第4話 不幸の理由。

今度こそうまく行くと思ってやり直した。

赤ん坊の時に殺される事もなく、悪目立ちもせずに大人になった。

高校生になってすぐ自分を売り込んで、仕事先で頭を下げて、わざと給与を振込で賞与を手渡しにして貰う。


これにより親に給与を吸われても賞与は守った。


しかも給与を減らして貰って賞与に回して貰う。

それが許されるだけの結果を残したからこそ許されてきた。


22で就職してすぐに偉くなり、半年でいいからと社長に頼んで、出向という形で地方勤務させて貰う事で家を出た。


今回も振り込まれていた金は吸われていたが、不問にする事で死亡フラグは回避をした。

納得したフリをして「学費とかなら仕方ない」と言ったら、感謝まで求められて断腸の思いで感謝を告げて円満に別れた。


賞与は守れていたし、これから先給与がきちんと手元に来るなら、挽回はまだまだ可能だった。


出向先からは惜しまれて本社勤務になる。

俺自身もこんな人並みの暮らしがある事に驚いてしまう。

正直地元には帰りたくなかった。


だが家には連絡をしない。


あくまで言い訳は、「いつ支社送りになるかわからないから家には戻らない」だ。


順風満帆に思えた24歳の春の朝。

俺は何故か駅のホームから突き落とされて、特急列車によって轢死した。


「あらあら…またですか?タカサキさん」

目の前に現れたのは、4度目になるチャンスの女神様。


俺はふて腐れて地面に胡坐をかき、膝に頬杖をつきながら「これはなんですか?」と聞くと、チャンスの女神様は「まあタカサキさんは気付いていないですけど、なるべくしてなった結果ですよね」と言ってニコニコと笑ってきた。


は?


俺は女神様の言葉が気になり、「は?何がですか?」と聞く。


「タカサキさんはスピリチュアル的な話って信じますか?」

正直信じる気は無くても、目の前には女神様がいて、三度人生をやり直していたら信じるしかなくなる。


俺が「はあ、まあ」と返すと、女神様は「守護霊的な話です」と始めた。


「タカサキさん。お母様のお名前は?」


アイツに様なんていらないだろと思いながら、「上田愛子うえだあいこ。だれからも愛される子なんて名前ながら自分しか愛せない愛子」と説明をすると、「お父様は?」と聞かれる。


「どっちっすか?上田ですか?二井波にいなみですか?」

「まあこの際お名前は不要なのですけど、それと守護霊的な話になります」


女神様の話は簡単だった。

そもそも、キチンと両親の居る人間、俺の異父兄弟にあたる勝利かつとしで言えば、「上田勇気うえだゆうき」と「髙﨑愛子たかさきあいこ」の上田の守護霊と髙﨑の守護霊が守ってくれるので、守護霊の能力以上の事故以外はそんなにないし、交通事故でも死ぬような時は骨の一本で済んだりする。


だが俺にはそれが著しく欠けているらしい。


「パードゥン?」

「まずは産みの父親の二井波さんの守護霊はタカサキさんを見捨てています」


「それは何故?理由は?」

「髙﨑愛子さんが不義理を働いて離婚したからです。その罰は髙﨑愛子さんと、その子供の高崎幸也さんに向かいます。ですが髙﨑愛子さんは上田勇気さんと再婚をしたので、髙﨑の守護霊と上田の守護霊に守られます」


「じゃあ親が離婚して片親の子供って奴は皆俺みたいな目に遭うんですか?」

「いえ、普通なら引き取った親の守護霊が守ってくれて最低限の保障があります」


俺は「普通なら」の不吉なワードに顔をしかめて「普通なら?」と聞き返す。


「そう。普通ならです。ですがタカサキさんの場合、沢山のマイナスがあります。マイナスの説明は要りますか?」

「お願いします」


女神は簡単にですけどと言って、墓参りや先祖を大事にしたか、自分の一族として恥じない行動をしたかという問題で、プラスにもマイナスにもなると言う。


「それって俺が墓参りとかしてないから?」

「いえ、そんなの問題にならないくらいの大チョンボですよ」


ニコニコと笑う女神が憎らしい。


「大チョンボ?何ですか?」

そう聞いた俺は、女神様の返答にクラクラしてしまい吐いた。


まず一つは前の時に俺を殺したペナルティをアイツにぶつけてくれと頼んだら、女神様は実行してくれていて、俺はその息子だからと髙﨑の先祖は同じくぞんざいに扱ったらしい。


