第10話
突然、誰かに肩を叩かれ、驚きながら振り返ると、
そこには、
1年半前に亡くなった彼の父親が立っていた。
私は、驚いて、思わず悲鳴を上げてしまった。
『な、な、何で?お義父さん!あっ、あの、ご無沙汰しております。』
私はきっと、これまでにしたこともないような顔をしていたのだろう。
驚く私の姿を、お義父さんは、可笑しそうに眺めていた。
『死んだのか。』
漸く、お義父さんは、口を開くと、
腰を抜かしてしまった私の隣へと、ゆっくりと座った。
私が落ち着くのを待って、
お義父さんは、お盆の里帰り中なのだと話してくれた。
よく周りを見渡してみると、
とても混雑しているように見えた大勢の人達の何割かは、
談笑には加わらず、
ただ楽しそうに、家族の様子を見ているだけだった。
恐らく、彼らもまた、お盆の里帰り中なのだろう。
お義父さんと色々な話をしながら、
どうにか彼を笑顔にさせる方法がないかと相談した。
『私は、側にいるよ。
そんなふうに伝える方法は、何かありませんか?』
お義父さんは、黙って私の話を聞いてくれたけれど、
真面目な顔をしながら、変なことを言い出した。
『心霊写真、撮るか?』
『え?なにそれ?それじゃ、まるで幽霊じゃないですか?』
思わず笑ってしまった私に、お父さんは言った。
『まぁ、生きてる人から見たら、俺たちは、そういうことになるよな。
でも、今の俺たちにとって、
心霊写真は、一番、オーソドックスで、
割と簡単に、この存在を伝えられる方法なんだよ。』
お義父さんは、相変わらず真面目な顔をして、写真に映る方法を教えてくれた。
『じゃぁ、次の花火が打ち上がったら、やってみようか。』
お義父さんは、
相変わらず、無表情のまま、花火の写真を撮り続ける彼を眺めながら、
花火に紛れて写真に写り込んだらどうかと提案してくれた。
私は、次の花火に写り込もうと決めた。
やり方は、簡単だ。
花火が上がると同時に、高くジャンプして、強く念じる。
自分には、もう重力など関係ないことを意識して、
飛びたい高さまでジャンプすることがコツ、らしい。
そうすれば、花火に紛れて、心霊写真が完成するというわけ。
次の花火が打ち上がり、
私は、空高くにジャンプして、彼に向かって最高の笑顔を向けた。
そうして、私は、
彼が撮った花火の写真に、無事、写り込むことに成功した。
側にいるよ
これは私から、彼へのメッセージ。
『ねえ、あなた。綺麗に撮ってくれた?』
今夜は、彼の実家に泊まることになった。
花火大会が終わり、彼の実家へ着くと、
先ほど撮った花火の写真を1枚ずつ見つめる彼は、とある写真で手を止めた。
さっき、私が写った写真だ。
『あっ!気付いてくれた?』
彼の隣に座って、一緒に写真を見てみると、そこそこの写り具合だった。
これなら、私だと、気が付いてくれるはず。
写真の写り具合に満足しながら、彼の顔を覗き込んでみると、
彼は、今日初めて、笑顔を見せてくれた。
『ねぇ、あなた。私は、すぐ側にいるよ。ほら、こんなに近くにいるんだよ。』
私は、微笑む彼を、そっと、抱き締めた。
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