狂い咲けゼラニウム 2

「こっちは出ませんでした、先輩は?」


 町田さんがスマホを仕舞う間も無常にコール音は耳に鳴り続けた。


 こっちも出ない。


 あきらめて受話器を下ろそうとした瞬間。


『はい』


 繋がった!


「渋染さん! 良かった……一体どこにいるの? 大丈夫なの?」


『青園さん? えーっと、病院です。あっ勝手に出てってすいません』


「それもそうだけど、病院? どこの? 大丈夫なの?」


『渋沢くんが体調を悪くしてたので、連れて行きました。病院は黄合薔きりば診療所です』


 その声からは当初の明るい雰囲気は消え去っており、それだけ渋沢君のことが心配なのが分かった。


「そう、今度からは一声かけてからにしなさいね。私も迎えに行きましょうか?」


『いえ、大丈夫です。もう2人で帰るところなので、ご迷惑おかけしてすみませんでした』


「そう、学校にはこっちから連絡しておくから。元気になったらまた2人で実習に来なさい。いつでも待ってるから」


『っ……ありがとうございます』


 受話器を下ろすと、2人の所在が分かった事で張り詰めていた気持ちが緩まり、大きなため息が口から溢れた。


「繋がったんですか?」


「えぇ、渋沢君が体調悪くなったから病院に連れてってるんですって」


「渋沢君がですか?」


「そうらしいわ。でもきっと元気になってまた2人で来るわ。早速学校に連絡しないとだから先帰ってて良いわよ」


「分かりました」


 私が学校に連絡し終え外を見ると、寒空の中町田さんが立って待っていた。


「外で待ってるなら言ってよ、寒いでしょ?」


 私は町田さんに選んでもらった黒いコートを着て外へ出た。


「いえ、私が勝手に待ってただけなので」


 手も耳も真っ赤にして何を強がってるのやら。


「そう、なら早く帰りましょ」


 あれ以来気付けば町田さんと帰るのが日課になっていた。


「では、また明日!」


 笑顔で階段を上がっていく町田さんを見送って帰路に着いた。

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