第7話 五度目の死。

俺は何故ここにいる。

またまた死んだ俺の前には「あら〜」と言いながらニコニコ笑顔の女神様がいる。


「おかえりなさいタカサキさん」

「はぁ?何があった?」


「いやー、つくづくタカサキさんの運の無さには驚かされますね」

「なにがっすか?」


順調だった。順調に成長をした。


幼稚園でスケルトンをやっつけた事でバレンタインにはチョコを貰いまくり、母親がムキになってチョコケーキを焼いてくれた。


それは小学校でも変わらない。

友達もできた。

家族で旅行にも行った。

二分の一成人式なるイベントでは「お父さんみたいな大人になりたい!お母さんみたいなお嫁さんが欲しい」と書いた。


中学に入って、両親が意を決して俺と血縁関係が無い事を告げてきた時も、「俺は父さんと母さんの子供だよ」と言って、「もしかしたら幸也のお母さんはもっと素敵な人だったのかも」と言う母親に、「ないよ!それは無い!母さん以上の母さんはいないよ!」と心の底から訴えかけた。


演技ではなく心から感謝をして子供になれて良かった。育ててくれてありがとうと手紙を送った。


高校もキチンと決めた。


今回も仕事先に売り込んでアルバイトに拾ってもらった。

ただ親が心配してはいけないから、会社側が是非と言ってくれている事は黙ってもらって普通に雇ってもらった事にした。



親は急な自活に驚いたが、「少しでも楽をしてもらいたくて、俺のバイト代で美味しいものとか食べようよ」と言うと、喜んでくれて俺名義で積み立てていたお金を見せてきた。


初めての事で驚いたが、入り用の月もあったはずなのに必ず毎月入金されていた。

ひどい月には3千円みたいな時もあったが、それでも必ず入金されていて毎月おろしていたどっかの奴らとは大違いだと思い感謝をした。


俺は自分の稼ぎが父親と同じくらいで怪しまれたが、一度会社に来てもらって社長に会ってもらい、「この業界に興味があるから働かせてくれと言われた時は驚きましたが、有能のひと言で将来はお約束しますから、是非ともウチで働いて欲しいです」と言われて安心してくれた。


夏の賞与で少し良いところに行こうと言って、鷹咲と御崎のジジババまで連れて旅行に連れて行って泣いて喜ばれた。


褒められる度に「父さんと母さんを見て育ったからだよ」と言って喜んでもらえた。


確実に未来は明るかった。

このまま高校を出て仕事に就いて結婚をして両親と共に生涯を閉じる。


そう思ったらここにいた。


「タカサキさんは今回の死因はご存知ですか?」

「ご存知も何も旅行の帰りで、鷹咲のジジババと御崎のジジババには新幹線代も奢って、俺たちは父親の運転で家族水入らずでもう一泊するつもりだったんだぞ?それで眠気に負けて後部座席で寝て起きたらココですよ」


「はい。自動車事故ですね」

「…ちっ…、でもそれだけでここには来ませんよね?非業の死なんですか?」


「はい!抜群に…群を抜いて非業ですよぉ〜」

「言い直しても意味は一緒っすよ」



この状況で非業ってなんだと思っていると、女神様は「驚かないで聞いてくださいね。タカサキさんと事故を起こして、タカサキさんを殺したのは上田愛子さんです!」と言った。


「……はぁ?」

「あら?聞こえなかったですか?タカサキさんの生みの親の上田愛子さんですよ!」


頭痛え。

吐きそう。


「何それ?何でアイツの名前が出てくるんです?」

「まあ、簡単に言うとですね。タカサキさんを手放した事がバレちゃって、二井波さんから入っていた養育費が振り込まれなくなって、上田さんと再婚した時に余裕がなかったんですね。それで生きる為には働くしかない。それでも運命の下方修正はなかなか認められないので勝利さんが生まれてくる。そして勝利さんを養う為に2馬力になる必要があってドライバーになった訳です」


そもそも二井波が俺に養育費をくれていた事を初めて知った。

流石は愛子。自分しか愛せない子だ。

全着服してやがったのか。


「で?ウチのクルマに突っ込んだ?」

「はい!過密労働でヘトヘトの上田愛子さんは、居眠り運転で見事に信号無視で突っ込んできて、ピンポイントでタカサキさんだけを殺しました!」


「なんだよそれ!?何億分の一の確率だよ!」

「まあそんなわけで非業の死ですよね。まさかご自身を捨てた母親に16年振りに出会って殺されるなんて中々ないですよね」


言うだけ言った女神様は、ニコニコと身振り手振りで「さあ!ファンタージのお時間ですよ!」と言った。


「待て!両親は無事なのか?」

「ご両親?」


「鷹咲孝幸と美幸ですよ」

「ああ、お怪我も軽度ですからご安心ください。見ます?」


チャンスの女神様が映し出した映像の中では、父親と母親が見ていられないくらい憔悴して項垂れている。


母親は何遍も俺の名を呼んで「私が出がけにトイレに入らなければ」と言い、父親は「私こそあの道を使わなければ、何でも良かったからコンビニに立ち寄っていれば」と泣いている。


そんな中、警官との会話で殺したのが「タカサキ ユキヤ」で、年齢や特徴から俺だと気付いたアイツは、警官や医者に「ねえ、生みの親が交通事故で死なせちゃったら減刑とかないの?」とのたまっていた。


偶然に喜び、自分が産んだものを殺した事で、罪の意識がないからか安堵の表情を浮かべてケラケラと笑う姿に、両親が悔しそうに俺の名を呼んで泣き、飛んできたジジババ達も声をあげて泣く。



これはやり直すしかない。


「行くぞ。もう一度ファンタージを攻略してあの家に戻る」

「はい!特典はどうします?」


実のところ俺は少なからず考えていた。何もないに越した事はないが、俺は非業の死に好かれ過ぎている。次があるかも知れないと思っていた。


「考えてある。言わせてからやれないはやめてくれよな?」

「はい。私はチャンスの女神です。ファンタージのチャンスを無くす事以外なら、大体のことをお約束できますよ」


「なら最短最速で戻る。俺が望むのは強くてニューゲーム。レベルや能力の引き継ぎだ」

「……引き継ぎ」


表情が曇るチャンスの女神様に「出来ない?」と聞くと、女神様はニコニコ笑顔に戻って「いえ、わかりました。それではファンタージへ」と言い、俺をファンタージに送り込んだ。

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