第3話 インフレ(インフレーション)。
人の人生は千差万別。
悪いことの後には良いことがある。
良いことと悪いことは同じ数だけ用意されている。
そんな言葉は大嘘だ。
明らかに世の中は不公平で出来ている。
そうでなければこの俺、高崎幸也は三度目の死を迎えていない。
「あらあら…またですか?タカサキさん」と言って、目の前に現れたのはチャンスの女神様。
「…またってか、俺が聞きたいですよ?しかも身体透けてるんですけど、どういう事か説明してくれます?」
俺は確かにファンタージをクリアした声が聞こえてきた。
今度こそ成功させると誓って眠気に襲われた。
目覚めると大概は3つとかの物心ついた所だ。
だが目覚めた俺は16の姿のままで半分透けていてここに居た。
「まさか1歳で殺されるなんて想定外でした」
俺は女神様の言葉に耳を疑い「は?」と聞き返してしまう。
「お母様、今回は育児ノイローゼみたいでしたね。まあ過去2回の経験がありますから、タカサキさんも本能的にお母様を嫌っていて懐きませんでしたからね。承認欲求が満たされなくて、カッとなってやってしまったみたいですね」
俺は生みの母を思い出してイメージをすると容易に納得が出来た。
「…何それ?マジで?」
「はい〜。マジです〜」
ニコニコと語ってくる女神様が憎い。
「で?アイツはどうなりました?まさか赤ん坊を殺して証拠不十分の不審死は…」
「不審死です」
どうして不審死になる!?
俺は声を荒げて「またかよ!なんで!?」と聞くと、ニコニコ笑顔の女神様が「たまたま洗濯物のバスタオルが、たまたま物干しから風で飛んで、窓際で眠っていたタカサキさんの顔に乗ってしまって、たまたま窒息死されてしまいました」と説明をしてくる。
「真相は?」
「水気たっぷりの濡れタオルを顔に乗せられてそのままです」
それなのに不審死!
おかしい!世の中狂ってる!
俺は怒りのあまり「ガァァァァ!!」と吠えた後で、「神様!あの女に罰を!!」と言うと、チャンスの女神様は「はぁ、別に良いですけど」と呆れながら返事をした。
てっきり「できません」とか言われると思っていた俺は、「え!?やれんの!?」と聞き返してしまう。「はい」と答えた女神様が、「ですが放置が1番ですよ?」と言ってくる。
「どうしてですか?」
「まあそれは置いておいて、それよりもファンタージのお時間ですよ」
「もうやだ。まさか赤ん坊の時に殺されるなんて思ってないし、そもそも回避不能じゃん。頑張ってファンタージをクリアしても、殺されたら笑えないよ」
「確かに。では三度目からは特典が着きますから、タカサキさんの特典は15歳まではご両親から殺されない事にしましょう」
「なにそれ?特典?」
「はい!たまにタカサキさんみたいに壮絶不運の非業を体現したような哀れな人が、何回もファンタージに来るので私が用意しました!」
言いぶりは気に食わないが問題はそこではない。特典と聞いて胸が躍った。
「それがあれば15歳までは両親から殺されない?」
「はい」
「絶対?」
「はい」
「絶対の絶対?」
「はい」
「ならやる」
「行ってらっしゃーい!」
ニコニコ女神をみて「バーロー、絶対に10日で戻ってやる」と思った俺だった。
そう思ってはじまりの丘に降り立った俺だが9日目に絶望をした。
精算した俺のレベルは102になっていた。
え?
嫌な予感がした俺は、はじまりの町にいる精算教え女の前に立って、「林檎あげる。レベルアップについて教えて」と言うと、「わぁ!取ってきてくれたの?ありがとう!ファンタージは女神様の御力で倒した魔物の経験値でレベルアップが出来るのよ!さあ!天に向かってレベルアップと言って!」とテンプレートを話し出す。
ここら辺を柔軟に作れよな。
「悪い。3回目だから知ってるんだ」
「あら、そうなの?じゃあファンタージは、レベル上限が199だから頑張ってね!」
俺は青くなって「なに?」と聞き返すが、精算教え女は「じゃあ!林檎ありがとう!」と言って去って行ってしまった。
やられた。
あの女神、俺のプレイスタイルが気に入らないからインフレさせやがった。
俺はクリアのために人を捨てる事にした。
目的の為に手段を選ばない辺りはアイツらに似てしまったのかも知れない。
手頃な弱さの日本人を見つけると、率先して【秘宝を授けてくれる有閑マダム】の噂を聞かせて、「なあ、嘘くさいよな。でも本当だとな…行けば役に立つよな。行きたくないよな」と漏らす。
バカな奴は早々にマダムからレベルを奪われるし、慎重な奴はレベルアップをしてから奪われに行ってくれる。
30人ばかし送り込んだ俺が有閑マダムを殺すとレベルは142になった。
今回のファンタージはクソゲー感がマシマシに増していて話にならなかった。
レベルアップに必要な経験値は変わらず、レベル上限だけが引き上げられていて、俺は199になるまで水晶の谷に出るクリスタルマンだけを殺し続けた。
雑魚魔物達は弱いままなのに魔王だけは強くなっていて、倒すのに概算で150くらいのレベルが必要で頭が痛かった。
今回はクリア時に女神様が目の前に降り立って「どうでした?」と聞いてきた。
「最悪。インフレさせても魔王だけ大変だし、時間だけ浪費するクソゲーだよ。まだ前の方が良かったよ」
「成程、参考になります。では特典を授けますから今度こそ頑張ってくださいね」
「ええ、そうしますよ。この会話ってフラグ臭くて嫌ですね」
俺は笑いながら光に飲まれて眠気に襲われていた。
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