第24話 最後の戦い。

ファンタージに入った俺は、やる必要はないはずなのだが街を見て回る。

チャンスの女神はキチンと街を増やして人口を散らしていた。

これだけ見れば奴は真面目な女神なのかもしれない。

だが奴は人間をなんとも思っていない。

だから俺達は相容れない。


俺が失われた聖都に着くと、妹の調停神が「タカサキは真面目だねぇ」と言って出迎える。


「俺もそう思う」

「まあ、だからお姉ちゃんも気に入ったんだよ。ちなみにお姉ちゃんはガチギレ中だから怒らせないでね」


俺は耳を疑いながら館に入ると、真っ赤な髪を更に赤く光らせながら、バチバチと放電する調停神が、殺気を振りまきながら「すぐ始めるわよ」と言った。


妹の調停神が「お姉ちゃん!タカサキ殺しちゃダメだよ!」と慌てて止めようとするが、姉の調停神は「私がそんなミスをする訳ないでしょ?」と圧を放って一蹴する。

レベル1で魔王に挑むより怖い威圧感にビビりながら再度聞くと、俺が最後に教わるのは威力の底上げと神殺しの力だった。


「神殺し?」

「ええ、簡単に言えば、神と人との違いを意識…、認識できないと攻撃が通らないのよ。神の身体には常に防壁が張られていて、その防壁が迎撃も兼ねているから、高威力の力もないと減衰しちゃってダメなの。人によっては防壁破りと教える神も居るわね」


殺気混じりに説明する姉の調停神に、妹の調停神が「お姉ちゃん、教える前に怒るのやめなよ。タカサキ死んじゃうよ」と言ってくれるが、姉の調停神は止まることなく「はぁ?許せる訳ないでしょ!?病院と小学校でテロ?ふざけんじゃないわよ!」と、怒鳴りながらバチバチと放電する姿は、前回の女神らしいイメージを台無しにするもので俺は目を丸くした。


俺の顔を見てニヤニヤした妹の調停神が、「ほらー、タカサキがドン引きしてるよ?」と言うと、姉の調停神は睨みつけるように「…わかっ…」と言って表情を戻して、「わかりました」と前回の女神らしい顔つきになった。



以前の顔に戻った姉の調停神は早速訓練を始めると言って、大岩のような物を取り出した。


「これは神の防壁で生み出した塊。神殺しを理解できていないと破壊できないの。この塊で普段の機会神が纏う8割くらいの強度ね」

「ならもう数段上まで届かせないとダメなんだな」

「そうだよ!頑張ってねタカサキ!」


これが本気で大変だった。

最初は神殺しを理解しきれない俺が訓練の意味を履き違えていて、威力を求めて禁術まで放ったがかすり傷のみで落ち込んだ。


威力の底上げに関しては同時使用と同じ感じで、方法のみを仕込んで貰い実践をする。

札に書く呪符の術回路の繋ぎ方と言うべきか、安全装置代わりの抵抗とブレーカーを除去して直結する方法のおかげで、ピーキーになったが今までの3倍になった。


だが塊は擦り傷だらけなだけで未だ壊せずにいた。


「くそっ!時間がないのに!もう戻らずに終わらせたいんだ!桜子!一二三!蓮!」


憤りが口から出る中、姉の調停神が「心の問題よ」と言いながらコロッケを持ってくる。


「コロッケ?」

「あなた好物じゃない。よく鷹咲の母に頼んでいたでしょ?」


俺はそれを聞いて「またコロッケなの?」、「うん!お母さんのコロッケが美味しいから好き!」というやりとりを思い出した。


この戦いを打ち明けた後、母さんは「あれは本心だったの?」と聞いてくるくらい、俺といえばコロッケだったと言われて、父さんからも「健康診断が不安になるくらいコロッケだったね」と笑っていた。


