Quarter2 零と流水を極めし者

「流水が劣化品だと? フッ、笑わせる………『零』が『目』を持たないでどうやってリングにボールを入れるんだ?」


 浅井が笑っていう。


「今、俺に得点を居れられてたやつが言うセリフなのか?」


 流水のレジェンズがボールを持てば浅井にボールを転がして渡した。


「貴様らごとき、俺1人で十二分だ………」


 流水のレジェンズが己の力の片鱗を見せ付け様とする。


「待て、それを上杉に見せるな………浅井の相手は俺がする………」


 流水のレジェンズが両手を波のごとく一瞬動かした。


 しかし、即座にそれを辞める。


「用心深いな………確かに、今の上杉はリミッターが外れかかっている。真似事でもされたら大変かもな………」


 上杉は流水のレジェンズが見せる動きに何の意味があるのか理解できなかった。


 毛利もそれを見たが、いまいち掴めていなかった。


「何をするつもりか知らないが、『超人』の俺に人間が勝てると思っているのか?」


 軌跡のレジェンズは人であって人ではない。


 人外だとか魔族だとか、ファンタジーな種族など空想の物語である。


 これは現実に起きていること、浅井も紛れもなく現実に起こった人間の現象だ。


「俺の『零』に気づけるのは『桜井』だけだ!!」


 浅井が『零ドライブ』で勝負に出る。


 『零』とは、浅井がいかなる行動をしていても人間の脳には認識できない。


 詰まり、試合をしている選手を含めて、会場の観客も浅井が動いていることに認知できないのだ。


「俺の動きをお前らが捉えられることなど出来はしない。」


 浅井がシュートするときにボールを払われてしまった。


「なッ!!?」


 シュートを妨害したのは軌跡のレジェンズではなかった。


 『流水のレジェンズ』であった。


 軌跡のレジェンズも浅井を捉えていたのか、同じくボールカットモーションに入っていた。


 軌跡のレジェンズが言う。


「なぜ、邪魔をした………」


 流水のレジェンズが答える。


「『流水』が『劣化品』と言われたので、ここは俺が………な。」


 不敵な笑みを浮かべて流水のレジェンズが下がっていく。


「フン………続きだ………」


 軌跡のレジェンズが怪訝に思っているところ、催促する。


 浅井は二人から不穏なものを感じ取る。


「おい!! 毛利!! 俺を眠らせろ!!」


 浅井の言葉に毛利が従う。


「貴様らがどうやって俺の『零』を見極めてるのか知らねぇが、俺の力は『零』なんて生易しいものじゃねぇ!! ここからが俺の『真の実力』よ!!」


 全くもってその通りである。


 浅井の零に悩まされた斎賀高校だったが、零など、始まりでしか無かった。


 『完全睡眠』


 それこそが浅井の本気の始まりでもある。


 しかし、浅井の真の力はこれだけではない。


 スポーツマンやヤクザ、脳筋がゾーンに入るように、科学者にも完全睡眠である状態に入る。


 ゾーンに入るのはゴミにもできる。


 腐れ科学者にも完全睡眠を有効活用できないで税金だけを蝕んでるクズもいる。


 浅井はそんなゴミやクズ共とは違う。


 ゾーンにも入った経験はあるし、それ以上のものも存在する。


 コンピュータや人工知能、AIのように、脳を超える処理速度、しかし、それは、人間が脳を阻害しているからだ。


 神経だけに従う愚者、浅井もそれだった。


 脳だけに従う軍師、何かを生み出す時は必ず、脳で考えなければならない。


 そして、その『閃き』が『天』を切り裂く。


「何だ!!?」


 すべてのプレイヤーが天を仰いだ。


 気が付けば浅井がボールを奪っていた。


「なんと!! 雲が割れている!! 一体どうしたのか!!?」


 天が割れる現象、それは、物理的なものもあれば光学的なものもある。


 浅井は常人を超える脳の処理速度で流水のレジェンズから『目』を奪ったのである。


「ば、馬鹿な………!!? 今のは、まさか!!」


 『流水の瞳』で何を見たのか、『完全睡眠』している浅井が『喋る』ことは無い。


 『覚醒』してからすべてを話してくれることだろう。


「しかし、よくわかりませんが、流石は『完全・零』、『流水の瞳』は恐らく、全ての『波』が見えてるのでしょう。かつて、上杉さんがすべての『波』を見たかのように!!」


 その言葉に、流水のレジェンズが驚く。


「軌跡のレジェンズの言う通り、俺がすべての力を発揮したら、上杉も俺に匹敵する強さを持っていたかもしれねぇな………ここは、軌跡のレジェンズに任せるとしよう………」


 まるで、流水のレジェンズの方が上のような言い方だ。


 しかし、実際どちらが上なのか、それはまだ定かではない。


 だが、軌跡のレジェンズが力の片鱗を見せた時、流水のレジェンズは『流水の瞳』までで止めている。


 『完全・零』には誰も認知することはできない。


 そんな完璧な脳処理の中で誰かが追いかけてきたら、脳はどういう処理をするのだろう。


「な、何だ!!? 浅井の姿が、見えてくる!!」


 観客の一般人が言う。


 しかし、ただついてくるだけでしか無い。


 それなら、見えない何かを追いかける軌跡のレジェンズというだけになる。


