②Moving - main

 三月ともなると陽光はまろみを帯びてくるが、いかんせんまだ風は冷たく防寒具のひとつやふたつないと外も歩けない。道行く人々のほとんどは春の兆しを感じつつもダウンコートに身を包んでおり、それは難波真利夏なんばまりかも同様だった。野々宮睦月ののみやむつきもまた然り、である。


「っていうか自分、難波さんのスーツ姿以外初めて見ました」

「私も野々宮さんのスーツ姿以外を初めて見ましたよ」


 勤務日というのに二人は揃ってラフ──否、『動きやすい』恰好をしていた。難波は動きやすそうなジャージ生地のワイドパンツにしっかりとした生地のトレーナー、足元はスニーカー。野々宮もパーカーにデニム、スニーカーという出で立ちで、スーツより余程似合うなと難波は密かに思っていた。

 そんな二人がいるのはヤギリプロモーションの本社だ。ここで二人はじきに来るであろう五人の人物を待っていた。一階のエントランスから少し奥まった所にある休憩室、簡易的な打ち合わせくらいはできる空間は静寂に包まれていた。が、一瞬のうちにそれを喧騒が打ち破る。

 擬音で表すと「ガラガラ」「がやがや」。難波が顔を上げて出入口に視線を向けた瞬間、待ち人たちと視線が合った。

 おはようございます、といの一番に口に出したのは月島滉太つきしまこうただ。追随する形で、御堂斎みどういつき南方侑太郎みなかたゆうたろう土屋亜樹つちやあき高梁透たかはしとおるアレクサンドルが挨拶をする。それに難波、野々宮は「おはようございます」と頭を下げた。


「すいません朝早くから……待ってはったんですか?」

「大したことじゃないです、行きましょうか」


 月島の質問に、回答になっていない回答を返しつつ難波は彼らが入ってきた方とは別の出入口へ向かう。こちらの方が駐車場に近いからだ。



 今日は『read i Fineリーディファイン』の引っ越しの日だ。

 ヤギリプロモーションには遠方から入社しに来た者もいるため、宿舎がいくつか存在する。大体がマンションをワンフロア、もしくは一棟まるごと買い上げてそういった施設にするのだが、デビュー組が用いる宿舎は少々趣が異なる。

 本社に集まったメンバーは既にマンションタイプの宿舎に入っていた者で、宿舎間の移動となるため荷物はそこまで多くない。精々キャリーバックひとつにボストンバックひとつ程度の荷物量だ。直接新しい宿舎に行ってもらっても良かったのだが、ヤギリプロモーションの練習生だと顔が割れている子もいるなかでこの荷物量は目立ち過ぎる。

 最悪宿舎の場所まで割れてしまう(ファンの情報網で、ある程度の場所まで特定されているのだから恐ろしい)ため、一度本社集合にしてもらった。尚、今まで実家で生活しておりこの度宿舎に初めて入るメンバーはあとで個別に迎えに行く予定だ。

 社用車であるバンに荷物とメンバーを押し込み、助手席に野々宮を従えた難波は車を発進させた。本社より車で十五分程の場所にその宿舎は存在する。


「そう言えば、野々宮さんとは面通ししたんでしたっけ」


 難波の唐突な質問に、騒がしく言葉を交わしていたメンバーは一瞬沈黙し、質問の意図を理解すると共に「はい!」と元気良く返事をした。そこまで広い車内ではないので声を張り上げずとも、と思いつつ難波は「それは良かったです」と呟く。


「デビューするまでは、これは確実ですが、野々宮がチーフマネージャーなので色々ぶつかってみてください」

「ぶつかっていいんですか?」


 南方が疑問を声に出す。それに答えたのは野々宮だ。


「もちろんです! 自分も『read i Fine』というプロジェクトチームのひとりなんで、高評価低評価気軽に言ってもらえれば!」

「最後めっちゃYouTuberぽくなかった?」

「しれっと高評価も気軽に言ってほしい、みたいなこと言ったすね……」


 御堂が面白そうに月島へ囁く後ろで土屋が呆れたように漏らす。高梁はというと、早口の日本語が上手く聞き取れなかったようでぽかんとしていた。すかさず月島が「良かったことも悪かったことも言ってほしいんやって」とフォローする。高梁は「そうなんですね」と言いつつ頷いた。


「分かりました。良いことも悪いこともはっきり言います、よろしくお願いします」

「できればお手柔らかにお願いしますね?」

「おて……?」

「Please go easy on me. ……かなあ? 亜樹、どうよ」

「そんな感じっすよ。そういうことよ、サーシャ」

「なるほどお!」


 「お手柔らかに」の意味が分からなかった高梁に英語での意味を教える御堂。ネイティブである土屋に合っているか尋ねるなんて配慮もきめ細やかだ。


「それよりサーシャってなんなん? 高梁のあだ名?」

「アレクサンドルの愛称っすね。向こうでは基本そう呼ばれます」

「へえ、かわいい。僕も呼ぼう」

「……思ったけど、いっちゃんって結構『かわいい』が価値基準だよね? 昔からそうだっけ」

「ゆう、知ってるか。大人になると『かわいい』が許容できるようになるんだ」

「元ネタは察するけど言ってる意味が何も分からん」


 御堂と南方が気安い会話をしている背後で高梁が「オテヤワラカニー」と連呼していた。

 そうこうしている内に宿舎へ到着する。駐車場は流石にないので、近所のコインパーキングへ乗ってきたバンを停める。

 デビュー組の宿舎は趣が異なる、と言ったがまず最も違う点を挙げればマンションタイプではない、ということだ。撮影機材が中に入ることも考慮され、デビュー組の宿舎は一軒家タイプが用いられる。『read i Fine』の宿舎も一軒家タイプだ。


「まず掃除からですね。事前に業者は入っていますし定期的なメンテナンスもされてますが、ほこりっぽいので」

「ああ、せやからそんな大荷物なんですね」

「掃除道具を沢山持ってきましたよ! 全員でやれば早く終わりますね」

「あ、愚問かもなんですけど」

「どうしましたか、土屋くん」


 宿舎の鍵を開けようとしていた難波は振り返って土屋の方を見た。


「相部屋っすよね、メンバーで」

「愚問ですね。相部屋です」

「ですよねえ……」


 残念ながらそれなりの面積があるこの宿舎でも、九部屋も用意はできない。

三階建て、4LDK。トイレと洗面台は二つずつ、洗濯機もふたつ、風呂はひとつしかないが近所に銭湯がある。家の鍵と門の鍵は違うため、戸締りする際は要注意。バルコニーは二階と三階に存在する。台所はアイランドキッチンになっていた。


「台所広いの嬉しいなあ」


 御堂が宿舎に入るなり、台所の広さに感激していた。


「斎くん、お料理好きなんですか?」

「好きというか自分で食べるものは自分で作りたいんだよ、僕。広い方が使いやすいから嬉しい。これだけでわりとテンション上がる」

「前の宿舎の台所、死ぬほど使い辛いって愚痴っとったもんな……」

「あれはね、料理する人間のこと何も考えてない」


 どんなキッチンだったんだ、と野々宮が苦笑を浮かべた。もう少し話を聞こうとした矢先、野々宮のスマートフォンが震える。実家組は準備ができたら電話するようにと難波から指示されており、とうとう第一陣である佐々木兄弟の準備が終わったようだった。

