夜辺無し

宮野涼

一夜

熱いわけでも、寒いわけでもなく、居心地の良し悪しなんて分からない。

静寂が支配するこの場所で、まるで世界に一人だけ、なんて言う人がいるけど、YouTubeを開けば誰かが配信していて、嫌でも嘘がバレてしまう。

カーテンが隙間風に揺られ、覗く街灯が煩わしく思える。

また俺は、夜に取り残される。



八畳程の部屋に置かれたベッドに寝転がりながら、ダラダラとネットサーフィンを続ける。

瞼を落としても、波の音を聞いても、結局寝られないのだから何をしても変わらないのだろう。


いつからか俺は、不眠症になっていた。

二日徹夜をしても、ベッドに入れば振り出しに戻ってしまう。

そのくせして授業中とか、動画を見ながらとか、そんなことでは勝手に寝ている。

いざ寝ようと試みると、急に眠れなくなる。


目を瞑って何も考えなければ直ぐに寝られるよ、何度聞いただろう。

コイツらのいう何も考えないってのは一体何を考えてるんだ、いや何も考えてないんだろうけど。

一度瞑れば死後の世界、輪廻転生、人間の存在価値、そんな事ばかり考えてる。

何もない、何もしない、何も感じない、そんな世界を思い浮かべても、そこには"何もない"が存在している以上、何か考えているんだ。

考えないように考えている、何も考えないなんてことはできない。


だから俺は諦めて、今日も夜を仮初の充実で満たしている。

案外慣れてしまえば悪いものでもない。良いものではないが。

外に出れば星が瞬き、涼し気な風が心地よい。

まぁだからなんだという話だ。

星を見たところで願い事が叶うわけでもないし、涼し気な風はいつしか寒すぎる風に変わっている。


時刻は午前三時ニ十分。

日本の夜明けよりも俺の夜明けを切に願いながら、常夜灯を消した。



―――どれぐらい経っただろう。

常夜灯を消して、まるで自分に寝ていると錯覚させることで、睡眠を再現するのが日課の俺にとって、この経過時間は非常に重要だ。

……もし寝れていたら、今はカラスが鳴く頃だろうか。

寝ていなかったとしたら、きっと30分しか経っていないだろう。


スマホを付ければ、時刻は午前三時ニ十分。

まだ一分すらも経ってはいなかった。


世界もたまにはバグるようだ。

俺の体がバグってるんだ、それぐらいあってもおかしくはないだろう。


……

…………

………………


心の中で、確実に六十秒よりも長く一分を数え、再びスマホを付ける。

時刻は午前三時ニ十分。

壁に掛けたアナログ時計の長針は止まり、ウェブサイトの世界時計はカウントを止めていた。


「俺の頭は遂に壊れたみたいだな」

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夜辺無し 宮野涼 @ryo2838

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