第11話
花火大会の翌日、私たちは、我が家へ帰って来た。
間も無く、お盆が明ける。
今は、深夜の時間帯。
とても疲れていたのだろう。彼は、テレビの前で眠ってしまった。
『こんなに痩せちゃって。目の下に、クマできてるよ。ごめんね。』
随分とやつれてしまった彼の頬に、そっと手を添えてみた。
どのくらい、そうしていただろう。
突然に、彼は起き出し、ボーッとテレビを観ている。
次の番組が始まっても、CMになっても、
表情ひとつ変えずに、ただ一点を見つめたまま、彼は動こうともしない。
テレビからは、笑い声が聞こえるけれど、彼は笑わない。
止まってしまった時間が、漸く、進み出したかのように、
彼は、不意にテレビのチャンネルを変えた。
私の好きな、お笑い芸人が出ている。
『ねぇ、これ観ようよ。』
こんな私の声が届いたかのように、彼は、リモコンをテーブルの上に置いた。
私は彼の隣に座ってテレビを観ながら、思わず、笑ってしまった。
『ねぇ、これ面白いよね。』
そう言って隣を見ると、彼は静かに泣いていた。
『ねぇ、泣かないで?』
彼には届かないことを知りながら、私は彼の前に座って語りかけた。
『なんでも出来るあなただから、全部、大丈夫だって思ってた。
私が思っていたよりも、ずっとずっと、辛い思いをさせてしまったんだね。
そんな顔をさせてしまって、ごめんね。
でもね、あなただから、私は、安心して、あの子のことを任せることが出来るよ。
あなたなら、大丈夫。』
そうして、私は、彼の頬を両手で包み、涙を拭った。
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