 野々宮は電話に出て、一言、二言、言葉を交わして通話を切った。よし。


「難波さん、日出くんと水面くんを迎えに行ってきますね」

「住所は大丈夫ですか?」

「はい! では行って参りますー」


※   ※   ※   ※   ※


 早速全員で掃除に取り掛かる。確かに目立って汚いことはなかったがほこりっぽいのは間違いがない。場所ごとに分担をし、それぞれが必要であろう掃除道具を持って別れる。

 御堂がいたのはキッチンだった。流石真っ先にキッチンを気にしていた男だ、掃除をすべき勘所を把握しており無駄のない動きでほこりを払っている。

粗方清潔にしたところで、御堂は自分が前の宿舎で使っていた調理器具を収納する。底が浅いフライパンと底の深いフライパンがあることを認識した難波は、私ですら使い分けられないのに、と軽い敗北感を覚えていた。


「どうですか、新しいグループは」

「はい?」


 ダイニングの床掃除を終えた難波は、収納棚の検分をする御堂へ唐突にその言葉をぶつけた。御堂は一瞬固まった後、視線だけで左右を確認する。


「……カメラはありませんよ、オフレコです」

「好きに言って良い、ってことですか?」

「忌憚なく仰っていただければ」

「そうですねえ……」


 うーん、と眉間に皺を寄せ顎に手を当てた御堂。その仕草は可愛らしく見えるが、背は難波より充分に高いし体の厚みも相当だ。女性と見紛う顔立ちと声音と、それが搭載されている体格のギャップには未だ慣れない。本当にそこがネックだったんだろうなと考え込みかけた瞬間「大事にしたいですね」と御堂は漏らした。


「大事に、ですか」

「多分ご存知だと思いますけど、僕ってグループとしての参加がほぼないんですよ。一回だけかな、他の練習生と同じ枠で表舞台に出させてもらったのは。それ以外はずーっとソロなんですよ、ソロっていうか、その他大勢のひとりっていうか」

「練習生一年目の時ですよね、グループとして出たのは」


 事務所主催の大きなイベントでのことだったので、その時の映像データは今も残っている。勿論難波はそれに目を通していた。通して、確かにこれじゃあソロになるな、いやソロしかさせてもらえないな、と感じたのだ。

 当時の御堂の踊り方は、今以上にエゴイスティックで派手だったから。


「そうそう、自分が目立つことしか考えていないっていう」

「芸能人目指すならそれくらいの負けん気は欲しいですよ、ですが、」

「ですが、なんですよね。そこからは心入れ替えましたよ、これじゃ使ってもらえないって振付師さんとか講師陣とかにレッスンしてもらって、でも最初のあれのせいかずっとグループには入れてもらえなかったです」


 今やバックについて欲しい練習生として名高い──実際、とあるアイドル雑誌で行われた『バックについて欲しい練習生グランプリ』で三連覇し殿堂入りを果たした男だが、それでもプロデュース陣は一年目の御堂の凄みを忘れることができなかったのだろう。その結果、入社し『所属なし』で大半を過ごす羽目になった。御堂が悪いのかと言われるとそうではない。ただこれを上手く使うのも困難の極みではある。


「だからきっとこれが最初で最後なんで、大事にしたいなあって思ってるんです。グループ自体もそうだし、メンバーのみんなも。グループに対してやれることは全部やっておきたくて」

「良い心がけだと思います」

「ありがとうございます。あ、『夏嵐なつあらし』のダンスに関しては任せといてくださいね」


 御堂は両手をサムズアップし、胸の前で構えた。佐々木兄弟、月島より年齢も入社歴も下だが『夏嵐』に関しては同回数程度の経験を積んでいる。──すなわち、入社して以来皆勤ということだ。

 それは確かに心強い、しかし難波はそれを理解していたから『夏嵐』に『read i Fine』を組み込んだのだ。何があっても御堂がメンバーを助けるだろうという、脅迫に近い信頼を彼女は御堂斎に抱いていた。彼はその信頼に応えてくれるとも。


「なんでも言ってください、ダンスのことなら誰にも負けないんで」


 ただ、この強さは危うい。周りにとっても、本人にとっても。


   〇   〇   〇   〇   〇


「水面、入るよ」


 片手にゴープロを携えた佐々木日出ささきひのでがノックもそこそこに弟・水面みなもの自室へ入っていく。

 弟は自分の部屋を物で溢れさせながら、うんうんと唸っていた。言わんこっちゃないと兄は大きく溜息をつく。どうせこうなるんだから引っ越しが決まった時から準備を始めておけ、と言ったのに。


「ち、ちがうんだよ~。服とか、生活必需品は全部まとめ終わったの! ほら、あそこのキャリーケースをご覧になって?」

「よくキャリー一個でまとまったな」

「頑張ったんだって! まあ枕は持ってくんだけどさあ……問題はこれよ」

「……うん、兄としては想定内ですけど」


 水面が腕を大きく広げ見せつけてきたのは画材、と、画集だ。特に画集はうず高く積まれており、一目で到底全部は持って行けないと判断できる。

 晴れて東央藝術大学に合格した水面にとって、画材も画集も今後必要となってくる教材だ。全部置いていくと学業に支障が出るし、宿舎の収納上すべて持って行くこともできない。取捨選択は必要になってくるが、生きることと創造することがニアイコールな彼にとってはまさしく苦行だった。

 真面目に頭を抱え出してしまった弟を横目に、一緒に悩んでやるか、と日出は水面の隣に腰を落ち着かせる。そして「絶対要るものはどれ?」と声を掛けた。


「んと、油彩は要る、マスト」

「油彩画学科だもんな、必要だ」

「クロッキーと鉛筆も持って行く。あとどうしよう、画集も」

「画材はひとまずそれだけ持って行けば? 最悪必要になっても買えるだろ」

「そう、なんだけどさあ~」


 もったいなくない? と呟く水面の所帯くささに日出は噴き出した。勿体ないのはそうだけど、最悪買えると言っただけで時間さえあれば実家に取りに戻っても良いのだし、わざわざ宿舎に持って行く必要があるかという話だ。

 日出がそう言えば水面は「そういうことか」とあっさり頷いた。そうと決まれば話は早い、と言わんばかりに画集にも手を付けたが、その勢いは数秒で止まった。


「マティスとシャガールは持ってくけど、あと、え、あとどうする……?」

「マックス何冊か決めて持って行けばいいんじゃないか」

「え~……十は多い?」

「サイズによるだろ、A4が十冊は多いんじゃない? 知らんけど、どれだけ置けるか分かんないし」

「ゴッホ……持ってくでしょ、パウル・クレーとエゴン・シーレと、流石に図録は置いとこう……マジで際限なくなるし」

「うんうん」


 悩みながら画集を選別する。そして選りすぐりの七冊をバッグに詰め、水面は達成感に両手を掲げた。引っ越しの準備が終わっただけなのだが、さながらすべてが完了したかのような清々しさだ。


