誕生日配信まとめ2019年版

月島滉太 誕生日配信【2019年9月30日】

【0:12~ 声入り】


「──お、じゃあ始めましょうか」


 そう言いながら月島滉太は目の前にあるカメラを少しだけ直す。

 画角は視聴者的に問題がなく、では何故直したのかと問われそうだが単純に歪んでいるのではないかと気になっただけだった。幸いそれは杞憂に終わった、自身の顔を画面で確認して「よし」と独りごちた月島は非常にラフな恰好をしていた。

 スポーツブランドの濃い青のトレーナー、暑いのか腕まくりをしている。かぶっている黒のキャップは、某メジャーリーグ球団のロゴが入っていた。腕には装飾品がついておらず、指輪が左手──いや、反転しているから右手の人差し指にはめられている。シルバーの、無難なシルエットのものだった。


「こんにちは、read i Fineリーディファインの月島滉太でーす。誕生日Nライゆーことですけど、まずオレ、今日誕生日なんですわあ、と自己申告しておきます。現状何の配信か分からん人もおられるかも知れませんので」


 はっぴーばーすでーとぅーみー、と早口かつ自発的なヘリウムボイスで月島は宣う。

 チャット欄は既に「おめでとう」と「誕生日配信だって分かってる人しかいないよ」で埋まっていた。


「まあ背景めっちゃ誕生日装飾ですもんね、分かりますわな」


 月島は身をかがめて、見える? と自身の背景を見せつける。縦長の画面による配信であるため見えるに決まっているのだが、背後には『HAPPY BIRTHDAY』が一文字ずつになっているビニール風船、彼のメンカラである紫ハートの風船、そしてともすれば巨大毛虫にも見えるだろう金色のモールなどがぶら下がっていた。


「オレ、こんな装飾で祝われたん生まれて初めて過ぎて、最初入ってきた時ぼっちでどよめいとったんよ。おお……、おふ……、みたいな? 某バラエティショップで『誰が買うんやろ』と思ってたもんは、大体事務所のスタッフさんが買われるゆーことですね。勉強になります」


 なんの勉強だ。視聴者は思わずツッコんだ。




【05:26~ 『おめでとう』ダービーの話】


「『誰が最初におめでとうって言ってくれたの?』『お誕生日おめでとうがいちばん早かった人誰だった?』……オレ思うんやけど、速度って大事なんやろか」


 コメントを読み出した月島がカメラ越しにそう訴える。左手には社用スマートフォンだ。

ちなみに彼が読んでいるのはNライのチャット欄ではなく、誕生日などの配信時に使用可能となるFC会員限定のチャット欄だ。そこでは『誰が最初に「お誕生日おめでとう」を言ったのか』についての質問が多いらしい。


「日付変わってすぐにおめでとうとかええもんとして扱われますけどね、みなさん、オレは眠いんです! 返信は寝て起きてまとめてやるから順番なんて関係ありません! オレの誕生日を覚えて祝ってくれはった、それだけで充分やないですか! いちばん早かったのは土屋でしたが」


 さらっと質問に答える月島であった。その前の長広舌はなんだったのかという話である。


「あきさまはねえ、こういう時めっちゃマメなんよ。誕生日プレゼント絶対かぶらないマンという異名がなかったりすんねんけど」


 ないんかい。


「でもかぶらんの。マジで。誕生日やないメンバーにちゃんと訊いて、その上で誕プレ買っとんのよあの人、ほんと頭下がるわ。オレは今年、ハンドマッサージャーを貰いました。なんか知らんけどめっちゃかわいいデザインのやつ」


 ピンクの貝殻みたいなやつやねん、食われとるみたいでたまにぎょっとするけど、とにこにこしながら、それは嬉しそうに月島は語り続ける。


「あきさまは『おめでとう』をメッセで送ってくれて、次が今同室のみなもんと太一やね。急にどったんばったん音がして、どしたどした、火事かねずみが一斉退去かみたいなこと思っとったら部屋の扉バーン開いて『おめでとう!』がハモとった。あれは祝う顔つきちゃう」


