待人来たり .2

「俺たちが知らないだけで、日本にも、とんでもねえ魔術師がいるんだ。また違った形で委員会に対して、反抗を試みてる奴がな」


乾の語り口が熱気を帯びる。「きっと、そうに違いない。この国の魔術師は腑抜けばかりと聞いていたが、どうやら認識を改めないとな」


「でも、恒常的に卑弥呼に侵入して、回路を損傷させるなんて、なんというか、正気とは思えませんね」


乾は思わず笑ってしまった。「どの口で言ってんだよ。まさに、俺たちが、その正気の沙汰でないことをやろうとしてるじゃないか」


「確かに」波佐見も電話の向こうで笑った。思わず雰囲気が緩む。


「ただ、実力、度量ともに、並みの魔術師の比じゃないことは確かだ。捨て置くには、あまりにも危険だが、大いに関心をそそられる。仲間に加えることが出来れば、一番良い」


「それは分かりますけど、そんな相手なら、なおさら一度、こちらに戻って体制を整えては?」


「正論だけど、嫌だ」


「どうしてです?」


「人間の一生なんて、分からんだろう。ましてや、俺たちの身分じゃなおさらだ。だから、今日、この夜中にそいつと相見えたい」


「そんな勝手な...そもそもその相手は来るんですか?」


「来るさ、俺の見込み通りならな」


そう、乾の見込み通りならば、きっと会いに来るはずだ。まだ血踏みとの接続は切っていない。わずかな魔力の動きを辿って、ここに来るはずだ。なぜならば、優秀な才能は、自分よりも優秀な才能に出会う機会を渇望している。


「なんといか、ストーカー的発想ですね」


「人聞きの悪いことを言うな。俺は、あんたと違って、詩的な生き方をしたいだけだ。それに、話してなかったが、こいつ、俺が潜っている最中に、乱入して...」


言いかけて、乾は口をつぐんだ。そのまま無言で空を見上げる。視線、というよりも、むき出しの敵意を感じた。


「乾さん?どうしたんです?」


「悪い。波佐見」上空を見つめたまま、乾は言う。「客だ。あとでかけなおす」


そう言うと、乾は電話を切った。その目は、荒涼とした空に浮かぶ黒衣の男を捉えていた。


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