「っていうか、お兄ちゃん。なんでゴープロ持ってんの?」

「今更?」

「どうせドキュメンタリーで使うんだろうなあ、とは思ってたけど。合ってる?」

「ほぼ正解。っていうか、分かってるなら訊かなくても良かっただろ」

「私用でゴープロ持ってるやばい奴が兄っていう疑惑を払拭したかった」

「お前何年双子やってんの?」


 十九年ですう~! と分かり切った解答をする水面が面白かったので、日出はそこで録画を停めた。正直撮れ高に関しては未知数だが、最後のこのやり取りだけでも何かしらに使ってもらえないだろうかとは思った。それくらい間が完璧だったのだ。

 水面の準備が終わり、マネージャーである野々宮に電話をかける。一時間くらいで着くと言ったその言葉通り、おおよそ一時間後に佐々木家の前にバンが停まった。中からラフな恰好をした野々宮が降りてくる。


「おはようございます~」

「おはようございます、宜しくお願いします」

「おはようございます! じゃあ荷物載せる──けど、親御さんは?」

「父は早くから仕事で、母は昨日から出張でいないです」

「あ、そうなんですか」


 挨拶をしたかったのだろう野々宮は少し据わりの悪そうな顔になり、バンのトランクを開けた。荷物を入れ込むその隙にすかさず水面が「これ、親からです」と紙袋を野々宮に手渡す。


「ん?」

「みなさんで食べてね、とのことです。挨拶できなくて残念がってましたよ~」

「え、そんな、お気遣いいただかなくても。こちらが預かる側なのに」

「預かってもらう側だからじゃないですか? メンバーと難波さんと食べましょう」

「……そうですね、では! 有り難く!」


 ごちです! と言って野々宮は車に乗り込む。佐々木兄弟も後部座席に滑り込むようにして乗り込んだ。


「あとそうだ、野々宮さん、ゴープロは宿舎に戻ってから返しますね」

「お! ありがとうございます! 良い画は撮れましたか?」

「水面を撮ってたんですが、まあ、被写体が被写体だったんで……」

「ちょっとお兄ちゃん⁉ 自分と同じ顔の人間になんてこと言うの⁉」

「そう言えば同じ顔だったわ」

「あはははは!」


 漫才の如くなやり取りに野々宮が声を上げて笑った。ここもカメラ回しておけば良かったかなあ、と思いつつ赤信号を確認して緩やかに車のスピードを落とした。


「そう言えばどうですか、新しいグループは」

「……ああ、オフレコですか、これ」

「普通の雑談です! 二人とも入社歴は長い方ですし」

「年齢も入社歴もツートップなんで! にしても、入れ替わり激しいですもんね~ヤギリって。こんなバタバタ辞めていくのかとビビりましたよ最初」


 水面はスカウティングで入社し、日出は公開オーディションで入社している。歴としては三年以上になるが、練習生にとってヤギリに三年居続けることはかなり難しい。いくら月次考課の評価で辞めさせることがないにしても、成長が見込めない人材を置いておくほど優しい場所ではないのだ。


「見込みある子はすぐにグループ参加させられるじゃないですか。ぼくらはそんなことなかったんで、ああやっとか! って思いましたね~」

「俺もそうですね。前組んでたグループが、もう一年前になるのかな、解散しちゃってからなしのつぶてだったんで、滅茶苦茶嬉しかったです」

「頑張れそうです?」


 愚問だなあと思いつつ、野々宮は尋ねた。当然、愚問だった訳だが。


「もちろんですよ、ここで頑張れなかったら意味がないですし」

「普通に最後のチャンスですよね、これって。ここで芽が出なかったら辞めますよ~」


 暗い雰囲気にならないように配慮をしているが、日出にしても水面にしてもかなり重たい決意をしているようだ。

 実際、テレビ局との共同制作でドキュメンタリー番組を配信するような企画が倒れた場合、その事務所内で再起を目指すことは非常に難しい。困難という言葉でも軽過ぎるくらい絶望的な状況だ。『最後のチャンス』というのはあながち間違いでもない、年齢的なリミットもそうだし置かれた状況や期待値的にも。

 彼らは青春すべてを費やした『今』を、すべてこのグループに捧げようとしているのだ。


「全力でバックアップするんで、何かあれば言ってください!」

「ありがとうございます。……あの、それとすみません、関係ないんですけ一個気になったことがあって……」

「なんでしょう?」


 日出がゆっくりと口を開いた。その様は微妙に悔しがっているようにも感じられる。


「俺らを最初に迎えに来たってことは、俺らんちって遠いんですか?」

「え、日出そこ気になってたの⁉ うちは本社からだと遠いよ⁉」

「だって森富は千葉なのに……」

「あの子、浦安の方なんで意外と早く着くんですよ!」

「くそう!」

「なんかもう……お兄ちゃんの怒りポイントがよく分からない……」


※   ※   ※   ※   ※


 相部屋である以上、二段ベッドは確定であるだろうと南方は二階、三階の部屋を見に行ったがやはりどの部屋にも基本二段ベッドは存在した。マットレスは昨日運び込まれたものだが、掛け布団は今日来たばかりのようだ。

 天気も良いし干そうかと梱包を開けていると難波がふらりとやって来た。手にはちりとりとほうき、そして雑巾と窓ガラスクリーナーが握られている。


「布団を干す前にベランダを軽く掃除しませんか?」

「そうですね、そうしましょうか」


 難波から雑巾と窓ガラスクリーナーを受け取り、南方は玄関から持ってきた自分の靴を履いてベランダに降り立つ。そこで難波が「あ」と声を上げた。


「普通に靴忘れました。先やっててください」

「あ、はい」


 ロボットみたいな人だと思っていたけど、案外普通の人なのかもと南方は外側から窓を拭きつつ、彼女の哀愁漂う背中を見つめた。

 数分もかからず戻ってきた彼女は早速掃き掃除に取り掛かる。窓ガラスもなかなかの汚さだったが、ベランダも結構ほこりが溜まっていた。何年分の蓄積なのだろうと難波は思わず遠い目をする。


「南方くん、どうですか、新しいグループは」


 溝に溜まったほこりを掬い取ることに難儀しつつも、難波はそう尋ねた。南方は「はい?」と素っ頓狂な声を上げながら、窓ガラスに泡で一生懸命絵を描いている。……いや、勿体ないから普通に使ってほしいと難波は心中苦く笑った。


「どう、と言われても今日が実質二回目ですし、まだグループらしい活動もしていませんし」

「雰囲気はどうでしょう? デビュー目指せそうですか?」

「……悪くはないんじゃないですか? 質問に質問を返すようで申し訳ないんですけど、どういう意図の質問なんです? カメラも回ってませんし」

「好奇心というより人となりを確認する類のアンケートだと思ってもらえれば」

「ああ、なるほど。つまりこれで、俺の人となりが何となく微妙なことがバレてしまったってことですね?」

「最初からバレバレですよ」

「ええ?」


 そうでしたか? と南方は気まずそうに笑った。眼鏡の向こうで柔和に見えるはずの垂れ目が、笑みを作ることで若干狐っぽく見える不思議な顔立ちだ。

 難波は思った。思っていた以上にこの南方という少年、面倒臭い人種だ。


「ちなみに他のメンバーには訊いたんですか?」

「ひとまず御堂くんには訊きましたよ、『大事にしたい』そうです」

「……いっちゃんらしい。あの子、守る側の人間ですからね」


 羨ましいと南方は続ける。この二人は幼なじみだ、地元が同じで小学四年生からの付き合い。ルートは違えどヤギリプロモーションというゴールを同じくし、またそこからのスタートラインも同じになろうとしている。仕組んだ側ではあるが、数奇な運命だと思う。『運命』なんて言葉、南方は嫌いそうだが。


