金沢にて .7

「目視での異常は認められませんね」しばらく観察を続けていた衛が言う。「仕方ありません。回路を繋げてみます」


「平気ですか?卑弥呼とのは、かなりの負荷がかかると思いますが」


衛は鼻で笑う。「誰に向かって言ってるんですか?」


「そうでしたね、失礼しました」


衛は阿久津の手を握ると、呼吸を整える。


自分以外のの揺らぎを認識すること。これはそう難しくない。


問題は、の揺らぎを認識することだ。


この世の全ては揺らぎによって存在している。自身の肉体も例外ではない。為すべきは、自身を一つの揺らぎの集合体として認識し、それを調整すること。


衛は繰り返し、深く息をする。息を吐くたびに、意識が鳩尾みぞおちに収束するようなイメージを持つ。あくまでイメージだ。が、イメージなき魔術は完璧を欠く。これは序列を問わず、広く魔術師によって合意される事実である。


意識は収束し、発散する。そのリズムを少しづつ、目の前に阿久津の呼吸のタイミングに合わせていく。


徐々に、視界がぼやける。阿久津の視界(といっても、目を閉じているので、真っ暗だが)が衛の脳内に入り乱れる。回路接続時によくあるノイズである。


「どうです?」加納が待ちきれないといった様子で訊く。


「今、やってます」集中力を切らしたくない衛は素っ気なく答える。「もう少しで完全に同調します」


回路の接続とは何か。それは、Aの揺らぎのリズムを整えて、Bの揺らぎのリズムに合わせること。そうしてはじめて、両者は、この世の最小レベルといって良いスケールで、揺らぎつつ


完全に同一の物体になる訳ではない。あらゆるものには固有の揺らぎがあり、常にそれに回帰しようとする。だから重ねようとしても、反発する。その反発を瞬間瞬間で細心の注意を持ちつつ、修正する。可能な限り、阿久津と衛の揺らぎを近づけていく。

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