金沢にて .4

15分ほどのドライブの後、衛たちは老人ホームに到着した。真夜中ということもあり、既に施設は消灯しており、静寂に包まれている。


敷地内を進みながら、加納は衛を案内する。


「もうエントランスは施錠されているので、裏から入ります。施設の職員は既に帰っているので、見つかる心配はありません」


「でも、こんな時間ですし、通用口も施錠されているのでは?」衛が訊くと、「ここ、うちの管理物件なんです。なので、鍵は持ってますし、警備システムもさっき解除しました」


「なるほど。それは助かります」


「一応、入居者とも面識はあるので、見つかっても大ごとにはなりませんが、出来る限り、面倒は避けたい。お静かにお願いします」


衛は無言で頷いた。


衛たちは通用口から施設内に入り、廊下を進む。一応、保安灯が点灯してはいるものの、全体的に薄暗く、不気味である。二人は、階段を昇り、いくつもの部屋を通り過ぎた。やがて、加納はとある部屋の前で立ち止まった。部屋のネームプレートを見ると、「阿久津梅代あくつうめよ」との記載がある。


「ここが?」


「そうです。入りましょう」そう言って、加納は部屋のドアをゆっくり開き、衛を部屋に招き入れた。部屋の中は真っ暗で、あたりの様子はよく分からないが、加納がすぐに懐中電灯を取り出し、部屋を照らした。衛にも同じ懐中電灯が手渡される。


部屋を光で照らすと、まず視界に飛び込んできたのが、部屋の傍らに設置されているパチンコの筐体である。白っぽい個室に、普段はパチンコ店に並んでいる機体が鎮座されているのを見ると、かなりの違和感を覚える。


衛がパチンコ機を見つめていると、加納が「お好きなんですよ。パチンコ」と説明を加える。


「だからって、普通部屋にまで持ち込みますか...」衛は内心、呆れていた。


「まあ、実際のところ、周囲は彼女の我儘わがままにはうんざりしていますね。でも、だからといって、彼女の機嫌を損ねるわけにはいかないでしょう。なんたって..」


「卑弥呼のホルダー、だからですか?」


加納は頷きつつ、「そうです。彼女がシステムの要であり、最大の急所でもある」


「で、そのキーマンがこちらと」衛はパチンコ機のそばにあるベッドを光で照らした。一人の老婆が横たわっている。一見すると、眠っているようにしか見えない。






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