「目に見えるものじゃないと好きじゃないですね」

「分かりやすいですね。同感ですが」

「あ、やっぱり難波さんもそういうタイプでしたか」

「ただ、」


 難波がそこで話を切ったことで、南方は首を傾げた。


「見えないものを信じないと、アイドル稼業なんて辛いばっかりですよ」


 否が応でも数字に晒される世界、高評価・低評価など個々の主観の数に脅かされる世界、そしてその数が一斉に牙を向く恐れがある世界において『目に見えるもの』のみを信奉するのは自傷行為そのものだ。絶対にやめておきなさい、という目で難波が南方を見遣る。

 南方は笑顔を損なったまま「肝に銘じておきます」と呟いた。

 一方階下は賑やかさを増す。佐々木兄弟が到着したようだった。


   〇   〇   〇   〇   〇


「わあ~! 海だ! えっこれサービスですか!」

「はい、サービスです!」

「やったあ!」


 ニコニコしながらゴープロを回す森富太一もりとみたいちの姿に、つられて野々宮も笑ってしまう。

 佐々木兄弟を宿舎まで送り届けた直後、森富からの連絡がありすぐに車を回すことになった野々宮。疲れていないと言ったら嘘になるが運転は嫌いではないし、何よりこれも仕事であるため気を取り直してハンドルを握った。

 しかしその疲れは森富によって吹っ飛ぶこととなる。それは主に、彼の対応によるものだった。


「野々宮さん! おはようございます、朝早くからお疲れ様です! これ、コーヒーと甘いもの、コンビニで買ってきたんで良かったら車で食べませんか?」


 最年少ながら現時点でメンバー内でも高身長の部類であり、声変わりが完璧に終わっていないとは言え屈指の低音ボイス、あどけなさは残るとは言えすっきりとした大人顔な彼に笑顔でそう言われて胸を撃ち抜かれない者がいるだろうか? いやいない。

 その結果野々宮は、若干時間はかかるが海の見える道を走ることにした。

 理由はひとつ、森富太一へのサービスである。


「いやあ~海綺麗ですね。良いですね! 日差しも強くないし、風は冷たいですけど良い天気だし、あ~なんか楽しみになってきました!」

「新しいグループでもやっていけそうですか?」


 ゴープロの録画を切ったのを確認し、野々宮は森富にそう尋ねる。先程佐々木兄弟にも訊いた質問で、ただの雑談だ。しかし、森富の声には真摯な硬さがまとわりついていた。


「正直なとこ、どうして俺が? とは思いました。キャリアもないし、実力だって全然で……日出さんとか、御堂さんとか、俺がまだ一緒にバックで踊らせてもらえないようなすごい先輩と同じグループなんて全然実感が湧かないです」


 ぶっちゃけプレッシャーはすごいです、と苦笑した声で森富は漏らす。しかし彼は「でも」と話を続けた。


「選ばれた以上はやるしかないんで、足を引っ張らないようにっていうか、ちゃんとこのグループには森富太一が必要なんだぞ、と思わせられるように頑張っていきたいです」


 強い意志の籠った目をし、森富ははっきりと告げる。

 最年少がここまで自分の意思を言葉にすることができるならば、このグループは大丈夫だろうと野々宮はハンドルを握ったまま思った。というより人間の出来た子だ、自分がこの子と同じ歳だった頃はここまで自我がなかった気がする。


「──力になるんで、何でも言ってくださいね。人間関係とか」

「あ、人間関係に関しては前の顔合わせの時にメンバーの先輩方みんなから『いじめられたら俺に言え』的なこと言われたんで、多分大丈夫です」

「た、頼もしい……え、っていうかみんなです⁉」

「はい、みなさんに……」


 そこまでひ弱に見えますか? と首を傾げた森富だが、外見がどう見えるかという問題ではない。

 きっとこのグループは、末っ子に頭が上がらないグループになる──全然悪いことではないので止める必要もないけれど、と野々宮は己の直感を心の内に留めた。


※   ※   ※   ※   ※


「あきくん、これ何の木ですか?」

百日紅さるすべりじゃね? 花咲いてないから分かんないけど、木の肌がそれっぽい」

「さるすべり? さる、monkeyですよね?」

「そうそう、英語だとcrape myrtleだったか? ロシアにはないの?」

「ないと思います。見たことないです。日本に来てから初めて見た植物は結構あります」


 桜はモスクワにありましたけどなんか違います! と高梁は元気よく土屋に教える。

 二人が見ていたのは玄関脇に植えられていた木だった。五メートル近くあるだろうそれは花を咲かせる前の百日紅(土屋の推定)で、そこから植物談義に花が咲いたのだ。植物だけに、と心中で土屋はほくそ笑む。

 植物談義をしているが、サボっている訳ではないので悪しからず。二人は家の周辺、玄関先や門からのアプローチを掃除しに来たのだ。ベランダ同様、風雨に晒されているためほこりっぽい。ほうきとちりとりを持ち、目立つごみから回収していると家の前に車が停まった。自分たちが乗ってきたバン、ということは野々宮が帰ってきたということだ。


「野々宮さん、ありがとうございました!」

「はーい。このまま桐生くんのところ行ってきますんで、あとは中にいる難波さんに訊いてくださいね」

「分かりました、気を付けてください! ……あ、亜樹くん、高梁くん、おはようございます!」


 車内での野々宮とのやり取りから滑らかに掃き掃除をする土屋、高梁への挨拶に切り替えた森富。こういうところ、後輩力高いよなあと土屋は思いながら片手を上げた。


「おはよ、元気だね」

「おはようございます。今日もかわいいですね」

「かわ、……? かわいいです?」

「はい! 食べてしまい、たく、なる? くらい!」

「語順に違和感はないけど、言葉そのものに違和感はえらくあるな」


 現時点で自分より背が高い、同性の後輩に対して言う言葉だろうか。しかも自分たちと一つしか違わないし、大体高梁は早生まれなので母国だと森富と同学年ということにならないか? 意外にも、彼はこの国の『年度』という制度にあっさりと馴染めていた。不思議な話である。


「かわいいものを日本人は食べたくなると聞きましたよ?」

「比喩表現ではよく言うけど、実際に後輩に対して言う奴はそんないないよ」

「でも、コンビニ……」

「コンビニにかわいい、顔付きのお菓子とかあるな、確かに、あれは確かにそうだ」


 でもあれは食品にかわいさが付属しているだけなので、かわいいものを食べたくなるのとは違う話では? 土屋はそう言おうとしてやめた、ややこしくなりそうだったので。

 土屋と高梁が気兼ねなく話している間で森富は少し戸惑ったように視線を揺らしていた。どうした、と土屋が尋ねる前に彼自身が口を開く。


「亜樹くんと高梁くんって同い年、なんですよね?」

「うん、高校一緒だし」

「……桐生くん、も?」

「桐生もそうだな、高校違うけど──あー、微妙に年齢順分かってないのか」


 森富は控え目に頷く。彼が招集される前に実際に喋ったことのあるメンバーは土屋と桐生のみ、あとは一切の接点もない。辛うじて御堂が同じ現場で指導役をしているのを見たことがある程度だ。具体的な年齢差は想像できていない、全員先輩であることは理解しているがそれだけだった。


