第22話 女子高生と遠足の話3

「ねぇ…司ちゃん…あとどれくらい?」


連雀はまだ折り返しにすらついていないのに疲れ切っている。

そのあられもない姿は到底成坂に見せられるものではない。


「そうだねぇ…」

「あと6キロは最低でもあるねー」


司は特段疲れているわけでもなく、ただ平然と答えた。


「!!!」


連雀はその途方もない数字に対してどうにか発狂しないように自分の精神を持ち答えさせるしかもはや術がなかった。


「司ちゃん…よ、よく…疲れないね…?」


田白も連雀と同様、とんでもなくへばっている。顔はさっきとは打って変わってげっそりしてしまっている。


「?全然疲れてるよー?全然歩きたくないし?そこそこ疲れてるよ?」


そういう割には司の顔はいたって平然である。

別に何の疲れもなさそうに見える。


「疲れてるって…全然疲れてそうには見えないくらい平然としてない?」


「あーそれはねぇ、自分が疲れているように見せてないだけだよ?」

「疲れている状態を見せるとみんな余計に疲れちゃうでしょ?だから疲れているようには見せないの。まぁだけど、そんなことしてるから余計に疲れちゃうんだけどね〜」


司は莞爾かんじと笑う。常人にはなかなかできない言葉を放ちながら。


「とんでもないストイック女、伊東司…」


そのとんでもない精神力に連雀は言葉をも失ってしまう。


「どう?楊子ちゃんは?」


さっきからずっと司と同じペースで隣を歩く楊子が少し気になるようだ。

小さい頃からサッカーをやってきた司の体力は一般人を少なくとも凌駕している。

さらに歩道という路面の状況も決していいわけでもないにもかかわらず、1時間以上隣を平然と歩いている。


(こりゃ只者じゃねぇぜ!!)

(この運動お化けとずっと並んで歩くだなんて!)


司には楊子が少なくともそんなふうに見えた。

「私?私は…別にそこまで疲れてないわよ?」

「そりゃ多少は足に疲れは感じてるけど、もう歩けんわ!!ってほどじゃないわ」


「す、すごい…さすが神社の娘」

「やはり何か足に神様でも取り憑いてるのか…?」


田白はその体力に感心する。


「取り憑くって…それじゃあ妖怪みたいになってんじゃん!ていうかそもそも足に神様ってどういうこと?」


楊子は満更でもなさそうな顔をしていた。


「あ、喜んでる」


そんな表情を友人は見逃すはずがなかった。


「かわいいなぁ楊子は」

「もっと純粋に喜べばいいのに」


田白はその可愛らしい生き物を完全におちょくっている。

楊子の顔は真っ赤になっていた。



「まだ?」

「まだまだ!」

「…まだ?」

「まだまだ!」

「まだ?」

「頑張れ!」

「まだ?」

「あと少し!」

「まだ?」

「頑張れ!」

「まだ?」

「もう少し!」

「まだ?」

「もうちょいかな?」

「まだ?」

「うーん…いつつくんだろうねぇ」

「まだ?」

「もうだいぶ近づいてきてはいるはずよ!」

「うう…」

「もうすぐだ!」

「ま—」

「もうすぐよ!」


こんな連雀と司のくだらない会話のすえ、多分150回くら位やって、ようやっと彼女たちの目的地についた。

街の少し外れにあるとても大きな公園である。

大小様々な古今東西の木や草が至る所に植えられている。

いつもどこかしらの木や草に花をつけ、ここを訪れる人々の心を和やかにさせている。

美しい花々のその高貴な香り、途絶えることのない鳥ちゃんたちの放送ごっこそして、その春風はどんな人でも至極簡単に安眠へといざなってしまうような恐ろしい魔力を持っている。


「やったー!!」


「やっとついたねぇー!!」


「いやー、今日もあったかくて良かったね!最高のピクニック日和だ!」


「ねぇ、私たちどこで食べよう?」


「ふっふっふ…ご心配なく!」

「実はですねー私、六所楊子はこの公園での最高のロケーションを知っているのです!!」


司と楊子は特に何の疲労を感じさせることもなく、和気藹々と喋っていた。


「あぁ…」

「うぅ…」

「もう歩けない…」

「殺してくれ…」


他方、連雀と田白は何の余裕を見せることなく、疲労困憊で地べたに横たえていた。


「さぁ!もう少し歩くわよ!」


「えぇ…」


連雀は死にかけの老婆のような見た目をしておりもはや女子高生の見た目をしていない。


「うぅ…」


田白も同じくもはや動く気力を全く見出せたいない。


「…はぁ」

「どうしよう?」


楊子はため息をついて司に聞く。


「しょうがないねぇ…」

「じゃあ私たちだけで先にそっちに行ってお昼ご飯の準備でもしよっか!まだ時間はいっぱいあるし!」


「じゃあ私たち先別の場所行ってるからまた後で連絡するからね?動けるんだったらあとできてね」




2人で歩くとはいえ今日初めて知り合った人間との会話はかなり難しい。

2人の間には何ともいえない初々しい絶妙な距離感があった。


「あぁ…なんかこの感じ懐かしいね?」

「幼稚園の時かそれとも、もっと前の時のような愛おしい感覚…」


司は目を閉じて春風を胸いっぱいに吸い込む。


「ね〜、本当にここの公園は落ち着いていて素敵な場所だねぇ…」


「さて、」


司は短く呼吸をする。


「なぜわかったと思う?お前の事。」


司は何もかもをわかっていたかのような目を楊子に向ける。


「全く変わっていないな、


楊子は唇をギュッと噛んで司を見る。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る