第12話

彼は、仕事へ復帰し、

あの子も夏休みが終わり、学校が始まった。


私だけが此処にいないままに、彼らは、

少しずつ、日常生活に戻りつつある。


私に死後のイロハを教えてくれたのは、

花火大会でお会いした、お義父さんだった。


肉体を持たない今、私は、彼とあの子、同時に側にいることが出来る。


あの子は学校へ行くと、友達に囲まれながら、

私がよく知っている笑顔を見せるようになった。

屈託なく笑うあの子の姿に安心する。


あの子は、きっと大丈夫。


姿が見えないことをいいことに、

堂々と、あの子のすぐ側で、見守りながら、安堵した。


『その笑顔が大好きだよ。ずっと、笑っていてね。』


あの子の頭をそっと撫でると、

一瞬、不思議そうな顔をして私の方へ顔を向け、

また友達へと笑顔を向けた。


彼は、真面目に仕事へと向き合いながらも、ふとした時に、辛そうな顔をする。

例えば、休憩時間などには、仕事仲間との談笑から、そっと離れて、

ひとり、空を見上げながら、小さなため息を吐いた。


そんな彼の姿に、私は、どんな言葉を掛けていいのかも分からないままに、

ただ、彼の側へと寄り添った。


でも、私は、知っている。

彼なら、絶対に、大丈夫。


彼は、いつの日か、悲しみや苦しさ、全部をバネへと変えて、

生きて行こうとする自分を、必ず見つけるはずだから。

その時の彼は、きっと、

私が知っている彼よりも、ずっと、強い力を発揮するのだろう。


ただ、彼の側に寄り添いながら、先の未来を想像してみた。


その人生を一緒に歩むことは、もう出来ないけれど、

いつの日か、彼は自力で立ち上がり、今よりも、もっと、

素敵な人へと成長していく彼を想像することが出来た。


時間は、掛かるのかも知れない。

それでもいつか、彼なら、必ず辿り着くはず。

だから、絶対に、大丈夫。


『あっ!ねぇ見て?飛行機雲だよ。』


彼が見上げていた空とは別な場所に、飛行機雲を見つけた私は、

彼にも見せてあげたくて、思わず声を上げた。


彼は、まるで私の声が聞こえているかのように、

私が指差す方の空を見上げて、

ほんの少しだけ、微笑んだように見えた。





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