「んーと、どっから話せば」

「それは追々にしましょう」


 ぴたり、と氷のような声音が三人の背中に張り付いた。後ろを向けばゴミ袋を持った難波が立っている。無表情なのはいつも通りであるが、無駄口を叩いていた自覚があったせいか怒っているように見えてしまう。

 バツが悪い笑みを浮かべる他ない土屋と、状況を把握していないのかぽかんとした高梁、森富は分かりやすく震え上がっていた。


「す、みません。俺が森富を引き留めてたばっかりに……」

「いえ、積もる話もあるでしょうし。ただ今は、積もったほこりをどうにかしてくれた方が有り難いです。今日からあなた方が住む家ですし、ほこりっぽいのは嫌でしょう」


 森富くんはリビングにかばんを置いてきてください、と難波が言えば森富はほぼ跳ね上がり「分かりましたあ!」と発声して一目散に部屋へ駆け込んだ。その様子を見て、難波は首を柔らかく曲げる。


「……私って怖いですか?」

「怖くないですよ? 得体の知れない感じ? がします」

「おい、サーシャ⁉」


 つい高梁の愛称(一応言っておくが、本名は高梁透アレクサンドルである)で制止をかけた土屋だった。完全に最近知った言葉を使いたい病に罹っている高梁である、普段なら構わないがこの場では避けてほしかったと言わざるを得ない。

 どうすんだこの空気、と勝手にパニクっている土屋を横目に難波は「よく言われますが」となんてこともなさげに返答した。よく言われるのかよ。


「性別が分からないとも言われますね」

「分からない、ことないでしょう……。アイドルだったのに……」

「でも不思議とよく言われてたんですよね」


 なんででしょうね、と訊かれても知らないとしか言いようがない。土屋の目にはきちんと女性として見えている。

 難波はおもむろにゴミ袋を玄関脇に置いて「どうですか?」と尋ねた。掃除の進捗のことかと思いきやグループについての質問だった。


「面白いです」

「それは良かったです。土屋くんは、どうでしょう?」

「どう、と言われても……ここが死に場所かな、みたいな気分ですかね?」

「えっ、死ぬのだめですよ、嫌ですよ」

「あの、高梁ごめん、比喩、比喩だから、たとえ話」


 力強いハグを仕掛けてきた高梁を制御し、土屋は難波の方を見遣る。次の言葉を欲している目だなと感じ「拾ってもらえて嬉しかったです」と追随するように言葉を発した。


「うちの会社だとまだアイドルラッパーも数がいないし、育成もちゃんとやってる訳じゃないでしょ。だからそもそもグループに所属できるかどうか、が難関でそこからデビューってなると最難関だと思ってたんですよ。勝手に」


 それが今や棚から牡丹餅状態というか、無論このまますんなりデビューできるはずもないが自分にとっては願ったり叶ったりな現状だ。土壌は上々、ならばあとは自己の研鑽を積むのみ。然らばデビューは見えてくるだろう。

 完全に腹は決めた、このグループと生きて死んでいこうと。


「高梁くんはどうして面白いと思ったんですか?」

「色んな人がいます。色んな人が同じ目標に向かってるのが面白いです」

「ううん、真意が掴めませんね……」


 何となく言いたいことは分かるが、これでは正確さに欠ける。

 土屋は助け舟のつもりで、英語で「【つまりどういうこと?】」と高梁に尋ねた。彼は「【うまく伝わらないよなあ、すまん】」と笑って、更に深い話をする。


「【メンバーを最初に見た時、色がちがうなって思ったんよ。同じ色の人間が誰もいない、だから面白いなって。ああ、色っていうのは僕の感覚なアレだから気にせんといて。しかも分かりやすい色じゃなくて複雑な色だったから、僕的には結構レアなんよな。なんか普通のことやっても絶対普通じゃなくなるなっていう直感? そういうの僕、好きだからさあ】」


 本当に、英語と日本語で印象が変わる男だと土屋は引き攣った笑みを浮かべた。生憎ロシア語は分からないため、母国語を話す彼の雰囲気は伺い知れぬがこの様子だともっとくだけた感じなのだろう。

 不安そうに二人を見つめる難波に土屋は慌てて「個性がバラバラなので、普通のことをやっても普通じゃなくなりそうなところが好きです、って」と通訳する。それに難波は納得したのか大きく頷いた。


「これからもっと楽しくなりますよ」

「嬉しいです! わくわく」

「で、ついでにお願いなんですが、ゴミ袋をこの先にあるゴミステーションまで持って行ってもらっても良いですか?」

「いや絶対そっちがメインでしょ……」


 別に良いけど、と持ち上げたゴミ袋は死ぬほど重たかった。何が入っているんだこれ。


   〇   〇   〇   〇   〇


 桐生永介きりゅうえいすけの家の前に着いた時、既に彼はそこで待っていて何やら非常に申し訳なさそうな顔をしていた。どうしたんだろう、と思いながら野々宮は車を降りて彼に近付く。

 開口一番、桐生は「意外と近くてすみません」と頭を下げてきた。どうやら家の近さに恐縮しているらしかった。


「そんな謝ることじゃないですよ⁉ 荷物多くて公共交通機関使うの大変だし、っていうか周りの人の迷惑になるかも知れませんし……」

「ああ……俺の荷物が大きくて周りの人に迷惑かけるパターンもありますね、確かに……それは想定してませんでした……視野が狭い……」

「……なんかありました?」


 どうぞ、と野々宮は助手席のドアを開けた。桐生が乗り込もうか逡巡している隙を見て、彼の荷物──キャリーバッグひとつとボストンバックひとつをトランクに詰め込む。慌てて車の後方へ回ろうとした桐生だが、野々宮にいなされて落ち込んだ様子で助手席に乗り込んだ。

 様子がおかしいのは歴然としていた。前回会ったのは、というか顔合わせの日以来会っていなかったが、その時もここまでおどおどした様子は見せていなかった。確かに同じグループのメンバーになったのは自分より歴の長い練習生ばかり、唯一の年下である森富もほぼ同期という環境で委縮するなという方が無理な話である。

 絶対的な実力主義社会を形成しているヤギリプロモーション(内々では色々とあるがそれは置いといて)において、『実力』というのはそのまま会社内のカーストに影響する。実力がある者が優遇され、ない者は冷遇される。当然の話だ、と野々宮は思う。才能の有無も関係あるが、基本的に努力をしている者・成長している者が報われる構造になっているのだ。

 社会としてはこれ以上もなく正常、しかし桐生のようにスタートが遅かった者が苦労を強いられるのは少し違うなと野々宮は感じていた。これは、難波も憂慮していた部分である。


