第8話 クソゲーの理由。
5回目のファンタージ。
確かにあの女神様はアップデートを重ねていたのだろう。
想定外の事が起きた。
大きく分けて2つ。
一つは今回の攻略が次回に繰り越されると思ったが、前回の内容が今回に繰り越してくれていた。
これは嬉しい想定外だった。
だがもう一つは完全にこの喜びをマイナスにする悲しい想定外…腹立つ想定外だった。
それに気づいたのは初日に快進撃よろしくでデス火山に到着した時で、デス火山は見た目からゴールまでの道順まで何もかも変わっていた。
ここで俺は前回の終わりにマンネリ化について不満を口にしたことを思い出した。
嫌な予感がして、はじまりの町に戻って大林檎を求める精算教え女に話しかけてみた。
案の定会話のレパートリーが増えてやがった。
聞いてもいないのに「母親の作るアップルパイがとても美味い」だの、裏に住むロンジクとかいうエロい男が、父親を亡き者にして母親を手篭めにしようとしているとか、ぶっ飛んだ会話まであった。
頭痛に抗いながら一日中行ける限りの町や村で情報を仕入れたら、更に頭痛が襲いかかってきて語彙の死んだ俺は、「ずつうがいたい」と馬鹿みたいなことを言い出してしまった。
・ダンジョンは入る度に内容が変わる飽きさせない設計。
・魔王は最終形態は物理に弱いがその直前までの飽きさせない30形態は何が弱点かは魔王にもわからない。
・魔王に破壊された(事になっている。だって俺は知らない)失われた聖都が、失われてなくて見つかったとか言って、奈落谷の奥深くに有難い街が追加されていた。
これにより…俺のアドバンテージは全滅した。
高レベルで「力こそパワーの精神」で撲殺する計画は耐性持ちの魔王の為に終了。
そして過去5回の知識を台無しにする、入る度に姿形の変わるダンジョン。
あの女神、どうして強くてニューゲームを認めたかと思ったらコレかよ。
俺は諦めて奈落谷を目指す。
出てくる魔物もダンジョンも問題じゃない。
問題は降りても降りても底の見えない奈落と、降りながら理解する帰り道の問題。
これ、登ったら何日かかるんだ?
クライミングか?
それとも帰り用のダンジョンとかあるのか?
そんな事を思いながら降りる事3日。
ようやく失われた聖都に辿り着いた。
営業スマイルで出迎えたスマイルくんは、「ようこそ。大変だったよね?魔王の影響が無いのがこの場所なんだ」と説明をする。
この時になって、俺はファンタージに来ると襲いかかる不快感がない事に気付く。
これは良くなかった。
居心地がいい。
俺が調べると魔法なんかは後天的に習得可能だが、低レベルと高レベルでは魔法の入り込む余地が変わる為に手間ばかりがかかるらしい。
俺には両親が待っていたので簡単に覚えられて、そこそこの性能の技を授けてもらう事にした。
それが徒手空拳と呪符だった。
徒手空拳は不要な知識だったが、お師匠さんに言わせると地球人の貧相な身体をレベルで覆っているだけで、レベルが1に戻ると弱くなると言われ、幼稚園でスケルトン友太郎をぶん殴った時の事を思い出して師事を受ける事にした。
そして呪符は呪い(のろい)ではなく(まじない)で、決められたルールでお札を作れればいつでも発動可能で、仮に魔王が30回の形態変更で多彩に耐性を変えても対処可能だし、下手に三つくらいに絞られても困らないからだった。
変な話だが、雷精の生まれ変わりとかいうオッサンの雷攻撃とか極めるのに10年とかかかって、次は火だの氷だの言われたらそれこそファンタージで生涯を閉じてしまう。
そんな俺だったが、徒手空拳の師匠からお許しを貰えたのが8年で、呪符は6年かかった。
まあ午前が徒手空拳で、午後は呪符みたいな暮らしだから8年だが、俺は25になっていた。
そして外に出るのに10年かかった。
出口はやはり階層型のダンジョンだったが、ワンフロアが東京23区くらいの大きさでそれがトラップ込み、下手をしたら失われた聖都まで戻らないとルート変更出来ないようなトラップで30階あるし、下手をすると階段は山のようにあるし、地上200メートルくらいの所に階段が見えたりする。
踏破できずに死ぬ未来が見えた俺は、無理矢理入ってきた所を呪符の力を借りて飛んで戻った。
それでも3日かかり、出口で「あ…死に戻って枯葉人を殺した方が早かった」と気付いて寝込んだ。
おれは35になっていた。
魔王とは四日間戦い続けて何とか勝てた。
呪符は紙が不足すると瞬間的に中空に書き記して発動させる奥義が存在するが、それが無かったら勝てなかった。
ふざけんな。火を吹いて札を焼くんじゃない。
そんな訳もあって、31形態目の物理弱点の魔王はコレでもかと殴って原型なんて留めさせなかった。
呼び出す前に現れて「お疲れ様でした。タカサキさん」と声をかけてきた女神様は、「どうでしたか?やりごたえとかありましたか?」と聞いてきた。
「あったと言えばあったけど今回もクソゲーだよ」
俺の言葉に「また参考に教えてもらえませんか?」と聞いてくる女神様。
もう散々嫌な目に遭っている俺は、「え?それでまた過酷にされるとキツいんですけど?」と言うと、この世の終わりの表情で「そ…そんな」と返してくる女神様。その姿に仏心が出てしまった俺は「あ、一個だけ確実なのがあるよ」と言う。
「それは教えていただけますか!?」
「うん。面倒臭いとか物理的な時間の浪費とかは評価を落とすよ。聖都の帰り道とか酷すぎるよ。せめて地図を配るとか階段は一つにするとか上空に階段を設置するとかは止めた方がいいよ」
「それは旅の醍醐味では?」
「違いますよ。飽きさせない努力は必要です」
この言葉に「成程、参考になりました」と言って頷く女神様。
本当に参考にしてくれれば良いけど…。
「いやいや、今度こそ会わないように願って俺帰るわ」
「はい。チャンスの女神として、タカサキさんの未来が明るいものである事をお祈りしていますね」
女神様の言葉の後で俺はまた強烈な眠気に襲われていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます