変わった世界
「おはようございます。アカツキ様」
ドアがノックされるとともに俺を起こす声が聞こえてきた。
「あ、ああ」
「まことに申し訳ございません。ギルドマスターのクガネ様より面会のお申し出が入っております」
昨日は眠気に襲われ禄に確認もせずに眠りこけてしまった。というか万が一にも闇討ちとかに遭っていたらヤバかったな。
『ははは、その時はボクが対処するよ。なにしろボクには睡眠と言うものが要らないからね』
「ああ、そりゃありがたいな」
視界の隅でドヤ顔するシータに小声で答えると、「身支度をするので少し時間をもらいたい」と告げてシャワールームに入った。
シャワールームの鏡に映る姿はこれまでとは特に変わりはない。それでも体内を巡る魔力の量はこれまでとは比べ物にならなかった。
『まあねえ。ダンジョンで吸い上げた魔力のほとんどをマスターに注ぎ込んだから』
「それであの意味の分からん桁なのか」
一般人の魔力を1とすると、Aクラス冒険者の魔法職で100ほど。そして俺の魔力は53万らしい。
レイドで対抗するような巨大モンスターであってもいいところ1万だからまさに破格の数値と言えるだろう。
シャワーのお湯を止め、軽く力を入れるとパンッと体の表面の水滴が吹き飛んだ。
シャワールームにあらかじめ用意されていた新しい服に着替え、宿の部屋を出ると……立派な身なりをした執事風の男が俺を出迎える。
「お待ちしておりました、アカツキ様」
声からするとさきほどドアの外から声をかけてきた者だろう。
「お、おう」
「わたくしのことはセバスとお呼びください」
「お、おう」
「ちなみに本名は別にありますが、様式美というやつにございます」
パチッとウィンクを決めて笑みを浮かべる姿は、実に様になっていた。
「冒険者のアカツキだ。よろしく頼む」
「こちらこそ、誠心誠意お仕えさせていただきますので、よろしくお願いいたします」
何かよくわからない言い回しがあった気がしたがとりあえず気にしないことにした。
建物の外にはいわゆるリムジン、魔石動力で動くやつ、が横付けされており、セバスが恭しくドアを開く。
シートに腰かけると音もなく車は動き出し、目の前にはパンと紅茶、サラダにスクランブルエッグといったオーソドックスな洋風朝食メニューが並ぶ。
「お口に合えばよろしいのですが」
「ああ、ありがとう」
場の雰囲気に流されるまま礼を言うと、パンをちぎって口に運ぶ。美味い。美味い。うまああああああああい!
よくわからないうちに食べきって、紅茶のおかわりを注いでもらっているところだった。そうこうしているうちにギルドに到着すると、またもやギルド職員総動員かと思われるような出迎えを受ける。
「「お待ちしておりました!」」
その状況にポカーンとした表情を浮かべる一般の冒険者たち。うん、わかる。俺もこんな歓迎をされる側じゃなけりゃ君たちと同じリアクションだったと思うよ。
それでもその場に立ち尽くすことはできない。
「ご苦労」
精一杯お偉いさんっぽい雰囲気を醸し出したつもりでギルドに向かって歩き出した。
「やあ、お待ちしておりました。アカツキ様」
雰囲気は昨日までと変わらないが、何やら聞きなれない呼び方をされる。
「さま?」
「左様にございます。貴殿は人類最強の力を持ったわけですからな」
「……」
「まだお分かりになっておられないようですな。まず先日、貴殿の魔力値を測定させていただきました。第二次覚醒を冒険者は大幅にその能力を上昇させます。そうなれば力に酔って暴走したりと、事故の可能性があったのですよ」
「……」
「例えばですが3年前の舳倉島ダンジョン事故はご存じですかな?」
記憶にはあった。謎の爆発事故で島そのものが消し飛んだという話だ。結局はダンジョンの奥底にあった魔力結晶が暴走したという推論で操作は終わっていたはずだ。
「ああ。ニュースで出ていた内容だけだが」
「膨大な魔力を得た冒険者が魔法を暴発させたことが原因です」
「お、おう……」
「そうそう、その時の冒険者の魔力値は15000でした」
「貴殿の1割にも満たない数値ですな」
あまりの話の内容に理解が追いつかず、間抜けな返答しかできていない。しかしそういった話をされるということは……。
「さて、少しご理解が追いついてきたようなので。ギルドは常に強い冒険者を求めています。地球に巣食う人外の者たち。ドラゴンをはじめとする強大な生物と、機械生命体と呼ばれる者たちの対立構造。その間で小さくなって震えているのが我ら人類、というわけです」
なんだかもう理解が追いつかなかった。
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