「果たして、どれだけの人間が気付いただろうか………この俺の能力の片鱗に………」


 普通の人間の脳は一つ、それをMAXまで力を発揮させた場合、個人差は出るかもしれない。


 だが、異常な現象だ。


「ば、馬鹿な………あいつは軍師か!!?」


 毛利がなにかに驚いている。


 それが何なのか、誰も理解はできない。


「へぇ~、流石だね。敵を無得点に抑えて、200点を取る。流石は毛利軍師だ………」


 寝ている時こそ内蔵も機能を停止し、脳が唯一自分の仕事ができる。


 記憶の処理、それが一般人の寝ている時に行う脳の使い道だ。


「ちッ………どういうことかというと、脳の処理速度が最高クラスの浅井に眠ってもいない軌跡のレジェンズが『妨害』できているということですよ!!」


 脳の処理速度が互角という状況、桜井は『特殊』な『コート』の『条件』を設けて『経験』で処理速度を越えようとした。


 しかし、軌跡のレジェンズはそのアドバンテージも貰っていないのだ。


「なぜだ………なぜ着いてこれる!!?」


 脳が睡眠状態から驚いてしまい、目覚めてしまった。


「馬鹿!!? なぜ、『目覚めた』のですか!!」


 毛利の言う通りである。


 平常心でも脳をフルに使える男、その結果を軌跡のレジェンズが示している。


 それが何を意味するかなど、瞬時に理解できるはずだ。


「その通りだ。なぜ、目覚めた………」


 浅井が覚醒状態になれば軌跡のレジェンズによる脳処理に敵うはずもなく、斎賀高校はすべて抜き去られてしまう。


 気が付けば、斎賀高校は8点、敦煌高校は12点であった。


「まだだ!! まだ浅井には氷川主将をも超える切り札がある!!」


 御堂が言うと浅井は意地でもそれをしなかった。


「まだだ!! まだ『プロセス・ワールド』も『フル・プロセス』も使ってねぇ!! 俺の『本気』は………氷川と桜井だけのものだ!!」


 再び、完全睡眠に入るも脳処理で上回る相手にフル・プロセスに入ることもプロセス・ワールドを構築することもできない。


 残された道は決まっていた。


「『零スタイル』では勝てないどころか通用もしない。なら、『雷神スタイル』になるまで、か………」


 浅井の真の切り札、しかし、それを使いすぎれば命に関わることになる。


 人間の心臓は10億回とか20億回までしか鼓動を打たない。


 人生で決められている。


 人間が雷に打たれると、3倍の速さで動けるようになるらしい。


 浅井は雷に打たれたが、死にはしなかった。


 代わりに、普通の人間よりも3倍の速さで動くことができる。


 その代償として、心臓の鼓動も3倍になる。


「『命』を『賭けて』『貴様』を『倒す』!! 『覚悟』しろ!!」


 言葉の通り、命がけである。


 流石の軌跡のレジェンズもこれには勝てないだろう。


 しかし、軌跡のレジェンズはなぜか『2倍』の『速さ』で動くことができた。


「ま、まさか………!!?」


 毛利があることに気がつく。そして、嘆く。


「なぜだ!! なぜこんなことに気付けなかったんだ!!!」


 毛利が悔しがると敵の司馬から慰めが来る。


「無理もないよ。軍師と言えど、相手も同じ人間と考えるのが普通さ。君が気付かなくてもおかしな話じゃない。それに、気付いたってことはどれだけ『絶望』なのかもわかってくれているよね? どう転んでも勝ち目なんて無いんだよ。」


 毛利は戦っても居ないのに崩れ落ちてしまった。


 無理もない。


 2倍ということは、そういうことなのだから………


「流石に、雷に打たれた人間は異常な強さだ。だが、この俺は普通の状態で常人の2倍の速度………氷川の神速とどっちが速いか聞いてみたいくらいだね………」


 浅井は何も感じてなど居ない。


「俺からすれば、どっちも遅い………」


 それを聞いた軌跡のレジェンズは思わず笑ってしまう。


「確かに、そうだね!! なら、少し力を見せてあげるよ。俺は、お前以上に『特別』だからね………」


 余裕で構えている浅井の元で毛利の不安は的中する。


 誰よりも速い浅井が人を見失う。


 何かが横を通ったということだけはわかった。


 振り返ると軌跡のレジェンズがシュートを決めていたのだ。


「ま、まさか………」


 浅井は信じられなかった。


 自分よりも速い人間が存在するはずがない。


 その通りである。


 軌跡のレジェンズは雷に打たれなくても『超人』だった。


 しかも、浅井と違って体への負担も無い。


 それが彼の『普通』なのだ。


 軌跡のレジェンズに代わって毛利が言う。


「あれが………恐らく、彼の『普通』なのです………!!」


 『超人』が『普通』………それが軌跡のレジェンズだ。


 生まれたことが『軌跡』、いつでも軌跡がその人にだけ起こる。


 そんなファンタジーな話ではない。


 空想を語るのは無能、夢を描くは机上の論、そういう人間が生まれたことに『軌跡』、違う。


 軌跡などではない。


 『科学的』に生まれた『必然』、それが、『軌跡のレジェンズ』だ。

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