我に返ってしまった
「あ、あああああああああ……」
いろいろと調子に乗ってしまい、ふと我に返ると周辺は血の海だった。素材? なにそれ美味しいの?
「おお!?」
バラバラになった亜人たちの身体のパーツの中にきらりと光ったのは魔石だった。魔石はギルド買取で換金できるうえに貢献値も上がる。一定のグレード以上のモンスターしか排出しないので相応に貴重品だ。
「やった!」
魔石を手に取った瞬間……ふっと消えた。
「なにぃ!?」
『あ、マスター。ボクの強化には魔石が必要なのです。オークの魔石じゃチョーット物足りませんねえ。次にはオーガの魔石を所望しますです』
「え!? ちょ!? ま!?」
がっくりとうなだれた。絵に描いたようなorzだった。
「いや、まだだ。まだモンスターが来るかもしれん!」
『というかダンジョンボスだったボクがダンジョンから切り離されてるからねえ。そろそろここ、消滅するんじゃないかなあ?』
「え??」
ゴゴゴと微細な振動が伝わってきた。地震のように徐々に揺れが大きくなって行く。
「出口は!?」
『あっちだねー』
視界の片隅に矢印が見える。その方向に視線を向けると確かに光が差し込む通路が見えた。と同時に揺れがひどくなり、ボコッと地面に穴が開く。
「うおおおおおりゃあああああああああああああああ!!」
脚に魔力を回し全力で駆け抜ける。俺が駆け抜けた後からどんどんと地面が無くなって行く。そうして通路に飛び込んだ直後に、天井が崩れてきて背後は完全に埋まっていた。
そういえばレッドフォックスの面々はどうなったんだろうか? あと先に入り込んでいたパーティの安否も気になる。
『あー……彼らに関しては、ご愁傷様ってことで』
「そう、か。仕方ない、な」
『あれ? 意外にドライだね』
「まあな。冒険者がダンジョンで死ぬのは当たり前ってことだ。いちいち気にしてたらこんな稼業続かんよ」
『そう……』
若干しんみりしていると、スマホから通知音が鳴り響いた。
ギルドからの安否を問うメッセージに、「何とか帰還できそうです」と応える。
そして重い足を引きずって俺はどんどんと明るさを増す通路を進んで行った。
入ったときは井戸の中を進んだが今度は洞窟っぽい横穴から出た。俺のスマホの位置情報が入ったのか、改めて着信が入る。
「アカツキさん。ご無事で何よりやね」
「ははは、何とか生き延びましたよ」
周辺の様子を見ると、寺のあった丘のふもとのようだった。足にぐっと力を入れて跳躍し、崖をのぼって行く。数回飛ぶと建物が見えた。ちょうど道の横だったのでそのまま坂を上り寺の門をくぐる。
俺が入ったと同時に敷地内にいた冒険者数名がこちらに気づいた。
と同時に一番俺の近くにいたやつがへたり込む。
「え……?」
『マスター。ちょーっと魔力を絞りましょう。駄々洩れになってますよ』
慌てて魔力を体内に納めるように調節する。へたり込んでいた冒険者は真っ青な顔で荒い息をついて俺の方を見ていた。
「ふむ、一皮むけたようですな」
出会った時のように飄々とした雰囲気でクガネ氏がやってきた。少なくとも表面上は変わったように見えないが、以前はわからなかった彼の底知れない魔力を感じ取る。
「ほほー。なるほど。一皮むけたどころかいっそ転生したくらいの変わりようですなあ。身体の半分がモンスターになっていらっしゃるご様子」
「……わかりますか」
「ええ、私も同類ですからねえ」
そう告げるとクガネ氏の指先が金色の鱗に覆われた。
「ま、こんなもんですわ。というわけで、真の冒険者になられたお祝いに一席設けようと思うんやけど、いかがですかな?」
「はは、俺も事情を知りたいんでね。是非にと」
「うん、まあお疲れかと思いますし、まずはゆっくりとお休みくださいな。お話はそのあとで」
「承知しました」
そうしてふと思い当たってスマホを見る。自分の体感よりも日付が6日進んでいた。
『ボクとの戦闘の後、マスターの身体の修復にかかった時間だね。ほぼ相討ちだった感じかなー』
のほほんと告げる相棒の言葉に、俺はどっと疲労感を感じて、宿の布団にもぐりこんで意識を手放した。
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