第13話 今度こそ。

投身自殺は良くない。

時間帯は人通りの少ない時間帯を選んだので、救急搬送なんかはなかったが、当たり所が悪くて死ぬまで文字通り地獄の痛みに苦しんだ。


それでも頭の中はどうやって家族を守るかを考えていた。

気付くと目の前にチャンスの女神様が居て、「あらあらあらあらあら!またタカサキさんです!」と言って近づいてきた。


ニコニコ笑顔の女神がクソウザい。

数えるのもやめたが、おそらく俺は200歳近い歳を生きている。

もう、多少のことでは心が動かなくなっていたと思う。

それでもウザい。



挨拶もなく「やり直す。俺をファンタージに行かせろ」と言う俺に、気分を害する事なく「はい!それにしても非業中の非業ですね。生き別れの妹の子に一家を無茶苦茶にされて、それを悲観して自殺!ファンタージの条件にバッチリです!」と返してくる。

俺はそれも無視して「次の特典の話だ」と言うと、女神様は「はい!」と言って笑顔で聞いてきた。


「俺は仕方ないにしても、俺の家族は非業の死から逃れさせろ」

「それはダメですねぇ。今回はタカサキさんのご家族もファンタージ決定でしたが、タカサキさんが来ると思って保留にしましたよ」


初のダメ出しに苛立つ俺は、その中でもあの優しい蓮が魔物や魔王と戦うところなんて想像できずに良かったと思った。


そんな中…女神のやつが提案をしてきた。


「瞬間移動を地球でも可能にすればいいんです。後はタカサキさんなら失われた聖都で身につけた能力を使えますよね」

「可能なのか?」


「はい。なんせ私はチャンスの女神ですから」

「よし、それだ。よろしく頼む」


俺はそう言ってファンタージに降りたが、女神の奴はまたクソウザい事をし始めた。


当初の俺は、はじまりの丘から失われた聖都を目指して「七光」を手に入れて、魔王をぶちのめす予定だったが、嫌な予感に襲われた俺は精算教え女に話しかけると、3回目にして初めて「魔王と戦えるのは月に一度、奴の魔力が落ちた日だけなのよ」と言いやがった。

どうでも良いが、ロンジクの奴は今回は結婚していて、精算教え女の父親は殺していなかった。


どうあってもファンタージを堪能させたい女神と、さっさとクリアしたい俺のせめぎ合い。

しかもウルトラクソゲーなのは、俺には対処可能だが魔王の魔力が落ちる日を知れるのは失われた聖都に居る酔っ払いなのだが、失われた聖都から魔王の城までは2ヶ月くらいかかる。

意味がない。


まあ俺は魔力が弱まる日まで、呪符の師匠に新たな札を教えて貰ったりと有益な時間を過ごした。


そして魔王の撃破。

現れた女神へのダメ出しタイム。


「魔王の城付近で魔力が弱まるのを教えないと、俺以外クリア不能だよ」

「そうですね。街を作りますね」


「後は会話の深みも大事だけど人不足だよ。なんで精算教え女に魔王の話とかさせてんの?」

「成程、人が足りないのですね。タカサキさんの意見は参考になりますね。次回もよろしくお願いしますね」


「次回なんてねーっすよ」

俺はもはや眠気も感じずに地球へと帰っていった。



8回目の地球。

俺はやれるだけのことをやり切った。

極力7回目をなぞるように生きると、不思議な事に一二三も蓮も前回と同じ日、同じ時間に生まれてきてくれた。


俺は生まれてきたばかりの蓮に「今度こそお前を守るからな」と声をかけてしまうと、桜子は「今度こそ?変なお父さんね」と赤ん坊の蓮に笑いかけていた。


運命の日、失われた聖都で覚えたのは水晶を呪符に変える技で、家族の為に大阪の仕事を率先して受けて、金を貯めて上質な水晶から一通りの呪符を作り、札が危険を察知すると家にある双子札の片割れが真っ赤に光って危険を知らせるようにしていた。

蓮に渡した双子札が真っ赤に光る。


効果を知っている桜子と一二三は不安がるが、俺は何も心配いらないと言って「双子札!片割れの元に飛ぶぞ!道を示せ!」と言って瞬間移動を行う。


人気のない道、鈴木太郎がナイフ片手に蓮におそいかかり服を剥いでいる所だった。

あのナイフで絶望をした蓮は自殺をする。


因果応報札は家に置いてきた。

ここで鈴木太郎をボコボコにして反動がきたらたまったものではない。


長かった。蓮の死から40年だ。

その怒りを込めて「何やってんだコラァ!」と怒鳴りながら鈴木太郎を殴り、そのまま失われた聖都で身につけた拳技で鈴木太郎を蹴り上げて飛ばすと蓮に駆け寄る。


「蓮!」

ボロボロの服で肌を隠しながら「お父さん?」と聞き返す蓮に、「そうだ。嫌な予感がしたから父さん飛んできたぞ!」と言うと、蓮は「怖かった」と何度も言い泣いて震えている。


「蓮、すぐに警察を呼ぶんだ。父さんはこの変態が起き上がらないようにボコボコにしておくからな」

蓮が通報している横で、俺はようやく仕返しの機会に恵まれていた。


心が動くことなんてそうなくなっていたが、今ばかりは積年の恨みで心が躍った。


パトカーのサイレンが聞こえるまで鈴木太郎をボコボコにした俺は蓮を見て「ようやく迎えがきたな。さ、母さん達が心配するから帰ろうな」と言ったところで俺の意識は無くなっていた。

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