金沢にて .9 vision
女と目が合う。知らない女性だ。でも、なんだか懐かしい。
周囲の光景も馴染みがない。見知らぬ部屋で、一人
(包丁...?)
その時に、衛は初めて状況を理解する。女は自殺を試みている。
「ごめんね」女が穏やかな口調で言った。私は何も言葉を返せなかった。
女が喉を掻き切るその瞬間、その幻視は夢のように消えた。衛の意識が完全に卑弥呼から排除される。その勢いのまま、衛の身体は勢いよく後方に吹っ飛んだ。
背中に鈍い衝撃が走る。衛の体は病室の壁に思いっきり叩きつけられる。
「ぃてえ....」
「大丈夫ですか!瀬谷さん」すかさず加納が駆け寄ってくる。
衛は加納が差し出してくれた手を掴んで立ち上がる。同時に、自身の状態を確認する。幸い、背中に痛みは残るものの、大したことはなかった。呼吸を整えながら、「ええ、卑弥呼から押し出されただけです。私の回路には損傷はありません」
加納がほっと胸を撫で下ろす。
衛は壁に掛かっている時計を見やる。「どれくらいの間、潜ってました?」
「ざっと2、3分というところでしょうか」
「そうですか。思ったよりも早いですね」
他人の回路に同調して精神を覗いている
「それで、収穫は?」
「ある、といえばある」
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