狂い咲けゼラニウム
チャペルの椅子に座ってお手洗いに行った2人を待っていた青園だが、先程から立って座ってを繰り返しては落ち着きが無くなっていた。
それもそのはず、2人がかれこれ30分以上お手洗いから戻ってきていないのだ。
流石に遅すぎる。
青園はピタリと立ち止まると足早に手洗いへと向かった。
「渋染さん?」
女性用トイレに声をかけてみるも返事がなく、中に入ってみても個室はすべて空で誰もいなかった。
「渋沢くん?」
同じく声をかけるも、返事はない。
仕方なくそっと入るも、女子トイレと同様に全て空室で誰もいなかった。
青園の額に嫌な汗と思考が流れた。
そんなことはないと信じつつ、青園は走って二階の宴会場や倉庫、チャペルまで隅から隅まで走り回るもトイレ同様誰もいない。
「中城さん!」
本来は専門生と来るはずだった調理室へ息を切らしながら入った。
「ん、おうどした?」
暇そうに座って新聞を読んでいた中城さんは驚いて私に顔を向けた。
「こ、こっち、専門生、来ませんでした?」
息を切らし、膝に手を突いた。
「んなもん来てないが、なんかあったのか?」
「居ない。どこ、トイレ」
「おねぇちゃんだいじうぶ?」
心配そうに四葉ちゃんが私を見上げてそう呟いた。
「一旦落ち着け。会話にならん」
そう言って私に紙コップを渡す。ぶっきらぼうだが、その目はとても心配そうにしていた。
「……すみません。専門生が2人ともトイレに行ったきり戻ってこなくて、もしかしたら何処かで迷子になっちゃったのかもと思いまして」
「あーそういや来るの今日だったけか。こっちには来てないが。この広さで迷子になるとは思えんな。もしかしたらエントランスから外行っちまったのかもな」
エントランスなら町田さんが何か見てるかも。
「行ってみます!」
エントランスに着くと、丁度お客様が出て行った後らしく、紙コップを片付けている所だった。
「町田さん! 2人見てない!?」
「え、なんのことです? 2人?」
「専門生の2人がトイレから戻らなくて、エントランスなら見てるかと思って」
何年振りかの全力疾走に酸素が脳へ行き渡らない。
「先輩、いったん落ち着いて下さい! ほら水、飲んで下さい」
町田さんからウォーターサーバーに常備されてる紙コップを受け取った。
喉を冷たい水が流れ、ほてった体を芯から落ち着かせていった。
「ありがとう」
私は落ち着いて2人がお手洗いに行ったきり戻ってきていない事を伝えた。
「え、2人ともですか」
「どうしましょう。まずは学校に連絡? それとも警察? どうしましょう」
「まずは2人に電話しましょう先輩! 学校はそれからで良いと思います!」
「そうよね、ごめんなさい」
私は一度大きく深呼吸をして受付の受話器へ手を伸ばした。
「じゃあ私は渋染さんにかけるから渋沢くんにかけて貰えるかしら」
「分かりました!」
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