金沢にて .18 血踏み
「実はさっき、加納さんが阿久津さんの様子を見に行っている間に、東京にいる友人に電話したんです」
「この真夜中に、ですか?」加納が半ば呆れた声で言う。
「相手は昼夜逆転してますから、まあ、それは良いとして、昔はわりとこの国でも、血をベースに回路を組むのは一般的な方法だったようです。もっとも、海外から近代魔術が入ってきてから、あっという間に廃れましたけど」
そもそも有機物に回路を組むのは、効率が悪い。回路はゆらぎが安定的に遷移してはじめて意味を成すが、有機物はそのバラツキが無機物に比べて大きい。だから、回路を組んでも安定しない。近代以降、回路は銀や金といった宝石をあしらった宝飾品に組まれることが多くなった。揺らぎが安定しているし、魔術師がそれらの品を大事に抱えていても、周囲の人間が何ら不審がることがないからだ。
「大切なのは、ここからで、そういった血を用いる魔術の中で、もっともメジャーだったのが、『
「血踏み...聞いたことありませんね」
「これは、わりと変わった魔術で、回路が組まれた状態では、未完成なんです。それで、魔術師が触れると、回路が完成する。厄介なのは、完成時に、回路に触れた魔術師の情報を、血の持ち主に伝達する、という点です」
「となると、犯人は、私と瀬谷さんのことを既に認識していることになりますね」
「いえ、有機物に組まれた回路は、安定性に欠ける。犯人が知りえたとしても、最初に血に触れた加納さんの情報だけでしょう」
途端に加納が表情を
「それはないですね。もし仕留めるつもりなら、千堂夫妻のマンションを出たところで、とっくにやってます。それに、相手の位置を継続して特定するような、そんな高度な魔術ではないでしょう。たぶん、触れた相手の回路の容量を測る、みたいな魔術だと思います」
「そうですか」加納は胸をなでおろしたが、「いや、ちょっと待ってください。さっき、マンションを出るときに、瀬谷さん、妙に私から距離を取ってましたよね」
「お気づきでしたか?」衛は含み笑いしつつ、「まあ、あんな市街地で、本格的な戦闘を仕掛けてくるハズはないですよ。自分の素性をさらけ出すようなもんですから」
衛は脇道にそれた話題を戻す。「いずれにせよ、もし、犯人が血踏みを仕掛けた場合、いまだ拘束限界の内側に留まっていてもおかしくはない。こちらの情報を盗み見て、再度攻撃の機会を伺っているはずです」
「しかし、阿久津さんの拘束限界は半径で200m。周囲をしらみつぶしに探すつもりですか?」そんな無茶な、という顔をされるが、実はもっと条件が悪い。
「一点訂正すると、現在、拘束限界が徐々に拡大しています。いずれ収束すると思いますが、だいたい半径10キロ、といったところでしょうか。阿久津さんがメンテ中で、一時的に卑弥呼の性能が下がっているようですね」
「10km...さすがに無謀じゃないですか?」
「視るのは無理でしょう」衛は耳に手をやる。「でも聴くことなら不可能な距離ではありません」
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