世界の裏事情

「というわけだよ。便宜上ではあるが魔力値が1万を超えた者はすべてSランクと定義しているがね。貴殿はどうやらさらにその先にいるようだ」

「え、ええ。まあ」

「貴殿がその気になれば金沢という都市はまるごと消滅するだろうね。我々の態度もそれを考慮したものだ」

「なるほど……」


 理解が追いつかない。追いつかないが自分の半身を占める相棒のことを思いだすといやおうなしに現状を思い知らされる。

『むふー。そうなのです。さあ、ボクと一緒にドラゴン族をせん滅して機械生命体の覇権を取り戻すのです!』

「いや、そうは言うけどさ。お前知らんの?」

『なにがですかー?』

「ドラゴン族と機械生命体のボス、相討ちになってんぞ?」

『はいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!??』


 そう、太平洋のど真ん中に生まれた島、超古代の文明が復活したとか異世界の文明が転移して来たとかいろいろと与太が乱れ飛んでいたが、シータと記憶を共有した今ならわかる。どっちも事実だ。


 超古代文明、すなわち機械文明は宇宙のどこかで発生したAIが暴走した結果、生物が滅んで機械だけが自己増殖を始めた結果らしい。よくSFとかであるやつだ。そしてドラゴン族はよくわからんけど地球で言うなら恐竜が知能を持ってしまったような感じで、眷属にリザードマンとかがいる。

 ただそれだけなら猛獣の一言で済むんだが、そうじゃない。彼らは高い知能に基づいた文明と、魔法を操る魔力と言うものを持っている。

 そうして、1999年から地球にいる人類にも同じ力が目覚めたって言うか後付けで追加された感じだ。


 数年前、くだんの大陸の中央部でけた外れの、人類の探知能力では計り知れないほどの魔力の激突が観測された。膨大な、それこそ天文学的な単位の魔力二つがぶつかり合い、互いの威力を相殺し合ったうえで消滅したとされる。

 その後、現在に至るまでモンスターや機械生命体の動きが精彩を欠くのは少なくともその指揮を執っていた存在が倒れたか、少なくとも行動不能になっているというのが人類側の推測だ。希望的観測、ともいうが。


 そう、この両陣営の裏でひとまず人間に肩入れしているなにかがいるということだ。


「さて、Sランカーはすべからく、この世界の秘密に触れています。アカツキさん。貴殿もそうなってしまった」

「謹んで辞退……は無理そうですねえ」

「申し訳ありませんね」

 まったく申し訳ないという雰囲気を感じさせずにクガネ氏は告げる。


『あー、けどね。ボクも魔力を理解したからねえ。マスターと融合してからなんだけど』

「はい?」

 機械生命体は魔力を扱えない。だが今こいつはそれを克服したと言いやがった。


『つまり魔力を使うための回路を持つ生物を取り込めばいいってことだね』

「おい、ちょっと待て。いつの間にか俺の脳みそがお前と入れ替わってるとかないだろうな」

『あはは、それは無理だね。ボクの思考回路はマスターと融合してるし』

「ならいいけどさ」

 ぶるりと身を震わせる。ちなみに俺とシータの会話は誰にも聞こえていない。盗聴するなら思考を読み取るようなスキルが必要だ。


「さて、ギルドが貴殿に期待することは、大げさなことを言うのであれば人類の守り手となっていただきたいということなのですよ」

「というと?」

「国家公務員の座を約束します。権限はありませんが、お給料はこれくらい……」

 差し出された書面には並みの冒険者100人分ほどの額面が記載されていた。乗るしかない! このビッグウェーブに!!


「力あるものは相応の義務を負う。このアカツキにお任せください」

「おお、ありがとうございます!」


 お互い右手を差し出し、がっちりと握手を交わした。俺を取り込んだことでクガネ氏の功績が加算され、その権力も強くなる。俺は力を得たと言えども一人の人間だ。権力者という名の後ろ盾は必要だろう。ここはお互いウィン・ウィンの関係を築くべきだ。


「では貴殿の得た装備について……」

 そうして満面の笑みを浮かべて検査機器をどこからともなく引っ張り出してくる。

『マスター、このおっさん胡散臭いです』

「わかってるよ。本当の力を見せる気は無いさ。ただ向こうもそう思ってるだろうな」

『んー、マスターが分かってるならボクは良いんだけどね』


 こうして、訓練ルームで全力の手加減をしたうえでの模擬戦闘をこなす。そもそも通常攻撃でも的が吹き飛んでしまう上に、壁ごと吹き飛ばしかねない。魔力操作スキルを持っていて本当に良かったと思ったのだった。

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