第25話 命の消える時。
ようやく俺の生が終わる。
もう何年だ?
通算なら500年を超えている。
それが女神との約束だった。
「タカサキ、あなたは500年生きて神になる事が、この手助けの対価です。神になったら人の部分を切り捨てて、タカサキは死に、残った神の部分、その力を機会神を失ったこの世界に捧げなさい」
「それでいいのか?」
「それともう一つ、その為に私が調停神として力を奮いました。貴方は全く新しい生を、今持てる力の全てを使って生きなさい」
そう言われて両親の顔や桜子達の顔が思い浮かんでしまう。
約束をした。
今度こそ終わらせると、桜子の家族で終わりたいと言う言葉を反故にしたくなかった。
俺はどうにか対価を変えられないかと提案しようとした時、姉の調停神が「私が時を戻し、鷹咲孝幸と美幸の身体を治す。それにより貴方は鷹咲孝幸と美幸の子供として生まれてきます」と言った。
「え!?」
「もう二井波や髙﨑との因縁も何もありません。彼らにも別の生を与えますが、決して貴方達は交わらない。貴方はキチンと鷹咲幸也として生まれます。ただ一つだけ、貴方の家族はやり直す以上、貴方を覚えていない。この暗い戦いを共有せずにキチンと生きてやり直しなさい。そして有終の美を飾り、人生が終わりを迎える日に私達は会いに行きます」
俺はもう一度人生をやり直す事になった。
もう何度目かの赤ん坊に幼稚園に小学校…。
だが今までとは絶対的に違うものがあった。
安らぎと平和。
気を張らない人生は初めてだった。
そして調停神は本当に俺の能力を全て俺に残していた。
俺は1人で400年以上を生きた男で、全てをそつなくこなす。
父さんも母さんもいつも笑顔だった。
俺はまた大阪大五郎に会った時、ファンタージから戻ってきた事、もう行けない事を告げて拝み屋の手伝いをして、今回も上野のお義父さんを紹介してもらい、その伝手で桜子を紹介してもらった。
久しぶりの桜子を見て緊張した俺は、上ずった声で「初めまして、鷹咲幸也です」と言うと、桜子は今回も初めての事に緊張した面持ちで、「はじめまして、上野桜子です」と挨拶を返してくれた。
前は、少しだけ無理をして桜子の好みに合わせていたが、この桜子は俺と好みが一緒で驚いた。
桜子のペースでと思っているのに、桜子がリードをしてきて告白のお膳立てまでされて、俺は強引に結婚を申し込まされた。
元々するつもりだったが、ペースが乱されて驚いたり嬉しかったりした。
桜子は俺の両親や祖父母とも仲が良くてなんの心配もいらない。
生まれてくる子供は一二三と蓮。
これは調停神がやってくれると言っていた。
その為に、必ずそれまでに桜子と結婚をして子供を授かるように注意されていた。
2人もなんの心配もなくスクスクと大きくなり、初めて一二三の就職と蓮の大学合格を見られた。
蓮の彼氏が家に来た時は、調停神に教わったポーカーフェイスで何とか乗り切ったのだが、蓮からは「お父さん、嫌だった?顔に出てたよ」と言われて驚いてしまった。
「いや、彼が嫌なんじゃない。誰が来ても嫌さ。彼は良さそうな子だ。相性占いも覚えるからやってみようか?」
「お父さんはいい結果でも「やめた方がいいな」とか言いそうだし、占いがなくても悪そうな人なら本気で止めてくれるって信じてるから平気」
そんな話もした。
実際に心眼術で彼を見て、彼が本気で蓮に好意を持ってくれていると知った日には、疑ってしまった自分を恥じた。
蓮の結婚式で一二三の作ったムービーを見たら、俺は号泣してしまった。
元々一二三には才能があったのかもしれない。
一二三は蓮に遅れる事2年だったが、無事に結婚をして独立をした。
一二三と蓮が孫を連れてくるようになる頃に、父さんと母さんは亡くなった。
非業ではない初の死に別れで、泣いてしまう俺に、「泣いてくれてありがとう」と母さんは言い、父さんは「また会えるさ」と言ってくれた。
その後すぐに上野の両親も亡くなって、また泣く俺に「君のような男に会えて桜子は幸せ者だよ」、「安心して桜子を任せられました」と言ってくれた。
孫達には能力を隠しながらも、普通の老人ではあり得ない事を沢山したら、「スーパー爺ちゃん」と呼んで懐いてくれた。
そんな孫達が大学に入った頃、身体に衰えを感じた。
初めてのことで驚いてしまったが、これが終わりかと内心喜んでしまった。
本当なら家で死にたかったが、そういうわけにもいかないので、入院して半月が過ぎた。
胃ろうや無理な延命は望まなかった。桜子はそれを受け入れてくれた。
桜子は俺よりヨボヨボなのに、元気に毎日病院まできてくれる。
そんな日々だが遂に命の底が見えてきた。
日々、弱っていく身体。
最後のひとかけらの命の火が消えるまで後少し、俺もご都合主義だなと思えたのは、キチンと土曜の午後にお迎えが来るように弱っていて、一二三達はキチンとした格好で見送りに来てくれた。
「おぉ、正装で来るなんて偉いな。桜子、いつもありがとう。先に行って待ってる。でもゆっくり来てくれ。一二三も蓮もまだまだ危なっかしい」
俺の言葉に桜子は、「はい。何回も何回も私といてくれて、ありがとうございました」と泣きながら笑顔で言ってくれた。
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