第14話 不幸のツケ払い。

俺は気がつくと死んでいた。

目の前の女神がニコニコと、「おかえりなさい」なんて出迎えてくる。


「何があった?」

「聞きます?」


「勿論だ」

「その後も?」


「言ってくれ」

俺はもう何がきても平気だと思ったが甘かった。


あの場、俺が鈴木太郎をボコボコにして蓮に視線をうつした時、物陰に隠れた勝子に頸椎をズドンとやられて即死していた。

アイツは蓮が襲われる全てを見届けようとしていた。

そして俺を相手に、勝ち目が無いと踏んだ勝子は、俺が蓮の方を向いて油断した瞬間に襲いかかってきていた。

俺はまさかその場に鈴木太郎以外居るとは思っていなかったので、完全に油断していた。


一通り吐いた俺は「その後ってのは?」と聞くと更に吐き気を催した。

勝子の奴は俺の首に刺した包丁で蓮の顔をズタズタにしてから殺して逃げていた。


項垂れて「アイツはなんでそこまでするんだ?」と聞く俺に、「さあ、恐らくですが…」と続けた女神は、「多分世界の補正ですかね?」と言った。


「補正?」

「ええ、タカサキさんは今のご両親に引き取られた時は、幼い頃に殺される運命、それをかわしても別の死があった。そういう非業の死の回避を続けた結果、言い換えれば不幸のツケ払いが溜まっていて、それを支払わせるように勝子さんが居るのかもしれません」


荒唐無稽な与太話とは思えない。

自分自身も聞いていてそんな気がしてしまう。


「先に特典から話させてくれよ」

「はい。ですが今の流れですと、勝子さんを勝利さんに戻してほしいとかでしょうか?それはかなり難しいですね」


俺は願っていた事を先に言われてしまい「難しい?」と聞き返す事しか出来なかった。

女神様は「それをした先にどんな事になるか、下手をすれば無差別に世界中がタカサキさんを殺しにきますよ」と説明をしてきて、聞いていて頭がどうにかなりそうだった。


「それを聞いて、悲観して終わりを願ったらどうすんだ?」

それを口にした途端、今回も女神様は得体の知れない気持ち悪さを滲み出して、ギラギラした目で睨んできた。


「タカサキさん?」

「そう思わせないくらいの特典はないですか?」


俺の言葉に「そういう事でしたか!」と言った女神様は、「ハイリスクですがタカサキさんにピッタリの特典がありますよ!」と言う。


「なんです?」

「任意位置からの復帰です。今回で言えば亡くなる日の朝に戻ることも選べます」


それは悪くない。

ヤキモキせずに戻り次第蓮を助けられる。

だがハイリスクとはなんだ?


「ハイリスク?」

「ええ、本来なら42歳までの間に大小様々に襲いかかってきていた不幸が、溜まりに溜まった状態での復帰です。もしかしたら次は鈴木太郎さんの撃退すら出来ずに命を落とすかも知れません」


「42歳までの幸運と相殺とか」

「ありえないですね」


ハッキリと言いやがった。


「1日も進められない可能性があると…」

「はい!」


このやろう、ハキハキニコニコと答えやがって…。


「一ついいか?」

「何でしょう?」


「考えたくないが、仮に今回は蓮が襲われる日を選んだが、勝ち目が無い時なんかは再準備の為に一年前なんかに戻れるのか?」

「ええ、お約束します」


最悪どうしようもなくなったら、その前に戻って引っ越しでも何でもしてやる。


「わかった。俺をファンタージへ」

「はい。その前に一つお願いしても良いですか?」


「何です?」

「毎回、はじまりの町と失われた聖都と、今回作った最後の街には立ち寄って1日を過ごしてもらえませんか?」


「それは確認とかですか?」

「はい。それをしていただけたら、地球でのタカサキさんの能力をファンタージと同じにさせてもらいます」


悪い話では無い。

どうせ魔王の魔力が弱まる日までは攻め込めない。

「まあ、良いですけど。はじまりの町はする事ないから嫌ですけど」

「確かに、では失われた聖都と最後の街だけはお願いしますね」


「ええ、それにしても町とかの名前って無いんですか?」

「…あってもタカサキさんが覚えてくれません。はじまりの町だって本来ははじまりの町[ストルテ]です……」


この瞬間の女神の言葉には寒気がした。俺は地雷を踏んでしまったようで慌ててファンタージへと向かった。

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