第9話

告別式を終えると、そのままお盆に入った。

漸く、彼らは休むことが出来る。

明日は、彼の実家の地域で行われる花火大会だ。


「今年も来たら?気分転換にもなるかも知れないしさ。」

遠慮がちに、彼の家族が声を掛ける。

少し迷った顔をした彼は、あの子の顔を見ながら答えた。

「行こうか。」


今年の花火大会は、例年よりも随分と混んでいる。

確かに、ここの花火大会は、打ち上げ数も多く、評判ではあるけれど、

それにしても、今年はちょっと混みすぎだ。


それなのに、彼らは、上手にスイスイと歩いて行ってしまうから、

ついて行くのが大変だった。


毎年と同じ場所へ席を取ると、間もなくに、花火が打ち上がった。

花火を見上げた彼は、無表情のまま、空へとカメラを向けた。


あの子の側には、今、3歳年下の従兄弟が、ピッタリと寄り添っている。

従兄弟に笑顔を向けているあの子の姿に、安堵しながら、

私は、彼の側に寄り添った。


何度、彼の顔を覗き込んでみても、彼は、ひとつも笑わなかった。


『ねぇ、あなた?』


彼には届かないことを知りながら、声を掛け続けることしか出来ずに、

彼の顔を覗き込みながら、話し続けようとしたその時だった。



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