蛇足 その後のお話ー従妹との再会
①
それはある休日の昼下がり……昭和かよ、と言いたくなる程ボロい、アパートの自室での事だ。
腰まで伸ばしたさらさらとした黒髪のストレートヘアに三角巾を被り、まだあどけないものを残した顔立ちの少女が、不安そうにこちらを見ている。
部活の帰りに荷物だけ置いて直で来た、とのことで……
コートを脱ぎ、白のセーラーに紺のスカートの制服の上からエプロンをかけた格好。
それを押し上げる胸部のサイズが平均を遥かに上回るものなのは……何というか、彼女いない歴=年齢の俺には、些か目に毒だ。
そんな目の前の彼女が、有難くもせっせと台所に立って作ってくれた
「どうですか、その……ちゃんと教えられたとおりに作ってみたんですけど」
「いや、最後に母さんの炒飯食ったの、小学校低学年くらいの頃だし。
正直自信とかないんだよな……」
ぼやきつつ、あむ、と彼女が作った炒飯を掬って咀嚼すると、口の中に懐かしい味が広がる。
微妙にぱらぱらとしていない、べちゃっとした水っぽい食感。
味を調えるつもりで入れたのであろうウスターソースの量が微妙に多すぎるというか……
炒飯としてはどうなんだこれ、といった独特の風味を醸し出しているが、俺はこれが嫌いではなかった。
もう食べる事が出来ないと思っていた……酷く、懐かしい味だ。
多分、間違いない。
記憶の中にある母さんが作った炒飯の味、そのものだ。
「……まあ、俺の母さんが作った奴と味は変わらないと思うよ」
「そうですか、良かったです!
いやー教わったの大分前だったんですけど、体が覚えているものなんですね!」
嬉しそうに顔をほころばせて俺に微笑みかけて来る彼女の言葉に、何と返していいものかわからず、再び目の前の
「確か元々は母さんの方の婆さ――ああいや、お祖母ちゃんのレシピだっんだっけ、これ」
そう。今世話になっている、父方の祖母ではない。
もう亡くなっている――母方の方だ。
であれば、母の手料理のレシピを一部でも知っている人間といえば――
「ええまあ。私が教わったのはお母さんからですけど。
お祖母ちゃんは……もう、大分前に亡くなっちゃいましたから」
声は明るいが――少し、寂しげに笑う彼女。
……記憶も朧げだが、亡くなったのは俺が中学生の時だったか。
年齢の割には、びっくりするくらい元気な人だった。
正直、今でも亡くなったといわれてもぴんとこないというか、実感がない。
俺のが知る限りでは、あの人はそんなものを残しておくような人では、なかったと思う。
というか、手料理のレシピを残そうなんて発想は……
それこそ自分の余命がわかっている、なんてことでもない限りは、出て来ないだろう。
俺の母さんもそうだったが、本当に……そういった事は、ある日突然やってくるものなのだと、今更ながら、思う。
「えっと、
隣に越してきたからって……別にわざわざ時間作ってご飯作りに来てくれなくてもいいんだよ?
そりゃ話の流れでこういうことにはなったけどさ」
「
可愛い可愛い従妹の
頬を膨らませつつも、よよよ、とわざとらしく泣きまねなどして見せる仕草も、可愛らしいというか、あざとい。
何というか昔以上にべったりとした距離感で接してくる彼女を、牽制しつつ返す。
「いや、通い妻は止めてっていったでしょ。
冗談でも年頃の娘がそういうこと言うんじゃありません」
真面目腐っては返しては見るものの、悪くない気分になってしまっているのは、自分でも単純だよなあ、と思う。
……こういうのを真に受けると痛い目にあうだけなんだよなあ、と言い聞かせて深呼吸。
いやまったく、どういう
彼女の名は、
母さんの姉に当たる、
半年前――つまりは、今年の春から高校生になったころにこのアパートに引っ越してきたお隣さんでもある。
で、なんというか俺の通い妻を自称して、毎日のように遊びに来ている訳だ。
……いや、当人がそう主張してるってだけで、たぶんからかわれてるだけなんだろけど。
まったく、一体何がどうなってるんだよ、おい。
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