第18話 積み重ねとツケ払い。

上野の実家を出た後、俺の実家に術を敷いて家に帰ったところで死んだ。


何が起きたかはわからなかった。


目を開けると、既に目の前にチャンスの女神様は居て「お帰りなさいタカサキさん」と微笑んでいる。


俺はお帰りがムカついたが、そこには触れずに「何があった?」と聞く。


「その前にファンタージの話を、ご家族にしたのですね?」

「ダメとか言われてなかったからな」

女神様は「はい。ダメとか無いですよ!これでご家族の協力も得て無事に終われますよ!」と言うが、その顔は半分ギラついていて怖いものがある。


「なあ次の特典だが、俺が幸せに終われる筋道の有無。今の人生で非業の死を迎えないルートが存在するのかを示してくれ」

俺の言葉に目を丸くした女神は、「ご家族と話してそこに行き着いたんですね。凄いですねー」と言って微笑む。


だが顔はまだギラついていた。


「出来ないか?」

「いえ、やりましょう。ところで今回の死因は聞きますか?」


「聞かせてくれ」

「爆殺です」


「は?」

「ですから爆殺です」


何を言った?


「おい待て、ここは平和国家日本だぞ?紛争地帯でもあるまい…。勝子か?」

「はい。昼間家に届いた荷物ですが、タカサキさんが断って持ち替えられたので、あの時は無事でしたが、鈴木勝子は集荷場まで荷物を引き取りに行って、その荷物をタカサキさんのお家に仕掛けて、頭に来たと言って更に爆弾を増やしていました。凄いですよ、辺り一面が瓦礫の山でご近所様も皆全滅。今回もタカサキさんに配慮してファンタージ行きはタカサキさんだけにしました」


「爆弾なんてどうやって…」

「花火大会の倉庫に忍び込んでですね」


「ドンドン過激になってるんですけど?」

「世界の補正ですよ」


「終われる筋道はあるんですよね?」

「見つけておきます」


俺はこの言葉を信じてファンタージに降りた。

流れ作業のように過ごして魔王を倒す。

今回はアキタは出てこなかった。


そして女神は「キチンと終われる筋道がありましたよ。口にするとその筋道が消えてしまうので言えませんが、ここから2年くらいが決戦ですね。それを生き抜くとタカサキさんは無事に終われます」と言った。


俺は安心して地球に帰ることにする。戻る場所は上野の家に向かう直前にした。


戻ってきた俺は「今また戻ってきた」と言って、何があったかを説明すると「爆殺!?」「日本で!?」と一二三と蓮が口にする。


俺は急いで家に結界を張って爆弾を起爆できなくする。


「とりあえず着火も出来なくなるから、帰って爆弾を見つけるまでは火も使えん」

「マジで?」


一二三が台所に行くと、ガスレンジは火がつかずに「すげぇ!」と喜ぶ。


俺はそれが嬉しくて笑い、「お前に救われるよ。この後でお前は俺の瞬間移動を見て、寿司を食べに北海道に行きたいとか言ってて、俺はそんなことも考えた事はなかったよ」と言う。


「マジで!?勿体無いよ!」


俺たちはそれに笑って「じゃあ全部終わったら、のんびり箱根とか行くか?箱根なら昔父さん達を連れて行ったから瞬間移動出来るぞ」と言うと、「うぉぉぉ!日帰りで箱根とかサイコーだよ!」一二三は喜んでいた。


この後は先程と同じ筋道で上野の実家に向かう。


「とりあえずこれで爆弾が見つかって、通報すれば鈴木勝子はお終いだ。そうすれば少しはマシになるよ」


大阪大五郎の言葉に俺は少し心躍ってしまった。


そして前祝いと言いながら上野の両親が取ってくれた寿司を食べて死んだ。


毒殺は初で苦しんだ。

しかも前回は無事だった寿司で死ぬなんて反則もいいところだ…。


俺は目の前でニコニコと微笑む女神に何があったかを聞く。


「鈴木勝子さんが…」

「ありえんだろ。どうやって都内の俺を殺そうとした勝子が、千葉の上野家に毒を持ち込む?」


「執念ですかねぇ。さもなければ世界の補正でしょうか?」

「その言葉でなんでも片付くとか思わんでください」


ここで女神が難しい顔をして、「そもそもタカサキさんは、任意位置からの復帰のせいで混乱していますけど、さっきは前回とは違う筋道なんですよ?」と言う。


「は?」

「任意位置の復帰能力で、ある程度の筋道は同じですが、差異は生まれます。ひと月前にタカサキさん一家はカレーショップでカレーを食べましたよね?」


「食べたよ」

「その際に息子さんが食べたものは?」


「全部乗せカレー、大盛り」

「いえ、今回の息子さんは、全部乗せカレー、トンカツ追加です」


「あいつバカかよ」

「話はそこではありません。小さい事の積み重ねで現在が変わるんです」


「前に不幸のツケ払いって言わなかったか?」

「ええ、それでドンドン過激になって、積み重ねで現在が変わるんです」


「屁理屈じゃないか…」

「まあ話を戻すと、今回の爆弾は鈴木太郎さんが起爆係、寿司に毒を盛ったのが鈴木勝子さんです」


「寿司を頼まなかったら?」

「きっと明日タカサキさんの所に届く宅配野菜に入れられていましたよ」


「くそっ…。防ぎようは?」

「ありますよ。失われた聖都で新たな術使いに弟子入りして、心眼術を手に入れて見破るんです」


俺は言われる通りファンタージに降りて新たな術、心眼術を手に入れると、すぐさま魔王を倒して日本に帰る。


そして毎回恒例のダメ出しタイムもキチンとやると、女神は嬉しそうに「参考になります!」なんて言いやがる。


今回、してやられたのは心眼術の使い手をファンタージに置く事が俺への特典だった。


「そもそもファンタージには毒物の概念は無くしていたんです。それなのにタカサキさんの為に用意しましたからこれが特典です」


まあ正直特典も貰いすぎていたから構わなかった俺は、「わかった」と言って日本へと帰って行った。

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