金沢にて .10 拘束限界
「なんですか、それ?」こちらの曖昧な物言いに、加納の顔が曇る。「中はどんな感じでした?」
「大荒れに荒れていますね。この状態で、阿久津氏さんが眠りから覚めないのは、おそらく卑弥呼のセーフティが機能しているからでしょう」
「そんな状態で、よく戻ってこれましたね?」
「戻ってきた、というよりも弾き飛ばされた、という感覚ですけどね」衛は背中をさすりながら、「そうそう、確認なんですけど、この卑弥呼の拘束限界は?」
「半径で200m程度です」
拘束限界というのは、言うなれば卑弥呼の性能を示す一つの物差しだ。卑弥呼は魔術の行使を強制的に停止する結界だ。言い換えれば、その結界内では、魔術を使うことは出来ない。
しかし、卑弥呼自身もかつての魔術師たちが組み上げた巨大回路であるので、魔術によって動作している。
となると、卑弥呼の周囲に、ごくごく僅かに魔術を行使できる領域が生まれる。そうしないと、そもそも卑弥呼自身が起動しない。これは、卑弥呼自身の正常な稼働のために、やむを得ない構造上の仕様であり、拘束限界と呼ばれる。
言うまでもなく、拘束限界は小さければ小さいほど良い。拘束限界が大きいということは、卑弥呼を遠距離から攻撃出来ることを意味するからだ。そして、この拘束限界は、卑弥呼の
「200m」衛が繰り返す。「結構大きいですね。たしか東京の卑弥呼の拘束限界は、その1/10以下のはずですが」
「東京は規格外でしょう。なんたって、
「まあ、そうですね」
東京は世界有数の大都市であり、日本における政治・経済・文化の中心だ。そのため、その世代の中で最も優秀と
「それで、拘束限界がどうしたんですか?」加納が話を戻す。
「私の気のせいでなければ、歪んでいます。いや、一方向に伸びている」衛は目を閉じ、集中する。「北、いや、北北東の方向に80mほど、まるでアメーバが触手を伸ばすかのように、拘束限界が突出しています」
「ああ、それは正常な機能ですよ」
「というと...?」
「先ほどの会話を覚えてます?委員会が阿久津さんの監視役を送り込んだって、話です」
衛は頷く。
「その監視役のために、拘束限界を一部引き延ばしているんです。それによって、阿久津さんの回路に、常時接続するようになされています。もっとも引き延ばされた拘束限界は、ごくごく小さい幅しかありません。つまり、凄く細長いんです。だから、周囲への影響はそう大きくはないでしょう」
「しかし、卑弥呼ほどの回路に常時接続なんてマネしたら、その監視者の回路が無事で済まないでしょう?」
「たしか、セキュリティ層の外側にしか接続が出来ないように、阿久津さんの回路を弄ったはずです。それに常時接続と言っても、二人で分担しているので、本当の意味で24時間、卑弥呼に同調している訳ではありません」
衛は加納の言葉を咀嚼する。
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