「俺なんかが一緒にやっていけるのかって不安で……」

「ああ、ちゃんと予想通りに悩んでて良かったですよ」

「良くないですよ⁉ え、っていうか予想通りに悩んでてってどういうことですか」

「そのままの意味ですけど、あ、自分のスマホ光ってませんか?」

「あ、はい、光ってます」


 ちょっと見てもらって良いですか、と野々宮はダッシュボードに置いてある自分のスマホを桐生に開かせた。難波からのメッセージが届いており、昼ご飯をどこかで調達して欲しいとのことである。そう言えば食事のことを何にも考えていなかったな、と今気付いた。


「お弁当屋さんってここら辺ありましたっけ」

「ちょっと調べてみます」

「あ、すみません……じゃあ一旦車停めますね」


 路肩に寄せてハザードを出しつつ野々宮は「予想通りっていうのは、きっとそういうことで悩むだろうなあとメンバー決めの際に難波さんと話したからですよ」とはっきり言った。桐生の耳に確実に入ったその言葉のせいで、桐生は分かりやすく硬直する。


「……や、まあ実力不足だって、そりゃあ分かってますよね。分かってない訳ないですもんね……」

「それでも難波さんは、桐生くんを自分のプロデュースするアイドルグループに入れたがったんですよ。この子ならって。それに実力不足だって言いますけど、桐生くんには歌がある。グループを引っ張っていける歌が」


 月次考課で録音された桐生の歌を初めて聴いた時、野々宮は心底驚いたのだ。

 音程が良いとか声質が良いとか、リズムやテンポが正確だとかそんなことは些事にしか思えない。こんなにクリアに歌詞が入ってくる歌は生きていて初めて聴いたのではないか。ついそう思ってしまうくらい、衝撃的だった。

 歌詞によって甘くもなれば切なくもなれる、粗暴で野卑な声音かと思いきや、別の歌を歌えば高貴で繊細な声音へ変化する。その上で全部『桐生永介が歌っている』と分かるのだから、これは圧倒的な才能でありまた努力の賜物であると思った。彼の歌詞への解釈の深さは一朝一夕で賄えるものではないはずだ。


「足りてないところは、これから補っていかないといけません。ですが、今すべてが足りていないと思うのは、それは自己評価が低すぎですよ」

「自信が持てないっていうのは、確かにあんまり良くないですけど……」


 桐生は渋い顔をのまま、ここにお弁当屋さんありますよ、とスマホを差し出した。よく見かけるチェーンの弁当屋だ、ここなら良いだろうと思い礼を言いながら野々宮はカーナビに住所を打ち込んだ。


「俺は、」


 車を再発進させている最中に、桐生は口を開いた。


「俺のせいで、他のメンバーが過小評価されるのが怖いし、俺の力不足のせいでデビューできなくなるかも知れないっていうのが、いちばん怖いです」


 横目で沈痛な横顔を見遣った野々宮。安全運転、と心中唱えて前を向き直した。


「無責任に大丈夫とは立場上言えませんけど、桐生くんはちゃんとグループの一員としての自覚を持っていますね。それはすごいことだと俺は思います」


※   ※   ※   ※   ※


「月島くん」

「はい、なんでっしゃろ」


 宿舎の風呂場、トイレ掃除を担当し、そろそろ洗面台掃除に取り掛かろうとしていた月島は不意に難波に呼び止められた。地元の方言でも滅多に使わない部類で返事をすると、目の前にいたプロデューサーは眉根を寄せて「それ今でも言うんですか」と尋ねてきた。


「いや、言いませんね。どうしたんですか、それより」

「ああ、いえ、野々宮さんにお昼を買ってくるように依頼していまして、今お弁当屋さんにいるそうなんです。メンバーに何が良いか訊いて欲しいとのことで」

「焼き鯖があるなら焼き鯖が良いです。なかったらのり弁で」

「了解しました。他のメンバーにも訊かないといけませんね」

「じゃあオレ、訊いてきますわ」


 月島が流れるように言えば難波は驚いた顔をする。てっきりそれを目論んで訊きに来たと思ったが、どうやら彼の予想は外れていたらしい。実際難波もひとりずつ訊いていく予定で、たまたま目に入った月島にまず訊いただけだった。


「そうなんですかあ。や、でも訊いてきますよ、難波さんもやらんとあかんことあるでしょ? メンバー同士にやらしてくださいよ、そういうのは」

「……でしたら、お願いしても?」

「合点承知ですわ。訊いたら難波さんに教えればいいですか? それとも共有のメッセで送ればいいですかね」

「そうですね共有で。あの」


 難波は月島を再度呼び止めた。不自然な呼び止め方だったが、何となく気になったので今訊いてみたかったのだ。今まで他のメンバーにしてきた「どうですか?」という問いを。

 雑談とは言っていたが、実際は面談の下準備のようなものだ。野々宮にも同様の質問をしてもらい、ざっくりと何を話したかは互いに共有している。内容は十人十色、否、九人九色で大変興味深い。そしてこの質問をするのは、月島が最後の一人だった。


「どうですか、このグループは」

「……正直未知数ですけど、そこが良いですよね。底が割れていないというか、まだまだ伸びしろがある感じ? 今まで入ってきたグループは、なんていうか、求められていることがはっきりし過ぎててデビューとか考えられんかったもんで」

「そうですか……なるほど」


 月島は今まで三つのグループに所属していた。どれもクオリティの高いものであったが先程彼の言った「求められていることがはっきりし過ぎている」がまさしくその通りで、どれも役目が終わったかのように期間限定で終わっている。

 去年ヤギリプロモーションからデビューした『Nbエヌビー』のメンバー五人の内、三人と同じグループだったこともあった。だからこそ難波は不思議だったのだ、どうしてサバイバル番組『Never betterネバーベター』に彼は呼ばれなかったのか。


「だから今はね、とにかく楽しんでやろうと思っとりますよ。どうせこれが泣いても笑っても最後のチャンスで、だったらずっと笑ってた方がええやないですか。自分のためにも、メンバーのためにも」

「月島くんの前向きさ、素晴らしいと思います」

「ですよね、めっちゃ評判良いんですよ『根拠ない』って! んじゃ訊いてきます~」


 最後は茶化したように終わったが、その前の言葉は本音だったのだろう。

 随分と重たいものを背負っている。ずっと考えてはいたが、今更ながら実感した。

 自分は、九人の人生を背負っている。


   〇   〇   〇   〇   〇


「まずは部屋割りだろ」


 日出が言い放った言葉に全員がうんうんと頷いた。

 桐生が到着し、掃除が何とか終わったところで昼食。弁当のゴミをまとめ終わったところで、ドキュメンタリーチームが機材を持って宿舎に訪れた。そう、今日も実は撮影日なのだ。だからこそ一生懸命掃除していたという訳である。無論、住むのにほこりっぽいというのも嘘ではない。

 機材をセッティングし終えたリビング、そこでメンバーがカメラに向き合う形で横一列に座る。下手側から御堂、南方、間にあるソファに月島、土屋、日出、床に戻って桐生、水面、森富、高梁の並び順だ。

