佐々木日出 誕生日配信【2020年1月20日】

【00:21~ 声入り】


「どうも~おばんです。じゃあ早速やっていこうかな」


 画面に映し出されたファンなら知っていて当然の会議室、そして誕生日祝いを彩る背景の装飾。その中心で佐々木日出ささきひのでは、スウェット上下とダウンジャケットを身に纏いカメラに──正確に言えば画面の向こう側にいるファンに手を振った。


「なんでダウン着てるのか? 寒いから、さっき来たばっかで全然暖房利かないんだよ」


 飾り付けをしてもらってから日出がここに来るまで、それなりのタイムラグがあったらしい。掌を両脇に突っ込み、いかにも凍えている雰囲気で日出は撮影用のタブレットの画面を覗き込む。

 どうやら画面分割にしているようだ。半分は配信画面、そしてもう半分は恐らくファンクラブのチャット画面だろう。ファンファーストな彼らしい配慮だ。


「ああ、そうだ。謝らないといけないことあったね」


 何かを思い出したかのように日出は呟く。


「まず、当日に配信できなくてごめんなさい。大晦日から年明け、元日とスケジュールが詰まり過ぎてて長時間の配信の時間がどうしても取れなかったんだ。それと、誕生日から配信日まで時間が開き過ぎててごめん。これも似たような理由です。その代わり、今日なら何時間でも付き合えるから。……折角お祝いしてくれるって言ってくれたのに、待たせてごめんね」


 小首を傾げて伺うように漏らす日出、チャット欄では怒涛の勢いでコメントが流れている。ファンクラブのチャットもだし、動画配信プラットフォーム『Now Tubeナウチューブ』のチャットも同じような有様だ。

 流石にコメントが拾い切れないのか、目を細めてとんでもない勢いのチャット画面を見つめた日出は「なんか許してくれてる気がするな」とぽつりこぼして改めてカメラに向き合った。


「“&YOUエンジュー”が優しくて俺はとても幸せですっ。じゃあお祝いしてもらおうかな、俺もみんなに沢山『ありがとう』って言いたかったんだ」



【8:26~ 弟・水面みなもとの思い出】


 話題は何故か、過去の祝われ方についてと変遷していた。


「同じ誕生日だからって特別なことは何もなかったと思うけど。……まあケーキはひとつだよ、そりゃそうだ。でも晩御飯は好きなものをそれぞれ作ってもらえたね、他のきょうだいの誕生日よりメインディッシュが一品多かった」


 日出くんは何が好きだったの? というコメントを見つけたのか、日出は「俺がいつもリクエストしてたのはね」と話を続ける。


「弟もそうなんだけど、米が好きなんだよ、俺。特に洋風のおかずで食べる米が好きだったから、クリームコロッケをね、頼んでました、いつも。弟は唐揚げをいつも頼んでて、だから、あのね、大皿ふたつに山盛りのクリームコロッケと山盛りの唐揚げが並べられてたんだよ。今思い出すとわりと壮絶な光景だった」


 今年は何食べたの、と日出はコメントを読み上げる。今年かあ、と視線を上に向けて考え始める日出。


「……当日は、全然ゆっくりできなかったからファストフードでしたね。でも次の日、全員午後からオフだったから、なんとね、いつき亜樹あきがご飯とケーキを作ってくれたんですよ。いやこれね、すごくてね」


 急に前のめりになって話し始める。拍手をひとつ打ち、日出は嬉々とした様子で軽やかにトークを続けた。


「斎がケーキ作ったのかな? なんか、前の日から下準備してくれてたみたいで。あんな忙しかったのに、プロかよ! みたいなケーキ作ってくれたんだ。で、亜樹が主にご飯を作ってくれたんだけど、茄子とトマトソースのグラタンですよ。あとクリームシチュー、それに白米です」