調停神のコロッケは、懐かしい母さんのコロッケの味だった。


「これ…」

「貰ってきたのよ。覚えてない?つまみ食いを疑われたでしょ?」


確かに俺はつまみ食いを疑われた。

母さんは怒りたいのではなく、揚げ油で火傷をしないか心配してくれていた。

あの日のコロッケが紛失していたのはコレだったのか?あんな何十年も前のコロッケを、ここに持ってこれるなんて本当に神は凄いと実感した。


俺が「あの日の…」と聞き返すと、姉の調停神は「そうよ。それを食べて怯えるのはやめなさい。家族の顔を思い出しなさい」と言った。


「何?」

「終わった先、ファンタージに来なくて良くなった先の未来を考えて、怯えるのはやめなさい。それのせいで防壁破りが出来ていないのよ」


確かにそうだった。

何もない人生を呪って祟った。

平穏無事に死ぬことだけを願って生きてきた。


だがそれすらもなくなれば、どうなるのかと思った時、不安でたまらなかった。

口では桜子達の名前が出てきて、やる気にはなるがその先が怖かった。


俺の表情を見た姉の調停神は優しい顔で、「今だから対価の話をするわ」と言った。

俺は対価と聞いて「何?」と聞き返すと、姉の調停神は意地悪い表情で「無償だと思った?」と言う。


「違うのか?」

「無償ならここまで手厚くしないでスパルタコースよ」


そう言った女神の対価は、「いいのか?」と思わず聞いてしまうものだった。


「ええ、それくらいしないとチャラにならないもの。それを聞いたら尻込みなんてできないでしょ?」

「ああ。やってやる」


俺はコロッケを食べ終わると一気に防壁を破壊することに成功した。



姉の調停神だが案外人間臭い。

コロッケに触発されてコロッケを夕飯に作っていた。


「お姉ちゃん、美味しいけどコロッケとクリームコロッケとカレーコロッケとミートソースコロッケを出しちゃうと、タカサキが思い出の味をわからなくなるよ?」

「平気よ。見てたら食べたくなったの」


まあ美味い。

だがどうせならコロッケじゃなくて、トンカツとかにしてくれればいいのにな。


俺の訓練はわざと2ヶ月目、限界まで行った。

もうチャンスの女神が本気で防御をしても、余裕で倒せるくらいだと姉の調停神が教えてくれた。


そして今は調停神が帰りたい衝動を抑えてくれているので、不快感もなくはじまりの丘でブラブラとしている。



「タカサキさん!」


そう言って現れたチャンスの女神は、あのギラついた目で俺を見て、「どうされたんですか?タカサキさんの御力なら魔王にだって勝てますし、次の生でもきっと大型車が相手でも勝てますよ!」と言ってくる。


「だろうな。だが次は?何をぶつけてくる?飛行機か?大地震か?火山の噴火か?俺1人相手によくやる」

「タカサキさん!諦めないでください!確かに世界の補正がありますが、タカサキさんならいずれ…」


よく言えたもんだ。

終わらす気のない女神の励ましは滑稽でたまらなかった。


「もういい、もう終わりたい」


この言葉に女神が圧を出して「そんな事を言わないで!考え直してください!」と言ったがそれは懇願ではなく命令に近い。


「いいや、俺が戻れば桜子達も不幸になる。だから俺はこのチャンスを放棄したい」


その瞬間激高したチャンスの女神が俺に殴りかかってきた。

アキタならこの瞬間に死ぬが俺は違う。


「光壁術!」

目の前に光の壁を張って女神の攻撃を受け止めると、女神は手を見て驚いた顔で「なんで!?神の攻撃は防御が通用しないのに!?」と漏らす。


正直防いだ攻撃は重いし、壁越しに力を感じるので相当なモノだろう。だが俺に防壁破りを仕込んだ後の防御の訓練で、妹の調停神のパンチを防いだ俺からしたら軽いものだった。

あの姉妹、「私は弱いから妹と訓練をしなさい」、「お姉ちゃんのほうが強いからね?最後にはお姉ちゃんの攻撃を二発は耐えられるようになってよね」と言って、これでもかと痛めつけて瀕死になると怪我を治してくれた。

本当に弱いのか?嘘だろ?

あの姉妹は本当に所々で虚実を混ぜて喋るからよく分からん。


そんな事を思いながら「さあな。師匠が言っていたよ。俺には神格を感じるとな」と言って反撃に入る。


「閃光術!」


激しい光が女神の腕を焼くと、女神は痛みに顔を歪めて「ダメージも!?神格!?なんで!?…長く生きすぎた!?あれは本当だったの!?」と口走ると、「あり得ない!殺すしかない!」と言って更に襲いかかってくる女神。


確かに殺されて終われるならそれも良いが、生憎調停神の姉妹から対価と言われた事があるからまだ死ねない。


「殺されてたまるか!爆裂術!」


チャンスの女神はおそらく神だから、人の攻撃を喰らう想定は出来ていなかったのだろう。


攻撃が通るようになると後は簡単だった。

魔王戦並に簡単だった俺は、ヨロヨロと「こんな…こんなはずじゃ」と言うチャンスの女神に向かって大技の禁術を放つ。


その為にはじまりの丘を選んだ。


「これで終わりだ!閃光爆裂超熱術!」

俺の放った禁術は、辺り一面を焦土に変えながらチャンスの女神を消し去った。


光が晴れると、目の前には「お疲れ様タカサキ」、「おつかれー」と調停神の姉妹が現れる。

たいした会話もなく「じゃあ、対価の件。よろしくね」と言われて俺は眠気に襲われた。

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