 月島は一瞬顔を曇らせた。どんな形相だったというのか、その真相は彼にしか分からない。ただひとつ分かるのは、それなりに恐ろしい顔つきだったのだろうということだ。


「あとはまあ同じくらいの時間帯にばーって送られてきた感じ……あ、や、透は起きてきてからやった。起きてきて、オレを見るなり肩抱いて『お誕生日おめでとうございます』ってすんごい顔近付けられて言われた。夢? 夢やったんあれ? すんごいイケメンでした、寝起きのくせにあんなに盛れてるのは流石に人生が不平等よ」


 背後でのでさんといっちゃんが真顔で黄色い声上げててそれは腹筋に来た、と思い出して噴き出しつつ語る。


「イケメンにおめでとう言われるだけで寿命伸びた気がするわ。ええやろ、寝起きの高梁透に『お誕生日おめでとうございます』言ってもらえんの、リファインのメンバーだけなんやで、ええやろぉ~!」




【12:37~ 手紙タイム】


「じゃん」


 と言って月島は八つの封筒を扇状に広げた。どれも同じパステルな紫色の封筒だ。

これは所謂『メンバーから月島に宛てた手紙』である。リファインにおける、誕生日Nライの名物企画だ。誕生日だからこそ、今まで言えていなかった、言い辛かった感謝などを手紙で伝えようという趣旨である。


「この明らかにでかい字は透やから、これから読もうかな。よいしょ」


 大分日本語書くの上手くなったんよあいつ、ぼそぼそと月島はそんなことを語る。


「待ち時間とか楽屋とか、ライブ前とかでもあいつずっと漢字ドリルやっとってさ、楽しないやんあんなん。でもやっとる。日本語能力検定の勉強もずっとやっとるみたいで、こんな分厚い」


 一瞬カメラ目線に戻り、指で厚みを教えてくれる月島だ。


「難しそうな参考書読んどるよ。努力家やねん、あいつ──なんか三枚あるわ」


 ようやく開いた封筒には三枚の便箋が入っている。いちばん上の便箋に目を通す月島だったが、彼の表情はどんどん難解なものへ移ろっていった。さながら小難しい学術本でも読んでいるかのようだ。


「あの、ごめん、普通に読めん! これロシア語や!」


 そりゃ読めない。


「筆記体のロシア語初めて見たけどこれ読めるのマジですごいな……オレ、三回生まれ変わらないと読めんわ多分。え、待って、二枚目もこんな感じ? ……はい、英語です」


 英語もふんわりとしか分からんのよお~! と月島は喚く。ただそこで彼は何かにピンときたのか小首を少し傾げた。


「一枚目ロシア語、二枚目英語、ってことは三枚目は日本語やな、日本語でした。よっしゃ」


 どうしてこんな手の込んだことを高梁は行ったのか、それは日本語便箋の一行目に書かれていたようだ。


「えー『滉太くんへ。まず、この手紙は一回ロシア語で書いたものを英語で書き直して、それをスタッフさんと一緒に翻訳したものです。私が伝えたかった言葉とちょっとちがうかも知れませんが、ちがうなあと思ったら私が言いそうな感じで変換してください。よろしくお願いします。』だそうです」


 一回咳払いをし、月島は続きを読み始める。


「『お誕生日おめでとうございます。出会ってから、三回目の滉太くんの誕生日です。今年も祝えてとても嬉しいです。』


オレも祝えてもらえて嬉しいわあ、透、見とる~? 