 とても美味しかった、と日出は満足そうな笑顔を浮かべる。

 普段からどことなく斜に構えている、冷静にはちゃめちゃをしてしまう人間の、何の変哲もない幸せそうな笑みだった。


「なんか、こういうのいいな、って真面目に思った。俺、こういうの好きだったって思い出せたというか。……それくらい年末忙しかったんですよ」


 大きく溜息をつくその顔も、どことなく幸せそうに見える。

 非常に充実した一年を過ごせたようだった。



【22:19~ お手紙コーナー】


「佐々木は短い、佐々木は短い、ということで水面は最後にしてやろう」


 真っ白な封筒を光に透かすようにかざし、日出はどの手紙から読むか選別を始める。

 誕生日配信恒例のお手紙コーナーだ。ここでは、メンバーが日頃伝えられない感謝や好きなところ、苦情を手紙にしたためそれを読み上げるのである。

 日出は鼻歌になりかけている声を上げながら、ひとつの封筒を天に掲げた。


「長いと噂のいっちゃんから行きますか」


 そう言いながら封筒を開き、明らかに枚数のある便箋を開いた。

 開いた瞬間、日出は眉をひそめる。文字の小ささとその密度に驚いてしまっていた。


「ここまでとは聞いていない」


 最早これが苦情みたいなものだ。

 読むの? 俺が? とジェスチャーをし、カメラ向こうにいるスタッフへ思いを伝えるがあっさり棄却されたようだ。いそいそとダウンを脱いで、日出は手紙を読み始めた。


「『日出くんへ。お誕生日おめでとうございます。日出くんもデビューして初めて、read i Fineリーディファインになってからは三回目の誕生日ですね。ケーキ、喜んでもらえましたか? 初めて作ったわりには会心の出来でしたので、喜んでもらえたらとても嬉しいです。』


……待って? あれ、処女作なの? あれで?


『日出くんとは僕が入社した時からの付き合いになります。というのも、僕は入社した時点でそこそこ踊れたせいでわりと色んな現場に行かせてもらっていたからです。正直日出くんとどこで初対面だったかは思い出せませんが、結構早く知り合った印象があります。』


これね、俺もそうなんだ。どこが初めましてなのかまったく覚えてないけど、新しく入社した御堂くん~って紹介された記憶はあるんだよ。どこだったかな、マジで。


『日出くんと僕は、入社歴では一年程度しか変わりませんが芸歴は段違いで日出くんの方が長いです。そのため第一印象は「ベテランの人と一緒だ」でした。実はかなり緊張していたのです。』


あ、そうなの? お前って緊張するの?


『ただその緊張はすぐ解けました。日出くんがあんまりにも人懐っこく接してくれるおかげで。』


人懐っこい……大分、良く言ったね……。あの頃の俺、その言葉だとかなり気遣い屋みたいに聞こえるんだけど……。


『だる絡み、と言った方が良いかも知れませんね。』


そうだよ、それが正解だよ。


『ただあのだる絡みがあったからこそ今の僕らの関係があって、もしかすると「read I Fine」の結成に繋がったのかも。そう思うとかなり重要な分岐点じゃないでしょうか。日出くんはあのだる絡みで人と人を繋いできたのです。わりと真面目に言っています。茶化そうとしないでください。』


茶化そうとしたのがバレたから真面目に読みます。


『自分の弱さを見せるように触れ合う、これは僕にとって非常に難しいことでした。今なら兎も角、入社してすぐどころか「read i Fine」になってすぐの頃にもまったく実行できず日出くんに怒られてきた記憶があります。弱さを見せないと、誰も弱さを見せてくれない、助けてくれないんじゃなくて助けてあげられない、と教えてくれたのは日出くんでした。』


教えた記憶はないんだけど、背中を見てくれた、ってことだな?


『僕は日出くんの、弱さも強さも自分である、という部分が大好きです。愛しています。強い日出くんに憧れて、弱い日出くんを守りたいと思っています。だからこれからも思う存分頼ってください。日出くんに頼られることは、リファインのメンバーにとってはある種の誉れなんですよ?』


そうなの? 勝手に栄誉化されてんの?


『次のケーキはもっと美味しく作ります。来年もお祝いさせてね。御堂みどう斎。』


死ぬまでお祝いさせてあげるから覚悟しておけよ。御堂のケーキ百個食べるからな」


 御堂の手紙を読み終わり、充足感に満ち満ちた表情で次の手紙を探す日出。手にした封筒を一転して渋い顔で開け、口も開けた。


「ではでは、愛しの末っ子からのお手紙を読もうか。


『日出くん、お誕生日おめでとうございます。俺からの誕生日プレゼント、気に入ってもらえましたか? あげてからずっとそのことが気になってちょっと眠り辛いです。』


眠れない、じゃなくて、眠り辛い、のが太一らしいな。ちゃんと眠れてはいるんだ。プレゼントは嬉しかったし、めっちゃ使ってる。あのね、お洒落な水筒を貰ったんです。


『気に入ってくれたなら嬉しいなあ、気に入らなかったら来年を期待してください。俺は今のところ伸び代しかないんで! もっと日出くんが楽できるように頑張りたいです。』


俺、そんなに無理も苦労もしてるつもりないんだけど……?


