第19話 反撃の代償。

ここから先は文字通りイタチごっこだった。

心眼術を身につけた俺は、ひとまず上野の両親を救ったが、爆弾が起爆しなかった勝子は周囲の家ごとウチを巻き込んだ。

着火はしなくても爆風や瓦礫はダメージを与えてくる。


次は念動術を身につける羽目になる。

念動術で爆弾の爆発自体を強制的に抑え込んだ事で、ようやく勝子は諦めた。

警察には通報したが、俺に関わる事で警察がキチンと機能せずに、証拠不十分で勝子達の所まで行かなかった。


こうして1週間の猶予をようやく得た俺は、家族全員に心眼術を付与した伊達メガネを用意して毒物に備えた。


そうしたら毒ではなく薬を使ってきた。

毒も薬も変わらない気がしたのだが、食事にニトログリセリンを混ぜたり造血剤を混ぜたりされて殺されたので、薬学の知識を身につけて毒も薬も全て見破れるような心眼術を得て難を逃れたら、久々に夜中に睡眠ガスからの放火を行われた。


今度は換気術を覚えて、四六時中換気を行いガスを無効化する。


いい加減頭に来た俺は、勝子を現行犯逮捕しようとしたら、太郎と次郎が桜子と蓮を殺したので分身術を覚えて三体同時逮捕に踏み出た。


流石に証拠もある現行犯逮捕で、勝子と子供達は連れて行かれて終わったと思った。


だが甘かった。

鈴木一郎が牙を剥き、上田愛子と上田勇気が立ち上がってきた。


この3人、勝子が週末アサシンだったのが可愛いくらい、おはようからおやすみまで狙ってくるようになる。

初めの数日は勝子に比べたら可愛いもので余裕で返り討ちにできた。



だが奴らは本気になった。


「あなた…。心を鬼にして」

桜子は悲痛な顔でそう言った。


それには理由があって、通学途中の蓮を狙った鈴木一郎のSUVが、小学生の列に突っ込んで通学路を地獄にした。


俺は家族以外の被害に憤慨し、命を絶ってやり直す選択をした所で、桜子に止められた。


鈴木一郎は轢き逃げから数時間後に海に車ごと身を投げて死んでいた。

後は上田勇気と上田愛子になる。


だが蓮はショックで寝込んでしまったし、SUVの動きが蓮を狙っていた事はわかる人が見ればわかる。

蓮は周りからの追及に耐えられない。


桜子の目を盗んで死ぬ事を考える俺に、一二三が「父さん、無策で死んだらダメだよ」と声をかけてくる。

俺はお見通しだった事に驚いて「一二三…」と言って一二三を見た。



「仮に死んだらどうやって防ぐの?」


もう俺たちの会話に家に引き篭もる事は存在しない。

家に居てもいい事はない。


日常生活を送るしかない。

その中で対処をして相手の自滅を待つ。


「アイツらが乗る車に瞬間移動をして進路変更をさせるか…」

「一つだね。念動術は?」


「多分ダメだ。最高速度に近い車の速度と車体重量に術が負けて、そのまま子供達を襲う」

「なら爆破の術は?」


「なに?」

「奴らの車が見えたら爆発させて停めるんだよ」


「確かに手ではあるな。だが火だるまの車が突っ込んだら困るな」

「なら術の同時使用を覚えてきなよ。爆破の術と念動術と火が心配なら、雨を呼ぶ術でゲリラ豪雨を起こせばマシじゃない?」


「確かに爆発は爆裂術でタイヤだけでも破壊すれば…。後は念動術と降雨術で…。確かに複数の術を同時に使うのは至難の業だな。女神にはそれを特典にさせよう」


俺は道が見えて死ぬ事を考えたが、桜子から「簡単に死ぬって言わないで!」と泣かれてしまう。


俺は泣き顔の桜子を見て「そうだな。死にグセがついたかもな。もう少し考えてみるかな」と言って一晩だけ延長してしまった。


その結果。

翌日、一二三は通学途中に死んだ。

地下鉄に上田勇気が職場から持ち出した酸化剤をばら撒いた。

空調の力で程よく撹拌された毒物は、少量でも人を殺すもので、一二三は呼吸困難になって苦しみながら死んでいた。


満員電車の中で警戒札が反応した時、逃げられずに一二三は慌てただろう。怖かっただろう。

因果応報札も責任札も無差別テロに分類されたからか発動しなかった。

もしかすると何かあったのかもしれないが、人数に対して変化をするから、きっと頭痛程度に落ち着く。


これはテロだと騒ぐテレビに出演する連中。

映し出される中継の後ろでほくそ笑む上田勇気と上田愛子が見えた。


満員電車の被害者は200人近かった。


俺を非業の死に追いやる為、俺の息子を殺す為、何人が犠牲になった?


俺は怒りに震えながら立ち上がる。


一二三を失って泣く桜子を見て、「桜子。いつもありがとう。俺の妻になってくれてありがとう。もし嫌なら次は会わない道も選べる。大阪さんが紹介してくれた日に会わない事も…断る事もできる」と言うと、首を横に振った桜子が「…バカな人。あなたに逢わなければ一二三にも蓮にも会えません。4人…いいえ、皆で素敵な終わりを迎える為に、行ってきてください」と言ってくれた。


俺は絶体絶命に陥った時、仲間を救う為だと師匠に教わった自己犠牲札を持ち出す。


別に絶体絶命でなくても使えるし使えば死ねる。


「言ってくる」

「はい。次こそは」


涙を流す桜子を見ながら俺は命を絶った。

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