第9話 六度目の出会い。

俺はまた3歳で目が覚めた。

前回の失敗を繰り返さない為に、四六時中何が起きてもいいように考える。


言い方はアレだが、俺ならまたロクでもない死に方ならファンタージをクリアすればいいが、父親と母親はやり直しがきかない。


下手をすれば初めて心から愛してくれた両親が死んで、いないとは思うが前の親より酷い親に拾われて殺されるなんてこともありえる。


だから俺は甘えて折り紙を買ってもらって、「僕も字を書く〜」と言って鉛筆を使って中にボールペンを使い呪符を書いてみた。


呪符の良いところは魔法力みたいな物を使えるのなら、俺が魔王にしたみたいに中空に呪符を用意して攻撃に使用できるし、無くても紙に書くだけでキチンと能力を発揮する。魔法力は空気中の物を使うからエネルギーなんて物は気にしないで良い。


俺はひとまず氷の札を書いてみたらファンタージの3割程度だったが効果はあった。

これには驚いた。



これで書く呪符はとりあえず決まった。

相手に勝てないと思わせて、警戒させるための「威圧札」。これはファンタージでレベルカンストの俺が雑魚魔物に絡まれて足止めされないためのお気に入りの札。


確実に日本なら電車の中で喧嘩を売られたりしなくなる。

前みたいに他人同士の喧嘩に巻き込まれて…なんて物はなくなる。


次は「警戒札」。ファンタージなら魔物の不意打ちに耐えられる物だが、日本なら前回みたいな車の突撃にいち早く気づける。


そして俺は1番大事な札を作る。

「因果応報札」と「責任札」。

因果応報札ならやられたら相手に同じように返る。

これで前回みたいなスケルトン親子は現れなくなる。そして責任札は故意では無かったとしても、仮に交通事故を起こした場合、死ぬ場合には相手が身代わりになって死ぬ。

これは因果応報札と合わせるからできる事だが、コレがあれば俺は前回と同じ筋道でも死ぬ事はない。


コレを両親に配る。


「僕が作ったお守り。毎日大事に持っててね」と言って渡す。

中にはカモフラージュも込めて俺と両親、ジジババを含めたイラスト付きだ。


父親達は泣いて喜んでくれて、ファンタージの時間が無駄では無かったと思えた。


なのでそれをジジババにも配っておく。


俺は隠れて紙人形を作ると、そこに父母とジジババの札と繋げてトラブルがないかを確認したら、恐ろしい速度で威圧札が発動して因果応報札が動いていた。


なんか俺を非業の死の為に周りを追い込んでいるとしか思えない。


まあそれも一年で落ち着いた。


ここで困ったのは、「幸也ちゃん!幸也ちゃんのお守りがよく効くって言ったら、お友達の春子さんも欲しいって言うのよ!」と御崎のババが言ってきた。


「効果あるかな?」とすっとぼけたが、付き合いや自慢したい気持ちもあるのだろう。

俺は断れずに警戒札と因果応報札を作る。

ちなみにだが因果応報札は持っている人をぞんざいに扱えばそれが返ってくるが、大切に扱えばそれが返ってくる。広めても害はない。


今回は危険を最大限取り除いた。

幼稚園でスケルトン親子が攻撃を仕掛けてきた結果、見事に報いを受けてスケルトン息子が離婚により片親になった。


中学高校と前回と同じ道を選んだ。

ここで多少の違いを見たが、スケルトンの不在からか、仲良く遊んだ奴が転校してこなかったり色々と小さな変更が起きる。


正直これは予測が立てにくくなる。


だが変えるわけにも行かずに。仕事先に自分を売り込んで仕事をして親達に親孝行をする。


ただここで少しだけ変えた。

旅行先を変更してみた。


そして前回俺が死んだ日の新聞記事を気にしたが、やはり事故なんて起きなかった。


「くそっ、どうあっても俺を殺す気か」


つい呟いてしまう。

呪符を教わる中で世界について学んだ。

輪廻、因果、様々な物を知ると、世界が俺に殺意を向けていると思えてしまう。


まあ世界というよりこの世のシステムだ。

常に自動処理をして該当者に何かしらがある。

宝くじの当たる確率にしても、簡単に言えば守護霊の力、姓名判断、誕生日…。そんなものが複雑に絡み合う。


当たらない奴はどうやっても当たらない。

意志力も重要な要素だ。

生きてやると願う奴ほど病気になっても長生きをする。

同じで金が欲しい、金が必要と切実に願った奴の所に金は舞い込む。


まあ俺みたいに守護霊なんかで何歩も後ろにいる奴は、勝ち目がないから宝くじは買わない。


競馬?