『日出くんは色んなことを流れでやっちゃいますけど、実は普通にとんでもない量の仕事を抱えているんですよ? 気付いてました? 気付いてないならこれから気を付けてくださいね。』


あ、はい……すいません兄貴……。


『ちゃんと謝ってくれるなら許します(笑)。これからも可愛い末っ子として、長男を頼もしく支えていきますのでよろしくお願いします! 森富太一もりとみたいち。』


どっちが年上かまったく分からないな。俺が年上です、一応」


 真剣な顔で自身に指をさす日出であるが、四学年も上であるのに『一応』は流石にすっとぼけ過ぎだろう。実際、考え方等森富の方が大人びている時は多い。しかしそれも自分たちのような年長者の影響があるからだろう、と日出は推測していた。

 結局のところ気を遣わせているのだろう、と。まあ今の手紙を読むに杞憂のようだが。


「太一は自分でちゃんと考えられる偉い子だから。じゃあ気を取り直して次ー、は、滉太を行ってみようか。


『日出、お誕生日おめでとう! 日出とは入社してからの付き合いだからもう六回目の誕生日になるね。六回目になると今更言うことがない……とか、嘘嘘(笑)。毎年こうも言いたいことが変わるのか、と驚いています。じゃあ今年の言葉を今から言いますね。』


……こいつ、言うことないわ、って手紙書いた俺への意趣返しじゃん。絶対そうじゃん。


『日出は本当、年々綺麗になるね。』


っはあああぁあ~……、自分の声で音読、きっっっつ!


『垢抜けとか言われてるようだけど、正直そんなレベルじゃないと思うよ。やっぱり元が良過ぎるから。今年こそは日本文化遺産級イケメンの一位取れるって思ってるし。』


やめろやめろ、本当にきついって、マジで。


『ちなみにお前はきついって思ってるかもだけど、俺はちゃんと本心で書いている。』


心を読むな!


『今年もお前の美の成長を間近で見られて大変光栄でございますことです。それ以外の成長も間近で見れて嬉しいけどね。歌もどんどん上手くなるし、ダンスも過去イチで上手いと思ってるし演技力も若手アイドルだと群を抜いていちばんじゃないか? 本当に最高だよ、お前。』


流石に褒めすぎ……いやお前はそういう奴だって知ってるけどさ……。


『お前がライバルで一緒のオーディション出れて良かったし、お前が同期で事務所に所属出来て良かったし、お前がメンバーにいるグループでデビューできて良かった。まぎれもなく、俺の人生最大のキーパーソンだと思ってる。本当に愛してるよ。』


……俺も愛してるよ。


『今年も一緒に美味しいもの食べて、一緒にめっちゃ笑おうな、約束だからな! みんなのリーダーで、お前の! 同期、月島滉太つきしまこうた。』


なんて恥ずかしい手紙なんだろう……。お焚き上げします」


 燃やすのか、とコメント欄は一斉に驚く。

 実際日出は恥ずかしがっている。耳どころか首まで真っ赤にし、顔が赤くなっていないのがおかしいくらいだ。手で自身の顔を扇ぎながら、日出は次なる封筒を手に取った。


「亜樹からの手紙。意外とかたいと噂だけど、なんだ、ちゃんと紙じゃん」


 その『かたさ』は手紙そのものの材質の話ではない。


「えー、


『佐々木日出様。お誕生日おめでとうございます。この一年が、日出くんにとって良いものになるよう心からお祈り申し上げます。昨年は紛れもなく躍進の年ではなかったでしょうか? お芝居のお仕事と、宣伝のためのバラエティ出演。何度デビュー曲をひとりで踊り、何度ドッキリを仕掛けられたのか、どれも想像以上の撮れ高で大変驚きました。』


これはいじってないか? なあ、亜樹、いじってるだろ?


『日出くんには結成当初から色々と御面倒をおかけしました。喧嘩の仲裁に悩み相談、レコーディング中の無茶振りなど下げる頭がないほどあなたには負荷をかけてきました。本当に申し訳ございません。これからも宜しくお願い申し上げます。』


負荷掛けられまくるのか、末っ子の手紙を見習えよお前。


『とは言え、日出くんは世界にひとりしかいませんし、「read i Fine」に日出くんがいなくなると多大なる損失が生まれます。たとえば、私が寂しくなる、とか。』


……おう、ちょっと気分が良くなったな。


『歌やダンスといった根幹を支えるもの、グループ内では演技の第一人者であること、そして私たちの最愛にして敬愛すべき兄であることは紛れもない事実です。どこにも行かずにずっと一緒にいてください。弟からの我儘だと思って、しょうがないなあ、と笑って受け入れてください。そして、一緒に幸せになってください。土屋つちや亜樹。』


