第28話 結局、また巡ってくるのさ
その日を境に私にはたった1人の友人ができた。
でも多分私は友人と取れるような態度をとっていなかったと思う。
いつも楊子には不躾な態度をとってしまっていた。
この手にした喜びを絶対にに失いたくなかったから。
失いたくなかったなら、初めから手に入れないようにしなければ良いのではないか。ずっとそう考えて、目に見えない失うことに対しての恐怖を常に抱いていた。
○
そして季節は巡り桜の花びらが散っていくようにはらりと切なく楊子は紅筋山を下山して行ってしまった。
「ねぇ…司ちゃん…私たちいつまでも友達だよね?」
彼女はそう今にも泣きそうな声で私にそう聞いてきた。
こんな時に聞いてくる楊子もなかなか罪なやつだなと感じながら私は答えた。
「ええ、もちろん。大丈夫よ。あなたは強い女の子だわ。あなたなら新しい場所に行っても強く生きていけるわ、私がそう保証する」
「時間のようだわね」
職員が楊子を呼ぶ声が聞こえる。
「そうだ。最後にこれをあげるわ」
そう言って私が渡したのは確か…ハンカチだったはずだ。
「辛い時に使って」
「え?もらえないよ!いつ返せばいいの?」
驚いた様子の楊子は頑なにもらおうとはしなかった。
「そんなに私と会えないことを心配するの?あなたは随分お人よしな人ね」
「私はこんなものはいらないからあなたにあげるの。私にはこれは必要ない」
「でも…」
楊子はまだ不安そうだ。
「そんなに心配することはないわよ。同じ空の下だもの、またいつかどこかで巡り会えるわ。じゃあその時に返して貰えばいいわ」
ついに楊子は折れたのか、私があげたハンカチを手にしっかりと握りしめて走って行ってしまった。
それが彼女のことを見た最後の光景であった。
結局最後の最後まで見送ることはできなかった。
私がハンカチを使おうとするんじゃ意味がないからである。
私は彼女がゆっくりと山道を降りていくのをただ見ていることしかできなかった。
唯一の親友が無事であると言うことを祈って。
○
そうだ、少しだけ彼女と過ごした日々を話しておこう。
結局、楊子はその時から私のことを気に入ってくれたようで私と過ごす時間が増えていった。
最初こそその距離感に戸惑ってはいたがだんだん日を追うごとにかけがえのない存在となった。
○
いつの日か紅筋山で遠足に行こうという話になった。
みんなでえっちらおっちらまだおぼつかない足で郊外にある公園へ数時間かけて歩いて出掛けて行った。
どこにでもあるような普通の公園。子供達がはしゃぎ回って遊んでいる。
楊子たちも鬼ごっこをしたりして遊んでいる。
途中で職員の1人がサッカーボールを持ってきてたらしく、そのサッカーボールでも遊び始めた。
職員の周りをよく注意して遊んでねなんていう忠告もまったく聞き入れずサッカーをしていた。
ちなみにその時はサッカーの基本的な動作というか、身体をどう動かすべきかみたいな感じのことは熟知していたので紅筋山の中で私に勝てるような人は1人もいなかった。
「ひゃー!司ちゃんサッカーいつの間にかめっちゃ強くなってんじゃん!」
楊子たちは遊びを一通りし終え各々が好きなところにちらばっている。
「そう?基礎的なことと毎日ボール触ってればこんなの簡単よ?」
「いやいやー、そんなことじゃできないって!きっと司ちゃん、ここにくる前にやってたに違いないね!」
「馬鹿なこと言わないで、私、ここにくるまでスポーツなんてほぼすることなんてなかったんだし」
「それに昔は本当に運動音痴だったのよ?」
「えーっ!?本当?」
「私てっきり昔から運動が得意なんだと思ってたよ…」
「そう言うあんたこそ本当に健気っていうか…どこまでも素直な子ね」
「そう?私はいつの間にか成り行きでこんな感じになっちゃったんだよねー」
「やっぱりさー、取り巻く環境って大きいと思うんだよねー。そういう自分自身を作り上げる要素として」
「まあ…あと気合い?」
「……」
「なによーもう、なんか言ってよー」
「……楽しそうで何よりだわ」
或る公園での会話であった
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