第3話 知識があっても難しい
入学式から3ヶ月……そろそろ学校生活にも慣れてきて、授業中に寝ちゃう子が出てくる頃………
私はつつがなく恋のキューピッドとしての使命を果たしていた。
一回スルーしてしまったレオを含め、熱血筋肉のベリル、ツンデレ眼鏡のカイアス、ショタ庭師のエレン、危ない教師アティスリール等……とりあえず隠しキャラ以外のイケメン共とイリスを遭遇させて、しばらく影で見守ることにしたのだ。そのほうがイリス本人の好みも分かるし………
もちろん、イリスだけでなく、他の子達との交流も欠かさない。
東に内気な子があれば、行って背中を押してやり、西に振られた子あれば行って心に寄り添ってやり……という具合に忙しく楽しい日々を送っていた。
そして今日は、待ちに待ったイリスとのショッピング……!
結構前から画策してはいたけれど、彼女の予定が詰まりに詰まっていてこんなに待たされちゃったのよね……聖女の娘ってすごいわ………
今回イリスとショッピングをするのはズバリ、あの見た目を変えるため!
彼女、魔力と運動ステータスは高いのだけれど、魅力が明らかに低いのよね……たぶんゲーム開始時の20より低いんじゃないかしら……
魅力ステータスが低いままでは攻略はできない!あとステータス関係なくイリスという原石を磨きたい!
その為に行きつけの美容室を予約し、いくつか服屋をリストアップしたのだ。少し楽しみすぎて着いたのが1時間前になってしまったのは内緒。
「おまたせしました、ローズ様。」
「いいのよ、私も今来たところだから。」
嘘。もう1時間も楽しみに待ってました。
「それじゃあ行きましょう。まずは……貴女の髪を切るわよ!」
「……え?」
◆◆◆
やはりイリス・エアライネンは主人公なのだ。だってこんなに磨けば光るんですもの!!!髪を整えただけでも!!
ただその……光り方のベクトルが違うのよね……ヒロインではなくヒーロー寄りというか……街中を歩いている今でも娘さん達がイリスの事をちらちらと見ているのが……
ううん、乙女ゲームの主人公だから可愛くなりたいって決めつけちゃいけないわね!
今のイリスが着たい服、なりたい理想像をアシストするのが今は一番!
まず自分の好きなテイストでおしゃれに興味を持ってもらわないと。
「イリスの今日の服ってシンプルよね。そういう服が好きなの?」
「いえ、ただ外に出かけるための服が無いだけですね。制服か運動着か狩猟装備くらいしか無くて……」
「しゅ、狩猟装備?イリスってば狩猟するの?」
突然出てきた物騒な単語に思わず反応してしまう。
「あれ、聞きませんでした?私が魔龍討伐チームに居たの。」
「えっ」
聞いてないわよそんなの!ゲームじゃイリスは静かに暮らしてたって書いてたし!
それに討伐チームって60人近くいたらしいしその名簿はっきり見れてないから関係ない私が名前を覚えてないのも当然なんだけど………
流石に入学時に説明しなさいよ学校の偉い人〜〜〜!!
何が"聖女の娘に入学許可を〜〜"よ!討伐チームの一員だったんじゃない!!
実績がまだないけど娘だから入れます〜〜って解釈しちゃったわよ!!バリバリの功労者捕まえて何してんのよ偉い人は………
「だ、大丈夫ですかローズ様、頭を抱えられて。」
「私、イリスの事なんにも知らなかったのね……」
前世の知識にあぐらかいて色んな事を知ってる気になっていたけど、全然ダメじゃない。
今のイリスがどんな風に過ごしてきたのか、何をしてきたのか、何も知らない。
「……あー……ローズ様しか知らない事もありますよ。」
彼女はふと足を止めて呟く。それに釣られて私も足を止めた。
「……何よそれ、慰めてるつもり?」
口をついて出る言葉は思ってもない言葉。
ああだめだ、こうなるとゲームのローズマリーみたいに刺々しくなっていけない。
「美味しいお茶も、かわいいケーキも、綺麗な服も、学校で貴女に出会ってから知ったんですよ。」
イリスはそんな言葉に怯まずに距離を詰める。白い手が私の髪をそうっと持ち上げた。
「だから、学生としての私について一番知ってるのはローズ様です。それでももっと知りたいと仰るのなら……」
顔が近い。眼鏡の奥の瞳に私が映っているのが見える。
ここまで距離を詰めてイリスは一体何をしようって言うのよ!
「来週騎士科棟に来てください!冒険者としての私をお見せしますから。」
ぱっ、と手を離しておどけたように笑うイリス。
な、なんだ。髪にキスされるわけじゃなかったのね。
変にドキドキして困っちゃったわ。イリスは女の子で主人公だっていうのに。
それにしても、来週の騎士科棟ね……たしか、大会があるんだったかしら………?
イリスが出るなら応援しに行かないとよね。
ん?でもあのイベントって攻略対象に誘われてその彼を応援しにいくはずじゃ………
「あれ、ローズ様?服屋に行くんじゃなかったんですか?」
「あ、そうそう!服屋よね、服屋。行きつけの店があるから、まずはそこから見ていきましょう!」
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