『滉太くんはよく私のことを「太陽のようだ」と言ってくれます(おひさま、というのは太陽のことですよね?)。その言葉に元気づけられたことは沢山ありますが、滉太くんが自分の名前にちなんで自分のことを「月」とたとえるのは実はあんまり好きじゃないです。』


雲行き怪しない? 言い辛いこと言う手紙ではあるけども……」


 いきなり出てきた少し厳しめな言葉に月島の眉間に皺が寄る。怒っているというより、少し悲しんでいるような面持ちだ。続きを読み出す。


「『私はメンバー全員、星のようだと思っています。私たちが夜空で見上げる星々は、どれも恒星です。つまり太陽と同じだということです。』


……ほう。


『地球に生きている人間にとって、太陽というのは象徴性が強いです。だから滉太くんも私のことを象徴として扱ってくれているのだと思います。太陽が持つ、恒星としても意味以外、役割としての意味を話してくれてるんだと思います。だけどそれは太陽系に住まう人にとっての話じゃないでしょうか。』


おお、ちょっと難しくなってきたぞ……。


『グループで活動しているので役割はあります。だけど個人個人を好きになってくれている人、“&YOUエンジュー”にとってはいちばん好きな人が太陽です。みんな誰かの太陽なんです。だから役割だけ(あと名前も?)見て月だと言うのは少しちがうなあと思います。それを思って私はみんなを星だと言いたいのです。』


……うん。


『滉太くんも力強く誰かの人生を照らしています。私たちが持つ光のなかでいちばん優しい光です。これからもみんなの、もちろん私たちをその優しい光で照らしてください。それを求めている人は世界中にいて、私もそのひとりです。愛しています。高梁透。』


……ラブレター? なん、告白されたんオレ?」


 そう思ってしまうのも無理はないくらい熱烈な言葉であった。勿論、翻訳である以上多少ニュアンスが変わっている部分はあるが、月島にとって最初から最後まですべて高梁の言葉だと断言ができる。それくらい純度百パーセントの、高梁透からの愛が満ちた手紙であった。


「『愛』の人間って透んこと言うんやろな……『愛』の擬人化、ありがとうな透。次誰にします? ……んーとコメントは異様にのでさん多いんやけど、のでさん絶対短いぞ」


 チャット欄でしきりに名前が挙がってくる佐々木日出である。同期にどのような手紙を送るのか気になる人間が多いということなのだろう。


「え~のでさん? これは賭けてええけど絶対短い、『そんなことない』コメ多いけどオレとのでさんの付き合いの長さ見くびんなよ、絶対に短いからなマジで!」


 読みます! と月島は日出からの封筒を開けた。


「ほら短い! はい、


『月島、誕生日おめでとう。言いたいことを全部言ってる仲なので特に言うべきことはないです(笑)。健康に生きててくれたらそれで良いよ。知ってると思うけど、大好きです。佐々木日出』


便箋半分も埋めてないんやけどこいつ。オレも大好きやで、あとで電話するね」


 さくさく行こう、と便箋を封筒に再度仕舞って次の手紙に移る月島。読めていないメンバーはあと六人、長そうなの、と月島は御堂斎の手紙を選んだ。


「長いの先に読まんとしんどいやろ? いっちゃんは多分長いんよ。……うん、字小さい。コメント間に挟まず読みますね、マジで長い。


『つっきーへ。お誕生日おめでとうございます。デビューして初めて、read i Fineになって三回目のつっきーの誕生日ですね。初めての誕生日会のことを今でもよく覚えています。去年もなかなかインパクトがありましたね、今年は何をするんでしょうか? 個人的にご飯系の何かだと嬉しいなあと思っています。「月島滉太の思い出の味を再現」とか、思い出の味があるのか知りませんけど。

意外とつっきーのことを何も知らないなあと思いました。リファインになる前からの付き合いだけど、有名すぎるあなたのご家族のこととか、得意不得意とかは知っていても、肝心なあなたの好きなものについては詳しく知りません。もう一緒に住んで三年になるのに、意外と距離が縮まっていないのかなと少し自分のコミュ障ぶりを恨みました。まあ僕が開示することが苦手なので、それもあると思います。自分のこと話さない人に、自分のこと話せませんよね。

