金沢にて .3

委員会というのは、世界最大の魔術師の互助組織である。中世の時代から魔術師の親睦団体として機能し、魔術の発展に貢献してきた。しかし、時代が下るにつれて、保守化の度合いを強めており、衛のような現場の魔術師と意見が対立することも多い。


日本全体を覆う結界『卑弥呼』はその最たる例である。この結界によって、日本国内での魔術の顕現けんげんは大きく制限を受ける。『卑弥呼』は委員会によって、江戸時代の末期から部分的に日本に導入され、現在に至っている。


「今回の一件、委員会にはどこまで?」衛は当初からの懸念を口にした。委員会の介入は、往々にして現場の混乱を招く。やれ管轄がどうとか、手続きがどうとか。官僚主義をところかまわず持ち込むのが、彼らの最大の悪癖だ。


「言うと思いますか?もちろん、だんまりですよ。すべて内密に処理します。そのために、貴方を呼んだんですから」


ちなみに、加納は委員会の正規メンバーではない。委員会自体はごくごく小規模な組織で、実務を外注することも多い。加納はいわば、で、北陸における彼らの手足に過ぎない。にもかかわらず、加納はしばしば委員会の内規を破る。そして、衛はそれに加担する、という関係がここ数年、続いていた。


「賢明ですね」


「しかし、ことが明らかになれば、私も、貴方もまずいことになる。お互い、探られると困る点が多々あるでしょう」加納は、ハンドルを右に切りながら、「つまり、我々は運命共同体ということです。お互いの今の人生を守るために、なんとしても、今晩中にケリをつけます」


加納が真っすぐに衛を見据える。相変わらず顔には笑みが浮かんでいるが、これは虚勢、というか、ハリボテの笑顔が張り付いてるに過ぎない。事実、額には脂汗が滲んでいた。


「ええ、こちらもそのつもりです」衛はそう応じると、「ところで、どこまで処理出来ますか?」


「どこまで、とは?」


「攻撃者を生け捕りにするか、もしくは...」


「殺しても構いません」衛が言い切らないうちに、加納が言葉を引き継いだ。「手加減は無用です」




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