汎用ナノマシン決戦兵器との出会い

 意識が落ちる瞬間、全身を灼熱感が襲った。巨大なスライムに飲み込まれた冒険者を見たことがるが、強力な酸にやられて骨も残さずに溶けてしまっていた。

 俺もそうなるのかと思ったが、かすかに意識が残っているのは幽霊になったのでないかぎり、おそらく身体は無事なんだろう。

 負傷個所が多すぎて無事と言う言葉の定義から見直すような状態だったが。


 そうして、どのくらいの時間がたったのかわからないままに目覚めると、俺は巨大なボウルの底のような場所にいた。彼の巨大なスライムは死して魔素に還ったのだろう。

 とふと気配を感じて隣を見ると……人間サイズくらいの体積のスライムが鎮座していた。


「うおおおお!?」

 ああ、声は出るな。それに怪我した場所も完治している。ダンジョン内部のレベルアップの恩恵は、消耗した体力や魔力、それに負傷個所の完全回復だ。とはいえ、ゲームみたいにあとどれくらいでレベルアップするかなんてわからない。同じく、パラメータ、力が2ポイント上がった! みたいに数値化してわかるものでもないのだ。


『やあ、君がボクのマスターかい? ずいぶんと乱暴なインストールだったねえ』

「……んん??」

 どこからともなく聞こえてきた男でも女でもないような声。耳で聞いたような、それでいて脳裏に直接響くような、違和感バリバリの聞こえ方だった。


「誰だ!?」

『ヤダねえ、ボクは君の忠実なしもべさ。目の前にいるだろう?』


 すると目の前のスライムがプルプルと震えだした。


『ああ、そうか。この姿だとモンスターっぽいよね。ちょっと待ってね』

 震えだしたスライムは徐々にその形を変え、人間の少女のかたちを取った。

『よし、これでいいね……ってマスター? 大変だ、顔が真っ赤だよ! それに心拍数が急激に上昇? これは緊急事態だね。システムΘ(シータ)起動、アームドモードに換装を開始する』


 目の前の少女は体表面が銀色であることをのぞけば普通の人間と全く見分けがつかなかった。そう、全裸であることも含めて。

 思わず顔が赤くなり心拍数が上昇する。だってしょうがないじゃん! さっきまで死ぬか生きるかの戦いをしてたし、そもそも移動中は禁欲モードだったし!


 何やらよくわからない宣言をした後、スライムの少女はその形を一気に崩し、金属色の水たまりへと姿を変えた後……、俺に向かって飛び掛かってきた。

 その速度はすさまじく、何とかがーおをしたと思ったが、相手は液体だ。そのままシュルシュルと俺の身体に絡みつく。

 そのまま、スライムの身体が俺の体表面で固定された。どこぞの遺跡で発掘された体に密着型のパワードスーツのような感じだ。


「おおおおおおおおおお!?」

 両手両足に装着されたパーツから針が飛び出し体に突き刺さる。身体を侵食される痛みに備えるが、おそろしいことに全く痛くない。それどころか視神経に何かの形で割り込んでいるのか、何もないはずの目の前に唐突に文字が浮かんだ。


『汎用型ナノマシン兵器シータの取り扱いについて』

「ぬお!?」


『ふふーん、マスター。ボクの取説しっかり読んでおいてねー……うぇ!?』

「なんだよ!?」

『いやー、これは……ふふふ。大当たり、だね』

 視界にはサムズアップしている人間型スライムの姿が見える。これも先ほどと同じやり方か。高速でスクロールしていく説明文も本来なら読むことができないはずなのになぜか内容を理解できている。


『せいかーい。いやあ初めてのマスターだけど察しが良くて助かるよ』

「ああもう、わかったよ。で、改めて聞くがお前さんは何者なんだ?」

『んー、ちょっと長くなるけどいいかな?』

「よくない。簡潔に話せ」

『んー、つれないねえ。まあ分かったよ。要するにだね、機械生命体と高次元知的生物が宇宙規模の戦争をしているんだけど、ここはその小競り合いの場になったってことなのさ。ボクはその機械生命体に属する者だね。いやあ、しかしすごいマスターに巡り会っちゃったねえ。マナのキャパシティが向こうの上位存在に匹敵するとは』


 説明を呼んだから何となく意味は分かる。俺のおおもとの魔力量も人並外れてではないが多い方だった。呪文を扱うスキルがあれば魔法使いとして上級も夢ではないと言われたほどに。


『ちなみにマスターの魔力総量は50万。さっきマスターと一緒に入ってきた人たちで一番魔力が多いので5くらいかな』

「ほほう。それで魔力が多いとどういう良いことがあるんだ?」

『マスターからの魔力を受けてボクがやりたい放題できる!』

「なるほど……」


 そういえばあの戦いの中で奇跡的に故障していなかったスマホを取り出し、セルフテストをかけると……見事にエラーを吐き出した。計測不能らしい。


『んー、なかなか面白いデバイスだね』

 そういうと指先ほどのサイズのスライムがデバイスに沁み込み同化する。


『これで性能はかなり上がったはずだよ』


 見た目は変わりない……が、ふと操作してみて気づいた。なんでネットにつながるんだ?

 ダンジョンの中は異界化していて外部との通信などは遮断される。この端末や技術を売りに出すことができればそれだけで俺は数回生まれ変わっても使い切れないほどの金を手にするだろう。


『それはやめた方がいいかな。ボクしか使えないし。となればマスターはどこかに閉じ込められて……あとは、わかるよね?』


 あまりよろしくない未来になるようだ。俺はため息をついた後、さらに現状を詳しく把握するべく、視界の隅に映っているマニュアルを起動した。

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