高校生は馬券を買わない。


まあアレこそ人の意思が集まるから、馬達の能力以上に意志力が良くも悪くも力を見せる。


俺が買う馬券を当たりに変えるには何人の力が必要だろうか?

そんな事を考えてしまう。


多分、前の自分なら、自分が乗る電車を無事に時間通りに目的地に到着するのは、その日電車に乗る全ての人間の意志力や守護霊の力が必要だっただろう。

今なら4割くらいで済む。



俺は毎月給料日後に両親やジジババに贈り物をする。

そしてわざとらしく「なんか一度作っちゃうとやめられなくてさ、自分でもおかしいのはわかってるけど貰ってよ」と言って新しい御守りを渡す。

殺意こそ減ったが、やはり札の消耗は早い。

俺ほどではないが普通の減り方ではない。

魔物のいるファンタージくらいの消耗具合だ。


今月は両親に贈り物をする。

父親には何個あっても良いよね?と言ってネクタイを、母親にはハンカチにする。

高すぎると海老鯛ではないが鯛が出てきてしまい困る。


その帰り。やはり札を作るのに素材は本物がいい。書道家が通うような店で、墨と半紙を買って店を出たところで「お兄さん」と声をかけられた。


威圧札があっても声をかけてくる?

突然の事に驚く俺が振り向くと、そこには酒焼けして鼻の頭が赤くなっていて小柄でスーツ姿の男が立っていた。


「面白い物を持ってるな。その墨と半紙の組み合わせは悪くないよな。だが使い捨てにしかならんだろ?」

「何のことですか?人違いでは?」


「通用しねえよ。それになんだ?年齢と見た目が釣り合ってないな。仙人か何かか?」


この男は正体に気付いている。


「何、知らない力が働いていたから、後をつけたらここだろ?ピンときたんだよ。着いてこい。良い物を買えるようにしてやる」

男についていくと店内に戻り、先程までニコニコと対応していた男は頷くと奥の部屋に通してくる。


しばらく待つと手に触れなくてもわかる上質の墨汁と半紙が出てきた。


「これなら耐久性が段違いだ。だが値段は3倍近く高い」

「…構いません。買います」


「モノの価値のわかる目をしてるな。その若さでどうやってその力を身につけた?」

「企業秘密です」


「まあ裏社会の人間じゃそうなるよな。でも礼の一つも無しか?」

男の目に負けて、俺は先に買っていた方で冷風札を作って男に渡す。



「何だコレは?みたこともない系譜だ」

俺はしまったと思いながら、必死に「だから企業秘密なんですよ。それは冷風が起きます。暑い日にでも使ってください」と言って済ます。


「使い方は!?」

「正しい使い方を知らない人は、破けば発動します。威力は冷凍庫くらいです」


「待ってくれ!話が聞きたい!またこの部屋に入れるように手配するから!頼む!」


男の必死な声に店員達が目を丸くする。

それだけの男が頭を下げてくる。

なんかやな予感がしてしまった。


男の名前は大阪大五郎おおさかだいごろうと言っていたが偽名だろう。

話を聞くと威圧札に反応していたらしい。

拝み屋をしているらしく、主に厄除けやお祓い、かんの虫封じなんかをしていて、見た目とは裏腹に人畜無害な男だった。


俺は仙人ではないけど仙界に近い所から帰ってきたと告げる。

別にファンタージは秘密だとチャンスの女神からは言われていない。


「それで系統や系譜が知らないモノなのか…。何が出来る?」

「人殺しは出来ませんよ」


「何故だ?誓いを立てたのか?」

「誓い?」


大阪大五郎の話では、神通力を得るのに誓いを立てる必要があり、大阪大五郎は世のため人のためを誓ったらしい。


「似たようなモノですね」

「そうか。まあ俺が聞きたいこととは関係していないから教えてくれないか?」

そう言われて出てきた物を見て俺は頭を抱えた。

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