闇へ .1
乾が金沢の空を見上げる、その少し前-
衛は加納に見守られながら、ブツブツと呪文を呟く。詠唱は単なる儀礼に過ぎない。しかし、この詠唱によって、脳内に特定のイメージが形成される。それが魔術の完成度を高める。
さて、衛は、いわゆる多重感覚者だ。
魔術師が、普通の人間と最も異なる点とはなんだろう。それは、魔力が見える点だ。
普通、力は見えない。つまり、重力は見えないし、電磁力も見えない。強い核力、弱い核力に至っては、普通に生活していて、そもそも存在を感じることがない。現代科学は、これらの力を、世界に存在する全ての力であると定義しているが、実は不十分だ。
魔力が抜け落ちている。
魔力、これが決定的に重要だ。
それは、魔術師のみが認識し、扱うことの出来る力。揺らぎに干渉する力が魔力であり、魔力によって乱され整えられるのが揺らぎだ。
多くの魔術師は、魔力を視覚で認識している。これは、魔術師があくまでもヒトであることに由来する。人間は、外界の認識の多くを視覚に頼る。だから、魔力の認知も、眼を入り口として選択するのは、ある種当然とも言える。
しかし、衛は自分の体の回路を大胆、かつ精緻に組み替える事で、魔力の認識を他の感覚器官に無理やり接続することが出来る。その間、他の感覚(例えば、触覚や嗅覚など)は著しく減退するので、戦闘中は控えるようにしている。しかし、索敵には、これほどうってつけの能力はない。
衛は、魔力の認識を、目から耳へ切り替える。途端に、視界が暗転し、聴覚だけが脳内を占有し始める。
衛の脳内に、立体の地図が浮かび上がる。
もし、自分が犯人なら、拘束限界の隅の方で、それこそギリギリ魔力が使える場所で潜伏するはずだ。理由は簡単。攻撃を受けた場合に、拘束限界の外側に逃げれば、とりあえず魔術での攻撃で死ぬことはないからだ。
拘束限界は10km。金沢市の市街地からほど近く、人目につかない。かつ、相手を迎え撃つのに適した場所。周囲に高い建物がなく、いざとなったら、直ぐに逃走出来る。
そうあたりをつけると、すぐに見つかった。
(これ、罠かもな)
そう思うぐらい、魔力がビンビンに伝わってくる。隠れてこちらの様子を窺っている雰囲気ではない。
『俺に会いに来いよ』
まだ見ぬ相手からの呼びかけが聞こえた気がした。
衛は接続を元に戻し、視界を復旧する。
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