誰にでも言うプロポーズ、とか言われてたけど、俺への内容ちょっと変わってたよね? ふふん、非常に良い気分である」


 鼻高々を顔の角度で表現し、日出はこれ以上なくにこにこしながら手紙を封筒に仕舞う。余程土屋からの手紙が嬉しかったのか。カメラのレンズに向ける表情は、にこにこ、から、にやにや、に変わりつつあった。


「この調子で南方行っておこうか。あいつもデレるのか、どうなんだろう……。


『のでさんお誕生日おめでとうございます。早速だけどのでさんに文句というか苦情があります、心して聞いてください。』


いきなりなんだよこいつ。滉太と同じパターンじゃん。


『俺は、のでさんの前ではカッコよくいたいです。』


情緒がジェットコースターになるって! ときめくだろ!


『だけどのでさんの前だとなかなかカッコよくいられません。というのも、のでさんの生来の兄力が働いてしまうからです。俺の方が純然たる兄なのに、なんでのでさんに負けてしまうのか。きっと芸歴の差だと思います。』


……要するに、兄としてしか生きてきていない侑太郎が弟でもあり兄でもある俺に兄面ばっかされてちょっと悔しい、ってこと? 何その可愛いやつ。


『当然なんだけど、のでさんには尊敬するところが沢山あります。ストイックだし歌も演技も上手いし、ビジュアルも良いし面白いし撮れ高大魔神だし。』


最後のは褒め言葉なのか?


『なんでもできるじゃんこの人、と思ってちょっと悔しいです。ちゃんと色んなとこで不器用なことは知ってますけど、それを上回ってカッコいいのは流石にずるいと思います。』


うーん、可愛い奴だな……。それしか分からん。


『という訳で勝手に、今年の目標は「侑太郎がいないと俺もうダメダメだよう」と言わせることです。俺の前ではダメダメになってください。俺は猫ちゃんがなんか言ってる…(笑)と思うことにします。』


お前、さっきまでの俺への褒め言葉嘘だったの? 猫ちゃんだと思ってんの?


『精々足掻いてください。今年カッコいいのは俺の方ですから。南方侑太郎みなかたゆうたろう。』


なんか宣戦布告みたいな形で終わった……」


 別に俺はそんなにカッコよくないよ、と日出はひとりごちる。


「何でもできるようにしたのは、『そう』じゃないと誰も見てくれなかっただけだし、そんな良いものじゃないから。憧れてもらえるのはありがたいというか、その、わりと困惑が勝る感じがする。でもまあ、嬉しいですけどね」


 次だ次、と日出は少し湿っぽくなった空気を払拭するかのように封筒を選ぶ。


「桐生、え~すけ~! では行ってみよう。短い。


『佐々木日出くん、お誕生日おめでとうございます。同じボーカルラインとして、俺は誰よりも日出くんと歌の話をした自負があります。表現方法や技法、曲の解釈について、話をするたびに「この人本当にすごいんだなあ」と思います。覚えていますか? 最初の曲、「Type-EXタイプイーエックス」について話したことを。』


懐かしいな、『Type-EX』の何が『EX』なのか、ってとこだろ?


『あれで日出くんが「何か分かんないけどすごい人」から「ちゃんとすごい人」になりました。小さなものの積み重ねがすごい人なんだと、俺はそんな日出くんとこれからもずっと歌っていきたいです。今度はデュエット曲を披露しましょう、今まで何だかんだやってこなかったので、約束ですよ! 桐生永介きりゅうえいすけ。』


うっす約束。あのね、今まで話はあったんだよね、ボーカルラインでのデュエットっていうかユニット曲? だけど上手いこと入るアルバムがなくて、ちょっと次のアルバムには期待しててください。頑張るので」


 日出の「期待して」という発言にコメント欄が活発となった。それを見て、嬉しそうに目を細める日出である。この人物が最もアイドル向きである部分こそが、ファンを喜ばせたいといちばんに考えているところ、かも知れない。


「アレクサンドルのやつを読むか。最後は水面なので、……う~ん長い!