そしてもう一つが問題だった。


アイツ。旧姓髙﨑愛子は一度二井波と結婚をして二井波愛子から離婚する時に、役所や病院なんかで俺の分まで、「はしごだかのたかに、たちさきのさきです」と言うのが面倒だから、俺だけ普通の高と崎の高崎に変更したと言っていた。


これにより先祖の苗字も名乗れないゴミカスと認定したご先祖様が、大変ご立腹で俺を見捨てて、アイツは子供殺しの罰でご先祖様から見捨てられていた。


本来なら母子でアウトだが、アイツには婆ちゃんの旧姓の鈴木がいて、鈴木の守護霊が守ってくれていてノーダメージだし、さっさと上田と再婚したから、ある種完全体で残された俺だけ危険な状態だそうだ。


危険な状態。また不穏な単語に、俺は「どのくらい危険なんですか?」と聞くと、ニコニコ笑顔の女神様は、「聞きますか?」と言ってから、「孤児院とか病院に捨てられた子が5で、タカサキさんは1です」と言いきりよった。


「は?捨て子が5?俺はその2割だけ?」

「はい。せめて上田さんを名乗れば良かったのでは?」


「決めるまでも無く高崎にされたままでしたよ。でも捨て子って凄いですね。半分もあるんですね」

「いえ、十段階ではありません。百段階ですよ?」


百…段階…?


「は?嘘ですよね?」

「いえ、上田勝利さんでも55はありますよ」


俺はこの瞬間に吐いた。


だがまだ死んだ理由ではなかった。


女神様はショックで泣き崩れて吐く俺に、「守護霊が見放しているので、タカサキさんは酷い人生でしたけど、無自覚なので気付いていませんでしたよね?」とか話しかける。


もう何度目かの「は?」と聞き返す俺。


「コンビニエンスストアで傘が盗まれる」

「あの街は治安が悪いですよね」


「自転車が盗まれる」

「本当に治安の悪い街でした」


「食べた物に異物混入」

「ああ!針とかありましたよね。まあ指の時は流石にショックでしたね。後は牛丼にカエルとか、Gはザラで、よく飲食代がタダになりました」


「映画館の座席が汚物まみれ」

「前の上映時間に来てた爺さんが粗相したとか言ってましたね。なんかタダ券貰いましたよ」


「それ、全部普通なら守護霊が守ってくれていましたからね?」

「は?」


何故か俺は必死になって、そんな事ない所を言いたくなっていた。


「え?でも電車は問題なく乗れましたよ?」

「他の乗客の守護霊が、自分が守るべき存在のために総動員で守ったんです」


「え?会社の機械類…」

「社長さんが厄払いから、お祓いから、多種多様にやってくれているからです。それでもギリギリでした」


なんてことはない、俺個人に向いていない悪意なんかは、周りがなんとかしてくれていた。


「なので今回の事故も普通ならあり得ません。単純に喧嘩になった会社員同士の守護霊が、お互いの身を守る為にノー守護のタカサキさんを狙っただけです。その他も山のようにありますからね?不良に目をつけられるのも何もかも、守護霊が仕事放棄をしたからです。逆にいきなり老人からミカンなんかを貰えたのは、その人の守護霊が本気で憐れんで見てられないからと施してくれたに過ぎません!」


俺は「生まれてくる家間違ったー!!」と思わず叫び、女神様に「なら何回生き返ってもダメだよ!チャンス以前だよ!」と言うと、女神様も「私もチャンスの女神としての沽券に関わります。わかりました。次からは離婚した髙﨑愛子氏があなたを捨てて、あなたは物心つく前に新しいご両親に引き取られた事にします」と言ってくれた。



「マジで!?ありがとう女神様!」

「いえ、それではファンタージのお時間ですよ」


そう言って俺はまたはじまりの丘に降ろされた。

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