なので僕が思う、つっきーの好きなところについて話します。自己開示になるのか分かりませんがひとまず受け取ってください。

僕はつっきーの、訳もなく明るい訳ではないところ、きちんと意味があった上で明るいところが好きです。明るいけれど決して能天気ではないところ、と言い換えた方が分かるでしょうか? あなたはグループを照らす温かさと明るさを持っています、あなたの存在が僕らの苦境にどれだけ支えになっているかきっと分かっていないでしょう。

あなたの言葉にはすべて理屈がある。なんで大丈夫なのか。どうしてこのままで良いのか。向く方向、歩き方、目的地の選択、そのすべてに根拠があって投げやりに安心させようとなんてしていないことがよく分かる。のでさんが、どうしてあなたをリーダーに指名したのかよく分かりました。

悪いことを悪い、という声が大きいのは普通のことです。良いことを良い、という人は世間的にも多くはありません。でもつっきーは良いことを良いと、確固とした理由を以て伝えてくれる。たまにそれが泣きたくなるほど嬉しいときがあります。

そんなつっきーだからこそ、僕も良いことは良いと伝えたいんです。この間そのことでお礼を言われましたが、むしろそれを言うべきは僕なのです。だからこの場を借りてお礼を伝えたいと思います。今までもありがとう、これからもずっと「ありがとう」と言わせてください。一生、read i Fineでいましょう。御堂斎。』


普通に泣きそう……文才よ……。ありがとう、いっちゃん」


 掌底の部分で目頭を押さえた月島は大きく溜息をついて、次なる手紙を選び出す。ほのかに目と鼻が赤い、すん、と鼻を啜って封筒を開ける。


「いっちゃんの次はあきさまか侑太郎が長いんじゃないか、と思って侑太郎のを選んでみたんやけど、思ったより長くない……良い簡素さやね。えー、


『つっきーお誕生日おめでとうございます。言い辛いことを言う手紙なので、折角ですから不満をぶつけてみたいと思います。』


えええ⁉ オレ誕生日なのに⁉」


 よもやこのような形があるとは、と月島はびくびくしながらも続きを読み進める。


「『つっきーはもう少し人を頼ったらどうだろう、と思う時があります。つっきーの性格的に自分でできることは自分でやっちゃいたい、やっといた方が良い、と思ってるんでしょうけど、ひとりでせかせか動かれると妙な罪悪感に駆られます。かと言って手伝いを伺っても「特にないよ」としか言われませんし、なんだこいつ、と思います。』


なんかすんません……、あの、ちゃうんよ、そういうつもりないねん、あの、……いや申し開きできん……ごめんなさい……。


『頼りないのか気を遣われてるのか問題点に気付いてないのか、多分三つ目でしょうね(笑)。自分のことには鈍感ですもんね(笑)。』


うっざ! こいつうざい!


『だから周りがちゃんと見ていないとなんですけど、見てても気付かない時があるじゃないですか。それが嫌なんですよ。知らない内にストレス溜めてたり、ああいうのは一気に来ちゃうんで。自分が大丈夫だと思ってても。』


……うん。


『大丈夫じゃない時に「大丈夫じゃない!」と言えるのは訓練だと学びました。つっきーも学んでください。それで「大丈夫じゃない!」って言って、たまに寝込んでください。一生一緒にいるために大事なことだと思います。俺がした不満をぶつけるみたいな行為を、つっきーもたまにメンバーにやってください。元気なつっきーでいてください。南方侑太郎。』


努力します、教えてくれてあり、……あんま言いたないな、ありがとう! 侑太郎!」


 残るは佐々木水面、桐生永介、土屋亜樹、森富太一。月島は長そうだと判断した土屋の便箋から手をつけることにした。


「こいつが英語やったら流石にしんどいんやけど……あ、日本語だ! ほっ。


『月島滉太様。お誕生日おめでとうございます。この一年が、滉太くんにとって良いものになるよう心からお祈り申し上げます。日頃からメンバー全員だけではなく、スタッフの方など広く心配りをしているそんな姿を尊敬しています。あなたの存在は紛れもなく、read i Fineの主柱です。』


