第23話 女子高生と遠足の話4
「久しぶりだな。月読」
楊子のほんの目の前には司が凛として対峙している。その姿は生き別れの姉妹の再会のように。
「……」
楊子は司に何の言葉を返すつもりはなかった。
「なんだ?せっかく会えたっていうのにお前はまた心を内側から閉ざしてしまうのか?」
司はその楊子の態度が気に食わないらしく、少し苛立った態度を見せる。さっきの優しげな表情を見せる司とは大違いである。
「……君とは全く縁のない生活を送れると思ったのに…」
楊子は視線を地面に落としそう嘯く。
「ったくよぉ〜これでも心配したんだぜ?小6のころに急に姿を消したと思ったらまさか神社の養子になっていたとはな」
司は徐にリュックからレジャーシートを引っ張り出して風で飛ばないようにその上にリュックを置く。楊子にもリュックを置くように促す。
「ボクがいうのも少し気が引けるが、君と違って昔から物静かで人当たりの良い性格の持ち主だからね」
「おかげさまでそっちに行っても全く苦労はしなかったのさ」
楊子はリュックを置くとその中からお弁当をゴソゴソと取り出す。
「まぁいいさ、別にまた会えたからと言って特にどうこうするわけでもないし別にボクの生活がいっぺんに変わるわけではない」
「これからもよろしく頼むよ!⬛︎⬛︎君!」
そういうと楊子は司の苗字で呼んだ。司の顔が一気に曇る。
「おい、月読」
「絶対にその名を口にするな」
あからさまに不機嫌になった司はそう言って楊子に忠告する。
「君が住んでいる『小西荘』には何にも言っていないの?」
「……言えるわけないだろ…」
司は少し苦しそうに唇を噛んでそうい言った。
○
時間によってかかってくる電話はだいたどんな内容かは想像がつく。
真昼間にかかってくれば大体仕事関連の電話であるし、夕方や朝方にかかってくる電話は少し不安になる。真夜中にかかってくる電話なんぞ最悪である。
その日、成坂が少し軽い昼食を食べ終わったいたのを待っていたかのように電話がかかってきた。
「もしもし?これは小西荘のお電話で間違い無いですか?」
随分と丁寧な口調で話かけてきた電話の主は年老いた女性のようだ。
「えぇ、そうですけど…」
「よかった、私はで司の祖母に当たるものです。実は成坂さん、あなたに説明しなければならないことがあるのを忘れておりまして…今からでもお会いすることはできますか?できないのならまた後日伺いますので…」
「えぇ、構いませんが…場所はどこにしましょうか?」
少し司との関係性に違和感は覚えたものの、成坂はすぐに彼女の申し出を了承した。
「では1時間後に小西荘にてお会いしましょう——」
そういうと電話の主に一方的に切られてしまった。
全く、謎の多い電話であった。『司の祖母に当たるもの』とは?
じゃあ司と初めて出会った時にいたあの老婆は誰?
不可解な事象が成坂を取り巻く——
○
「わざわざお越しいただき、ありがとうございます」
その女は1時間後、きっかりに家の前に現れた。
その女というのは司と初めてあった時に一緒にいた女であった。確か昔にも小西荘に下宿していたはずである。
成坂は客間兼居間に案内し、飲み物を女の前に置いた。
得体の知れない女だ。成坂は少し身構えている。
けれども、女からは何の危なっかしいオーラは出ていなかった。
女は飲み物を少し口に含む。その所作はまるでお嬢様のようだ。
「あの時以来ですね。初めて司と会った」
少し緊張している成坂は当たり障りもない会話から入る。
「そうですね。また、こうやってお会いできて光栄に思いますわ」
「それで、話っていうのは何なんですか?」
「そうでした、今日は司のお話をしようと思ってきたんですよ」
「して、そのお話というのは?」
「司と私たちの関係です」
「実は司は孤児なのです。親の行方や親が誰すらかもわからない」
「じゃああなたは誰になるんですか?」
成坂は目の前にいる女が誰なのか不思議に思った。
「私は孤児院のものです。孤児院の職員として普段は働いており、このような孤児の子たちが社会に羽ばたいて行く時に母の役割をしております。最も、最近はもはや歳的に母親ですらなくなったので祖母としての役割をやっているんですけどね…」
「……。」
成坂は別に驚きもしなかったし、特に悲しむような様子も全くなかった。
彼はその事実を淡々と受け入れるのみであった。
「孤児というのは古くから風当たりが強く、なかなか社会に受け入れてもらえない存在でございました…今でこそ様々な支援がある時代ですが、昔、ほんの10数年前は全く別世界でした」
「そして、未成年、成人、どれにしても、私たちはその相手の見えていない真実を知る必要があります…私たちは私たちが思っている以上に盲目的な存在なのです…」
「どうか、最後までお聞きください…司の生い立ちを…」
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