『日出くんへ、この手紙はロシア語』ちょっと割愛」


 過去の配信でもずっと言ってきたやつだもんね、と恐らくカメラ後ろにいるスタッフを見渡し日出は口角を上げる。問題は口角を上げただけで、特に笑っていないというところだ。


「続き~。


『お誕生日おめでとうございます。出会ってから三回目の誕生日ですね、日出くんももう二十二歳ですか。……大きくなりましたね。』


言葉大分選んだ臭いな。良いんだよ、普通に『老いぼれた』って言ってもらっても。


『日出くんはきっとメンバーのみんなが自分のことを「猫ちゃん」と思っていることを知ってると思います。私もそう思っています、猫ちゃんだなあ~と。でもどこがどう猫ちゃんなのか解説されたことはないんじゃないですか?』


猫ちゃんなのを実況されたことはあるけど、解説は確かに……どういう発言なのこれ。


『日出くんの猫ちゃんみたいだな、と思うところ、まず顔です。猫フェイスです。次にべたべたするのが好きなのに、べたべたされる時は気分によるところが大きいところです。私がくっつきに行っても、気分が乗らない時は拒絶されます。少し寂しいですが、そういうものだともう諦めています。』


なんかごめん……。


『それと、実は結構寂しがり屋で自分のことを見ていないと怒るところは猫ちゃんぽいなあと思います。猫ちゃんというか、小さい子みたいです。自分がやったことを認めて欲しい、褒めて欲しいとぱっと見分からないけど強く思っている。私は日出くんからそういう雰囲気を強く感じる時があります。』


解説されるの恥っず! え、てか、俺そうなの……?


『賞を獲った時や、レコーディングで上手くいった時、自分が何かを成し得た時にそろりと誰かに近付くのは褒めて欲しいからなんだと思います。そこにはちゃんと自覚的になった方がいいと思いました。確かに悔しいと思う気持ちがないとは言いません、でもそれは努力が足りていない自分に対してであり、日出くんを疎む気持ちはまったくありません。日出くんは努力を積み重ねて成果と結果を出している、それだけのことで私たちはそのことを蔑ろに決してしません。だから、褒められたい時はもっといつものようにだるく絡んでください。そこの匙加減が本当に不器用だな、と思います。日出くんは元々不器用な人ですもんね。』


……急激に、すごく、恥ずかしい……。


『生まれつき不器用なのに、今では色んな人から「器用」扱いされるの面白いですね。面白いですけど、そのせいで擦り減らないといいなと思います。なくなったら悲しいですから、一生立ち直れません。だから擦り減らないように私たちが何とかしますね。これからも沢山の愛を受け取ってください。愛しています。高梁透たかはしとおるアレクサンドル。』


愛に生きている、ってこういうことなのか……。すごいなこいつ」


 手紙の体感的な重さが今キロ単位まで増幅した、と不思議なことを宣いつつ、いよいよ最後の手紙に手を伸ばした。


「水面、絶対短い、やっぱり短い。


『ディアお兄ちゃん、おたおめ! まさかこの歳になっても一緒に芸能活動してるとは思わなかったよ。お兄ちゃんって堅実だから子役辞めた時点でもう芸能界はいいかな、ってやらないと思ってたのに。でも一緒にやれて嬉しい、楽しいことを沢山共有できるのが本当に嬉しい。これからもよろしくね。大大大好きだよ! 佐々木水面より。』


短いけどちゃんとした手紙でした。うん、いいね、最後が特に良い」


 大大大好きだよの部分だろうか。日出はそこを噛みしめるように読み込み、カメラに手を振った。


「これでお手紙コーナーおしまいです。また来年~」



【56:22~ 最後の挨拶】


「大分喋り過ぎた気がします、喉がガラガラですね。

二十二歳になりました、練習生になったのが十五歳の頃だからもう七年。長いよね、デビューして一周年が間近なんて時の流れって本当に早いなあと思います。

去年はデビュー年ということで色々あったし、“&YOU”のみんなを振り回してしまったことも、逆にとても喜んでもらえることもあって本当に一瞬で一年が終わってしまった。年末の授賞式ラッシュ、本当に嬉しかったんだよね。俺らが認められた、っていうのもそうだけど、南方と土屋が中心になって作り上げた曲が評価されたっていう点でもすごく嬉しかった。新人賞は特にデビューしてから一年以内の実績で選ばれるから、本当に躍進の年だったんだなあと思います。

今年も色々と頑張りますので……そうだな、また授賞式にいっぱい呼ばれたいな。賞だけが成果じゃないけど、みんなが喜ぶなら沢山獲りたい。これからも期待しててください。また沢山お知らせすることもあると思うので、俺だけじゃなくてメンバーにも、沢山あるので! 今年もどうぞよろしくお願いします。

またね! ばいばい!」

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