金沢にて .17
衛は、加納の車に積まれていたスーツケースを取り出した。これは、以前から加納に預けていた品物で、他の魔術師からくすねたものや、力づくで奪ったものが詰められている。今回の事件に際して、加納に持ってくように予め依頼していた。
「えっと、どこにやったかな」衛はトランクの中をあさり、数本のナイフを取り出す。続けてポケットから小さい懐中電灯を取り出すと、光をナイフの刃に当てる。刃が鋭く光る。ずっと放置していた割に、切れ味は衰えていないようだ。
「お待たせしました、瀬谷さん」阿久津の様子を見に行っていた加納が戻ってきた。「残念ながら、彼女が目を覚ますまで、もう少し時間がかかりそうです」
「そうですか。もしかしたら、と思ったんですけど、ダメでしたね」
二人は、既に千堂夫妻のマンションを出て、先ほどの老人ホームの駐車場に戻ってきていた。衛の準備と、阿久津の状態を確認するためだ。
「もう着替えたんですね」衛の服装を見て、加納が言う。説得が不可能であることを悟ったようだった。
「ええ、この方が動きやすいですし、何よりも夜に紛れられる」
先ほどまでの衛の服装は、ジーパンにTシャツという非常にラフな格好だった。授業終わりに東京から駆けつけたから、当然といえば当然の服装である。
今の衛は、全身を黒装束に身を包んでいた。素材は伸縮性に富んでおり、筋肉の動きをできる限り制限しない代物だ。
「もう一度、確認しますけど、1時間以内でケリをつける、ということで宜しいですね?」
「はい、それで構いません。もし連絡がない場合、私のことは捨て置いて下さい」
「犯人を追う」と主張する衛に、加納は最後まで反対した。当然である。別に今更、危険を冒す必要などどこにもない。衛はなんとか加納の了承を取り付けたが、一つの条件が課された。1時間というタイムリミットだ。
「でも、犯人の居場所に心当たりがあるんですか?」
「それは今から探します」
「どうやって?」
「犯人はおそらくまだこの近くに居ると考えて良いでしょう。さっきのインターホンの血痕、覚えてますか?」
「ええ、私が触れたやつですよね?」
衛は頷くと、「あれ、おかしいと思いません?あの血が、仮に千堂夫妻のものだっとする。そうなると、犯人は返り血を浴びて、その血がインターホンに付いたことになりますけど、これはどう考えても不自然です」
「確かに。殺して退出した上で、インターホンを鳴らす、って順序が逆ですよね。そうなると、逆に犯人が部屋を訪ねた時に、何らかの事情で出血していて、インターホンを鳴らす際に、血が付着した、ということでしょうか?」
「いや、それでも理屈に合わないですよ。他の箇所、例えば、階段の手すりや廊下、玄関のドアノブといった場所には、血が付着していなかったでしょう。実際、私の手には血痕が見当たりませんでしたし」
「じゃあ、あの血は一体?」
「これは個人的な推測に過ぎないのですが、あれは犯人の血ではないでしょうか?」
「犯人の?」加納が怪訝な声を出す。「どうして、そう思われるのですか?」
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