全員が出方を窺っているなか、最初に言葉を発したのが日出でそれが冒頭のものである。流石最年長、切り込み方に迷いがない。


「じゃあリーダーも決めないといけないんじゃないすか」


 次いで声を上げたのは土屋だった。それにも周りは同調するよう頷くが、唯一日出のみ困惑の表情を浮かべている。どういう意味の顔、と日出以外が推測し始めたと同時に彼はなんてこともなくとんでもないことを言った。


「リーダーは月島だろ」

「は?」

「え、そうなの?」


 水面がきょとんとした顔で月島を見遣る。いやそんな話は一言も聞いていない、と月島は目だけで訴えていた。それはそれは綺麗な訴え方だった。思わずずっと眉間に皺を寄せていた桐生が笑ってしまうくらいには。


「完全につっきー『初耳です』って顔してるの笑うんだけど」

「やって完全に初耳やからしゃあないやん……」

「マジで初耳なんですか?」

「う、うん……、もしやオレの記憶力がアレなだけで実は話された、とか?」


 恐る恐ると言った体で月島は日出を見遣る。御堂と南方はその様子をニヤニヤしながら見守っていた。案の定日出は「今初めて言った」と平然と呟いた訳だが。


「でも逆に考えると月島がいちばん丁度良くない?」

「どんな理由やねん⁉ 丁度良いってなに⁉」

「……ああ、年齢的にも、入社歴的にも、確かにそうですね」


 桐生がぼつりと呟けば、確かに……という納得の空気が流れた。

 ヤギリプロモーションでは暗黙の了解として、グループ最年長者はリーダーをやらない。これは年功序列という日本の体質と、リーダーという責任と権力の大きさを重ねてはいけないというのが発想の元だ。増長し独裁者じみてしまう人間も少なくはない。

 またそれに加えてヤギリプロモーションにおいては、入社歴というものも重要になってくる。むしろこちらの方が事務所内では意味合いが大きい。


「ヤギリって自分より歳が上でも入社歴が下だったら後輩扱いになるもんね」

「つまり私はあきくんの後輩ですね?」

「三ヶ月しか違わないけどまあそうだな」


 水面の言葉を引き継いで、高梁が土屋に了解をとったがつまりはそういうことだ。

 そのため入社歴が長い人間もリーダーをしない、という暗黙の了解がある。そのことを踏まえると、確かに月島がリーダーというのは丁度良過ぎる。


「年齢は俺らの次だし、入社歴は最長が水面で次が俺。で、月島は俺の同期だから、ほら」

「なにが『ほら』やねん。ええ……、オレ向いてへんよ? 先頭歩くのとか、みんなまとめるのとか」

「大丈夫だよつっきー、どうせお飾りだから」

「それもそれで腹立つな⁉ なんやねんみなもん、喧嘩か⁉」

「乱闘はお控えくださーい」


 強い関西弁に後輩が驚いたのを見かねて、御堂が茶化すように言葉を挟んでいく。


「でも僕もやるならつっきーだと思ってたし、つっきーが良いと思ってたよ」

「ええ……なんでいっちゃんまでそんなこと言うん?」

「実は俺も思ってました。だって月島くん、いちばん周り見てますし……」

「南方まで……まあ、褒められるんは悪い気せんけどな」


 ちょっと良い気になってきてしまった月島を見て土屋が「ゆうくん、もうちょっと褒めてください。多分それで落ちます」と南方に囁く。いや聞こえとるわ、という月島の発言で場は笑い声で溢れた。


「先頭に立ったりメンバーをまとめたりするだけがリーダーの仕事じゃない。殿を務めることも、メンバーの意見を尊重することもリーダーの仕事だ」


 空気が一瞬和んだのを見計らって、日出は淡々と言葉を紡ぐ。途中高梁が「しんがり?」と首を傾げて森富に「いちばん後ろです」と教えてもらっていた。厳密には少し違うが、置いといて。


「俺は月島がリーダーじゃなきゃ嫌だ」

「子供ですか?」

「やだやだ、滉太がリーダーじゃなきゃ嫌だい、やだやだ」

「ゆうくんが子供とか言うから……」

「そ、そんな分かりやすい駄々っ子になることある?」


 後ろに倒れ込んで暴れ出しかねない日出だったが、すっと我に返り「頼むよ」と月島に向き合う。どういう切り替えなんだそれは、情緒が不安定なのか?


「まあ、……しゃあないなあ」


 結局月島が折れる形でリーダーは決定した。場にリーダーコールと手拍子が響く。その持て囃され方に慄きつつ、慣れていない素振りで月島は全員と向き合う形になって拍手を盛り立てた。そして指揮者のように腕を振るい「パン、パパパン!」と締めた。


「これ一回やってみたかったん! じゃあ部屋割りはオレ主導でやりますか」

「よっリーダー頑張れ~」

「ありがとなみなもん、頑張るわ」

「リーダーお茶持ってきて、喉乾いた」

「いっちゃん、リーダーやなくてそれはパシリや」


   〇   〇   〇   〇   〇


 という訳で、と月島は小さいホワイトボードを携え、部屋割りについての話し合いを開始した。あのホワイトボード、サッカーやってた時に使ってたなあ、と森富はふと思った。


「部屋は全部で四つ。みんな見たと思うけど、二人部屋が三つに三人部屋が一つやな。決め方なんやけど──」

「じゃあ俺、三人部屋が良い」


 そう手を挙げたのは案の定というか、やっぱりというか、日出であった。最早この流れが『read i Fine』特有のものになりつつある。しかし自ら三人部屋を志願するとは、と全員顔に出さないように努めたが驚いてはいた。どうしても一部屋当たりの人数が多い方が精神的な負担は大きい。


「いいんですか? 人多い方がたいへんですよ?」


 高梁が、全員が思いつつも口に出せなかったことを易々と言い放つ。何故口に出せなかったか、ほとんどのメンバーは三人部屋をお断りしたかったからだ。もしこれで日出のことを気遣ったら考えを改めた彼が「やっぱりやめていい?」と言い出しかねない。

それを予想してできれば一枠埋める方向に行きたかったのだが、高梁が言い出してしまったからには仕方がない。月島は「せやで、大変やろ」と追随して日出に声を掛けた。


「え、別に」

「別に……なん?」

「家族多いから誰かいるのは慣れてるし、なんかみんな三人部屋嫌そうだったから手っ取り早く埋めただけだよ。最年長だしさ」

「ちょっと待って、お兄ちゃんにそれ言われるとぼくの立つ瀬がない」


 水面が渋い顔をして日出に向かう。ほぼ誤差のグループ次男だ、ならば自分も年下に気を遣うべきではないか、三人部屋に入るべきか。そう言い出そうとした瞬間、土屋の「それは無理でしょう」の一言で出かかっていた言葉は霧消した。


「水面くん、春から藝大生でしょ。課題も多そうだし、三人部屋で余計にメンタル削ってる場合じゃないんすか?」

「確かに、亜樹は良いことを言う」

「ありがとうございますぅ」


 御堂は土屋の的確な意見を褒めつつ、月島からホワイトボードを奪う。ホワイトボードには四つの枠が描かれており、それぞれ一から四までの部屋番号が振られていた。一、二は二階、三、四は三階の部屋で二番の部屋が三人部屋だ。既に日出の名前が記入されている。