思ったより堅い文章来たな……、ある意味『らしい』んやけど。続けます。


『先日、ある曲のガイドを録っている時にどうしても納得のいかないパートがあって、僕は滉太くんに何度もリテイクを出しましたね。ガイドだからもう少し緩くても良かったかな、と終わったあとに謝った日のことです。』


あー、あったな、わりと直近のこと……。


『そこで滉太くんは「これを参考に他のメンバーがレコーディングするんだから、こだわるのは当然ではないか」と言ってくれましたね。滉太くんは、ひとを肯定する力がすごく強い人だと思います。今のは直近のことですが、似たようなことは過去いくつもありました。その度に僕は救われてきました。曲を作ってそれを世間に出すときは大きな葛藤が常に自分の胸に渦巻きます。これを聴いてくれた人は認めてくれるのか、評価してくれるのか、不安でいっぱいになります。でも滉太くんが「良い」と言ってくれる度に、自信を持って他のメンバーに曲を聴かせることができる。世間に送り出すことができる。あなたはすごいんです。』


率直に褒められると普通に照れる、照れとります。


『これからは自分のすごさを理解してくださいね。一緒に幸せになりましょう。土屋亜樹。』


やっぱりこれもプロポーズかなんかなん? ありがたいねんけど」


 言いたいことは分かる。高梁ほどではないが、土屋の手紙も薄っすらと愛の深さが見えていた。続いては、というところで月島は悩み出す。十秒ほど固まって「年功序列やな」と水面の手紙を開いた。


「どうせ短いんよ、……やっぱりな!


『ディアつっきー、おたおめ! つっきーがいてくれて良かったなと思うことが日々増えていってるよ。長く一緒にいれば顔を合わせるのが嫌な日もあるはずなのに、もっと一緒にいたくなるのはつっきーの才能かな? その才能を伸ばしていってください(笑)。大好きだよ。佐々木水面。』


締めの文が双子で一緒なんはテレパシー? 指し示し? まあどっちでもええけど、ありがと~みなもん~」


 年功序列、と言っていたので勿論次は桐生だ。


「桐生も、簡潔! こいつが長い手紙書くイメージないんよ。


『月島滉太くん、お誕生日おめでとうございます。実はちょっと前、どうやったら滉太くんみたいに歌えるか研究してた時期があります。』


まさかの展開、なんやそれ⁉ オレなんも知らん、知らんけど⁉


『俺も大概癖がないと言われますが、滉太くんほど周りに溶け込んで自分の色を滲ませるような歌い方ができる人を他に知りません。だから研究してたんですけど、これって人柄とか考え方によるところが大きいんじゃないかなと思いました。』


あー、そういうのはあんのかも。


『もし性格によるものなら俺は一生できないなって。俺は滉太くんみたいにいつも他人の良さを認めた上でそれに寄り添ってあげることはできない、たまに「俺の方が正しい!」になっちゃうから。だから素直に尊敬しています。そのままでいてください。桐生永介。』


安心してくれ、多分死ぬまでこんな感じやで! ありがとう、えいちゃん!」


 そしてとうとう最後の手紙だ。末っ子の森富太一からの手紙を開ける。


「実はとみーに関しては某方よりタレコミがあってな、めっちゃ悩みながら書いてくれたらしい……かわいすぎやろ? にっこにこしてまう。


『月島滉太くん、お誕生日おめでとうございます。滉太くんについては思い出がありすぎて、助けてもらったことも多すぎて、何を書けばいいのかよく分からなくなってしまいました。ありがとうも言い足りないし、ごめんなさいも言い足りないです。』


ものによるけど、この場合の『ごめんなさい』はほとんど言わんでええもんやろ。構わんよ、ちゃんと言ってもらっとる。


『俺は、メンバー内の「兄」は亜樹くんとゆうくんだって周りには言ってますけど、滉太くんのことは「自慢のリーダー」だって言って回ってるんですよ? 知ってました?』


何も知らん! え、そうなん?


