真の敵を知ったタカサキユキヤ。

第20話 倒すべき敵。

女神の奴は「後一歩でしたね。これで因縁を振り払えばきっと終われますよ!」と言って俺を出迎える。


「本当か?実は上田愛子にはきょうだいが居て、襲いかかってくるとかないか?」

「おお!鋭いですね!髙﨑友たかさきゆうさんと言うお兄さんが居ますよ」


終わりの見えない戦いが嫌だったが、俺を奮い立たせるのは、桜子と子供達、そしてあのアキタの言葉があったからだ。


「ありえん。とりあえずそれは後だ。術を同時使用する為の師匠だ」

「はい!用意済みですよ。失われた聖都に居ますから、頑張って探してくださいね。後は今回も感想をお願いしますね」


俺はファンタージに降りて、先に用事をこなすと失われた聖都へと向かう。


毎回師匠を見つけるのは苦労する。

それもこれも人が増えすぎているからだ。


だが今回はすぐに見つかった。

街に入ってすぐに、赤い髪の毛の10歳くらいの女の子が、「待ってたよ。こっち」と言って、俺の手を引いて館へと案内する。



途中で「君は?」と聞いても、女の子は決して答えずに、俺を館に入れると「お姉ちゃん、連れてきたよ」と言う。


「ありがとう」と言って現れた女も赤い髪の毛の女で、似ているようにも見えるが姉妹には見えない気もした。

俺の顔を見て女は「鋭い感覚ね。まあ400年近く生きているからそうもなるわね」と言った。


「待ってくれ。あんたが俺に術の同時使用を授ける師匠か?」

「それもしてあげる。でも今のままなら決してこの戦いは終わらない。そしてこの世界は最悪の形で終わる」

女はそう言うとニコリと笑って、「私達のことは調停神と呼んで」と言った。


「調停神?」

「ええ、名前はあるけどこの世界では使わない。それは私も妹も一緒。だから呼びたければ調停神でもお姉さんや妹さんでも構わないわよ」


姉の調停神は「とりあえず時間はひと月。多分それでは足りないから、あなたはまた来る。それまでに必要な知識を身につけて、足りない情報を補うのよ」と言うと、妹の調停神が「お姉ちゃんの言うとおりにしてね」と言って笑いかけてくる。


俺は頷くことしか出来なかったが、唯一「魔王の奴の魔力が弱まる話なら、今回を見送って次回にすれば、2ヶ月は時間があるぞ?」と言ったが、即座に「それはダメ。今は隠匿の力でアイツには、[自身の用意した同時使用の師匠と訓練をする貴方]が見えているけど、あなたは常に最短でマスターをして魔王の所に乗り込んだ。もし今回だけ2ヶ月にしたら怪しまれて終わる」と怖い顔で返されてしまった。


そのまま「とりあえず教えてあげるから聞きなさい。そしてあなたがここで教わるのは、心を乱さないようになる心構えと、周囲を欺けるだけの話術よ」と勝手に今回教わるモノを決める姉の調停神に、「だがそれでは術の同時使用が…」と本来の目的を告げると、「それはすぐに授けてあげるわ。安心しなさい」と姉の調停神が言い、俺の中に確かに術を同時使用する為の知識や方法が入ってきた。


妹の調停神が「これでいいよね?」と言ってきて、俺は頷く事しか出来なかった。


「とりあえずあなたの敵は?」

「鈴木勝子、鈴木太郎、鈴木次郎、鈴木一郎、上田愛子、上田勇気」


「それが間違いよ。奴らは端末に過ぎない」

「端末?」


「ええ、あなたの敵はチャンスの女神…機会神よ」

「何?」


こうして俺は調停神から全てを聞いた。


どの神も世界を生み出すことができる。

だが生まれ持った才能に依存する世界作り、そして本能に近い神の力を使いたくなる為に、チャンスの女神で言えば人々にチャンスを与えたくなる。


「はじめは簡単なギャンブルだったり、人々が挑戦的に危険行為なんかに走るように導いていた。でもじきに物足りなさを覚えた機会神は非業の死を使い、機会を与える者としてファンタージを用意して、そこに人々を送り込んだ」

「それは非業の死を回避する目的があるだろ?俺もそれがなければ40と少しで死んで終わっていた」


妹の調停神が会話に参加してきて、「それが問題なんだよねー。機会神のジャッジが公平じゃないんだよ」と説明をする。


「公平性?」

「そうだよ。人間は今この時も死んでいるの。でもなんでタカサキだけはファンタージでそれ以外の人たちは呼ばれないの?」

妹の調停神は10歳前後に見えない知識で会話をするので、俺はごく普通に「何?呼ばれていないのか?」と聞き返していた。


「ええ、あの機会神は同時進行、マルチタスクのようなものには向いてないの。だからファンタージを生き抜けそうな人ばかりを狙う。そして固執する」

「固執…」


調停神の姉妹は、ゆっくりとだが必要な事を教えてくれる。


「まず、大事な事は死に戻りが存在していない事」

「なら俺は?」


「簡単に説明すると、40であなたは死んだ。次の生は16、これは1度目のファンタージで40年前に戻ったわけでも、それから16年生きたわけでもないの。あなたが生を受けてから56年が経過している」

「だが文化や文明、テレビやその中は過去と同じ番組だったし、亡くなった著名人達も存命していた」


俺の言葉に姉の調停神は「そう。機会神は神の力で40年前の状況を今に再現してやり直しただけ」と言った。

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