 御堂は問答無用で三番の部屋に水面の名前を書いた。そして月島にホワイトボードを返却してふんぞり返る。メンバーというか水面に向けたアピールだ。文句あるか? という。


「つよいです!」

「サンキュー、高梁。これくらいは普通だよ」

「褒められた行いじゃないんだけど……」

「たまには大胆さも必要だよ? ゆうもこれくらい強気で」

「早死にしそうだからなんかやだ」


 ひとまず佐々木兄弟の居所は決まった。あとは残りの割り振りであるが──


「じゃあ私、さんにんがいいです!」


 と高梁が綺麗に手を挙げたので三人部屋の二枠目が埋まった。となると最後の一枠は誰かという話になるが、時間がかかりそうだったため一旦他の部屋割りに取り掛かることにした。「あの」と森富が控え目に声を掛ける。


「森富、どしたん」

「や、その、雑誌で読んだんですけど、南方くんって難しい大学目指してるじゃないですか」

「え、俺?」


 いきなり話を振られ驚く南方。森富から話を振られたこともそうだが、彼が自分の載っている雑誌を読んだことにも驚いた。たまたまだろうが、よく内容を覚えているものだ。


「今年受験生ですしその、二人部屋のが絶対良いと思って……」

「森富って良い子過ぎるってよく言われない?」

「はい⁉ い、言われないですよ、悪い子ですよ俺……」

「確実に悪い子ではない」


 桐生の放った言葉に森富以外のメンバーが頷いた。自分も高校に上がったばかりで尚且つ住環境も今までとまったく異なる、恐らく仕事の質も今後どんどん変化していくだろう、そんな状況で他人を気遣えるのは人間として非常に出来過ぎている。この子が末っ子か、と思うと身の引き締まる思いだ。この子に恥じない先輩であらねばと思わせてくれる。


「じゃあ南方はぼくと同じ部屋で良くない? 課題に追われる者同士でやっていこうぜ~」

「あ、じゃあそれで。勉強教えてくださいね?」

「ううん、学科は最低限しか勉強してないから期待しないでね……?」

「冗談ですよ」


 こうして三番の部屋は埋まった。残りは三人部屋(二番の部屋)の一枠と、一番の部屋と四番の部屋だ。そこでふと月島が「そや、森富」と声を掛けた。


「お前も高校生なったばっかで宿舎生活とか厳しいやろ? 好きな部屋と相方選んでええよ」

「え、」

「それ、すごく良いと思います」


 思いがけない提案に硬直した森富の代わりに桐生が賛同する。桐生も自身が余裕のない側であることは自覚していたが、それでも森富よりマシだと感じていたのだ。この末っ子は中学までは地元の公立に通っていたが、高校は都内の芸能科に通うことが決まっている。知っている人間が誰もいない環境だから人間関係は一から、それは当然辛い。まだ学校生活の人間関係が地続きである自分の方が楽なはずだ。

 桐生の賛同を皮切りに他のメンバーからも肯定の声が上がる。硬直していた森富は次第に委縮していった。ここで「ラッキー」ではなく「申し訳ない」と思えるのは美徳だ、ただ行き過ぎた美徳は自分の身を滅ぼす。


「森富、」


 ある程度静観していた日出が口を開いた。


「お前は気を遣われて恐縮してるかもだけど、俺らがお前に気を遣うのは潰れたら困るからだよ。分かる?」

「あ、その、……えっと、」

「別に甘やかそうとか特別扱いとか、……まあしても良いかなってお兄ちゃん的には思うんだけど」

「おい最年長、なに言い出しとんねん」

「だってかわいいもん」


 真顔で私情に満ちた発言をする最年長に周囲のメンバーはずっこけた。ただ日出の言うこともよく分かる。擦れていなくて、少しおぼこいのだ森富は。これは確かにかわいい。


「かわいいから甘やかしたいっていう気持ちもあるけど、本質的な意味合いとしては最年少気遣えないグループってどうなの? ってとこだし、年下の子たちにしんどい思いを年長組的にはさせたくないから、っていうことです。これなら分かる? 大丈夫?」

「大丈夫です! ありがとうございます!」

「ということでマッチングタイムです」

「えええ⁉」


 日出がすっと両手を祈るように組み、目を瞑った。祈っちゃったよ、と土屋は内心ツッコむ。

そんな彼に「まっちんぐってなんですか」と訊く高梁。土屋もなんて返せば良いのか分からず、最終的に「カップル成立的なやつ」と返した。高梁はそれを聞いて自分も祈る姿勢に入る、お前もかいと呆れた土屋だったが、実際土屋以外のメンバーは全員そのポーズだった。水面と南方は部屋が決まっているのにも関わらず、である。

 異様な光景だ、と思っていたのは土屋と森富だけだった。ふたりの視線がばちっと合う。


「じゃあ、亜樹くんで」

「あっやっぱそうなる?」

「なんだよう、土屋かよ~」

「いや、水面くんと南方くんはもう決まってるじゃないですか……?」

「信じてたのに森富!」

「ご、ごめんなさい! でも俺、あんまり御堂くんと絡みなかったんで……」

「いちばんよく知ってる土屋選ぶんは当たり前やろな。はー、解散解散」

「えっ、解散はやめてください! ごめんなさい!」

「嘘やで、解散はせえへんよ」


 という訳で四番の部屋は土屋と森富に決まった。残るは三人、月島、御堂、桐生である。するとここで高梁が動いた。


「このさんにんだったら、桐生くんがいいです」

「お?」


 まさかの三人部屋の残り一枠に桐生を指名してきたのだ。真意は分からないが目は真っ直ぐメンバーを見据えている。思いつきで言ったようにも聞こえるが、あまりにも曇りない眼のためメンバーの大半は気圧されていた。

 だが日出だけは同室の縁ということなのか、意図を把握したようでソファの上から床に座る桐生を抱き締める。バックハグだった。


「ちょちょちょ、ちょ待って、待ってください日出くん!」

「うちの子です。もうどこにもやらない……っ」

「何の役に入ってるんですか⁉」

「この三人で幸せに暮らすんでよろしく」


 日出は桐生をバッグハグしたまま、腕を伸ばして高梁の手首をとった。高梁は顔を輝かせて自分も日出の手首を握る。イマイチ納得できていない桐生だったが、選ばれたということで気分は悪くなかった。

 つまり自ずと残る二人が同室となる。一番の部屋の住人は月島と御堂だ。


「オレ、ラッキーやん」

「残り物には福があるってやつだね、つっきーよろしく」

「うぇーい」


 御堂と月島は腕を伸ばして互いの拳を軽くぶつけた。

 こうして大きな揉め事もなく部屋割りは決まり、撮影は終了。各々が部屋に荷物を運び入れる様子を撮り、ドキュメンタリーチームはその場を退散した。


「それでは改めて、明日からもよろしくお願いします」

「みんな、お疲れだと思うんでゆっくり寝てくださいね!」


 お疲れ様でした、と最後に難波と野々宮が家から出て宿舎内は本当に『read i Fine』のメンバーのみとなる。宿舎内のルールであったり、家事等の当番であったり本来ならば色々決めないといけないのだがそれはまた明日にして、全員真新しい匂いのするシーツで泥のように眠った。

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