『俺は滉太くんがいなかったら、多分プレデビュー期間中で脱落してたと思います。劣等感とかストレスとか上手く発散できなくて、溜め込んでだめになってたんだろうなあと思います。俺が今ここにいるのは滉太くんのおかげです! これからもずっと俺らのリーダーでいてください。約束ですよ。森富太一。』


終始かわいい……直接かわいがったらうざがられるんやろな……、とみーありがとう」


 そう言って月島は今まで読んできた手紙の束をぎゅっと抱き締める。そして大事そうにそれを机の隅の方へ寄せた。




【32:09~ スタッフからのプレゼント&ケーキ】


「プレゼントってなに? そんなんあんの?」


 恐らくカメラの裏にいるのだろう、スタッフとのやり取りだ。どうやらプレゼントがあるらしい、目をきらきらと輝かせながら立ち上がり目の前の人物から何かを受け取った。片手では持てないがそこまで大きくない箱だ。ラッピングされており、ネイビー地に銀の箔押しで夜空になっている包装紙だった。


「開けてええ? ええよね? オレんだもんね、開けるわ」


 丁寧にテープがどこに貼られているかを確認し、そこから順番に開けていく。包装紙はほぼ無傷で剥かれて、中からは段ボールのような箱が出てくる。


「おーぷん、お?」


 出てきたのは球体だ。白い、箱の中にはその球体を置くための台座も入っていた。


「なんやろこれ、……ランプ? え、うん? 月のランプ! へえおしゃれ!」


 充電式のランプであり、明かりを点けると月の模様が映し出されるものだそうだ。月島は興味深そうに球を一周させたあと、満足したように箱に仕舞った。そしてそれと同時に渡されるのが、今度は小さい白い箱、慎重に受け渡される。


「あ、ケーキ? 食ってええの──あ、ははは! すっごい紫やねんけど!」


 机の上に置かれ、ゆっくり出されたケーキは土台がパステルの紫、黄色の星とピンクの花のアートが施されており、チョコレートプレートには『HAPPY BIRTHDAY』と書かれている。


「バタークリーム? え? 芋? サツマイモ⁉ 人工着色料やないんや……」


 見せたいけど落としそう、と月島は逡巡し結局机の上に置いたまま一口だけ頬張る。


「すんごい甘い。あ、でも芋、芋です」




【45:48~ 最後の言葉】


「ひとり配信大変やでほんと。みなさん、ご視聴いただきありがとうございました。

えーと、オレは今日で二十一歳になりまして、2013年11月入社やからもうすぐ丸六年! ですね。デビューしてからはまだ一年未満やけど、長いことこの会社におるな。

すっごい月並みなんやけど、オレがこうしてこの場に立ってられるのはオレひとりが頑張ったからじゃなくて、色んな人の支えや助けがあったからなんですよ。

悩んだときに色んな意見を出してくれたり、辛いときに背中をさすってくれたり、もうどうにもならない、どうしたら良いんだ、ってなったときにオレがまた立てるようになるまで待ってくれた人がいたからなんですよね。

有り難い限りといいますか、そういう人がいたから逆にすぐには諦められなかったし投げ出せもできなかった。背中合わせなんですよね。そういう人がいたから諦めずにここにいるし、そういう人がいたから諦められなくてここに来られるまで頑張れた、そんな感じ。

なんか主体性ない人みたいに見える? そうでもない?

いちばん初めはオレがやりたいから、だったけど、色んな人と関わっていくとその『色んな人』のために頑張ってるって感覚になるんよ。勿論その人たちの中には “&YOU”のみんなもおるし、みんながおるからオレもいる、頑張れる、っていうのは最近よく感じます。

こんなオレに、オレらに付き合ってくれてありがとう!

これからも頑張って走り続けるんで、併走してくれるのも良し、たまに思い出したみたいに自転車で追い駆けてくれるも良し、好きなように見守っててください。

良い誕生日でしたな! おしまい! またね~」



【この配信は終了しました。】

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