア語、英語、日本語という順番で翻訳してるから、内容変かも~ってことね。
『お誕生日おめでとうございます。出会ってから、三回目の水面くんの誕生日です。今年も祝えてとても嬉しいです。この三年で水面くんとは感性が似ているということが分かってきました。一緒に美術館へ行ったことを覚えていますか?』
当然だよ、お前が行きたいってぼくに言うの珍しすぎて、記憶喪失してもそれだけは忘れない気がする。
『私が「行ってみたい」と言った展示が水面くんも好きなジャンルのもので、ふたりでぐるぐると展示会場を回り続けたことを覚えています。結局半日くらい美術館にいましたよね、あの日はとても楽しかったです。おそろいのTシャツも買いましたね、たまに着ています。』
ぼくも大学に着てってる~。教授からの覚えがめでたいんです。
『あの展示を一緒に回って思ったのは、水面くんはとても多彩な色の絵を描くけれど現実の世界をそう見ているかというとそれはちがうんだろうな、ということです。水面くんにとっての世界はきっと、もっとモヤがかっていてくすんでいて、もしかするとモノトーンに近い色味なのかも知れないと思います。』
大分本質に近いとこついてきてない? 鋭くない?
『世界を素敵に見られていない、ということじゃまったくなくて、世界の必要なところにしか色を分けあたえられていないのだと思います。というか、色が沢山あっても素敵なのでしょうか。正直びみょうです。世界をサイケデリックに見られる人が素敵に世界を見ているのでしょうか。水面くんは大事なところで、ここだ! というところに色を与えているのだと思っています。自分で好きに色をあたえられる人なのです。』
すっごい感覚的、でも分かる気がする。なんだろう、絵の下書きするときに仮の色乗せるみたいな、大体こういう色彩バランスにしようって決めるみたいに世界見てる気がする。
『だからパフォーマンスもくどくないんです。すべてに色をつけている訳じゃなくて、自分でここぞというときを決めて、そこに色を滲ませる。歌声もそうですしダンスもそうです。感情を乗せて歌うというより、色を振りかけて歌う。気持ちを込めて踊るというより、メリハリを着色して踊っている。そんな感じがします。』
パフォーマンスの時は特にそれをやってますしね。
『水面くんの踊り方は、私たちダンス隊の中でもいちばん感覚的で感傷的です。斎くんは表情管理と引き算の人ですし、私もどっちかというと表情管理で、あと足し算です。太一はコレオグラファーの人が表現したいことを的確に抜き出して踊っています。水面くんは別回路でコレオを解釈しているんだなと思います。上手く言えませんが、私はそれが好きです。
これからも「read i Fine」の極彩色としてグループを彩ってください。その色合いをみんな愛していると思います。もちろん、私も愛しています。高梁透アレクサンドル。』
最後はお決まりの、誰にでも言ってる告白だなあ。愛に生きている」
自分の感覚をこう分析されるのは滅多にないことだ、と水面は笑いながら手紙を封筒に仕舞う。むしろ自分が今まで誰にも分からない、と思って言ってこなかった部分だった。南方の手紙を伏線回収してしまって、何だか微妙な気持ちになった。
「あとえいちゃんとあきさま? どっちかな~、と、えいちゃんか。
『佐々木水面くん、お誕生日おめでとうございます。ここだけの話、「read i Fine」が結成されていちばん絡みづらかったのが水面くんです。』
嘘でしょ……、お兄ちゃんより絡み辛いのぼく……。
『水面くんはふわふわしているように見えてものすごく現実主義だし、うざ絡みをしてくるわりに関わり方に線を引いたりと最初はどう接していいか分からない人でした。掴めてきたのは二年目から、今では一貫した考えを持つ不器用な人なんだなと思っています。』
不器用⁉ ……嫌味とかじゃなくて、マジでこれは初めて言われた……。
『不器用さは悪いことじゃないと思います、むしろ取り繕うことがなくて本質から素敵なことが分かるので良いと思います。これからもありのままの自分を愛してください。俺もありのままの「佐々木水面」をこれからも愛します。桐生永介。』
え~んえいちゃん~! ぼくも愛してるよ~!」
いちばん心にしみわたる手紙だった、と水面は最後の手紙を手に取る。
「『佐々木水面様。お誕生日おめでとうございます。この一年が、滉太くんにとって良いものになるよう心からお祈り申し上げます。』
堅い堅い堅い!
『このグループ「read i Fine」の年長組と呼ばれるメンバーは所謂オールラウンダーばかりだと思いますが、三者三様の特色があると思っています。水面くんの特色は、三人のなかでいちばん努力によって実力をつけてきた、という点にあると思います。ダンスポジションを選んだ理由も、だからと言ってボーカルレッスンを疎かにしなかったことも、今はラップに力を入れている姿もどれも尊敬ができます。』
えへへ、実は尊敬されまくりなんだねぼくって~調子乗っちゃう~。
『滉太くんと日出くんに努力が足りていない、という訳ではなく水面くんがいちばん必死にやっていたと俺は思うのです。未だに練習生時代、個人練習をしていた様子が色濃く思い出されます。鬼気迫るとはまさにあのこと、水面くんのことを怖い先輩のように語る後輩が多かったのも頷けます。』
調子乗れなくなったな⁉ え、こわ、怖いのぼく……?
『あなたは自分の努力不足がいちばん許せなかったのでしょう。誰よりも努力をしていたはずなのに、誰よりもその努力を足りないと思っていた。想像を絶する苦しみだと思います。そしてそれはデビューしたからといってなくなるものではありません。ただ、その苦しみを共有させてほしいと思いました。』
なんか、ぼくの後輩へのイメージ大体そんなんなんだ……抱え込んでる、のかなあ、うーん……。
『俺らは水面くんと同じグループのメンバーです。同じ物事に相対し、同じ問題に直面していることが多いです。どうか自分ひとりで抱え込まず、俺らを使って苦しみを軽減してください。しなければいけない努力の量は増えていくばかりですが、その分楽しいことも多かったと記憶してください。俺にその手伝いをさせてください。一緒に幸せになりましょう。土屋亜樹。』
でたよ最後のプロポーズ! 分かったこれからも一緒に幸せになろうね! 約束だよ!」
【51:48~ 最後の挨拶】
「はい~、という訳でもうそろそろ終わりの時間です~早かったね~。
悲しい顔しないで、またすぐ会えるから! 具体的にどこで会えるかは情報解禁日を待つとして、うん、あの本当にもう、すぐに! 会えるので全然悲しまないでください。マジで嫌だ! ってくらい顔を見ることになると思うからね。
まあそんな風にみんなと会える機会が沢山あるっていうのは、何を隠そう“&YOU”のみんなが頑張って応援してくれてるからなんだけどね~。知ってるよ? 雑誌にもテレビ局にも色々お便り出して応援してくれてること、ちゃんと全部知ってるし分かってるから。
……この一年、本当に幸せ者だなと、我が身を省みて思うことが多くなりました。表現してそれを受け取ってくれて、同じような気持ちになってくれたり、思い付かなかった視点からの感想を貰ったり、とても幸せなことだと思ってます。こんなの、なかなかないからね。ぼくらの曲やパフォーマンスでどこまでも繋がっていけるんだな、って。
これからももっと活動的に、精力的にアイドルやっていこうと思いますので、是非とも無理しない範囲で応援してくれたら嬉しいです~!
それじゃ、またね! ばいばい!」
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