第21話 女子高生と遠足の話2

 連雀たち3人が残り1人がくるのをまだかまだかと待っていて、ついに担任に言ったほうがいいのではという一線をぎりぎり超えようとしていたあたりでそいつは現れた。


「ごめんごめんー!」


 1人の少女があまり申し訳なさそうなそぶりを見せずに教室に飛び込んできた。

 もう楊子は半分来ないのではないかと悲観していた。


「もーっ!心配したんだからね?さっきから連絡しても一向に既読付かないんだし」


 楊子はその友人のあまりの時間に対してのおおらかな考えに対して抗議した。


「はいはい、ごめんねぇ〜」


 一方で当の遅れた本人はその抗議をあまり間に受けていないようだ。


「ってやば!もう時間全然ないじゃん!どうしよ〜」


「もーっ!!やばいって!遅れちゃうよ!更衣室じゃ間に合わないからトイレで着替えてきなさいよ!」


 やはりこの面倒見の良さと時間に対してのうるささはまるで法梅ようだ。

 彼女は土日に小西荘のみんなとお出かけする時にいつまでも準備に時間のかかる千歳を叱っている。時間のうるささとは少しベクトスが違う気がするが。

 それに、法梅が成坂に「うがー!」っと噛みついているのが容易に想像できる。


(……………なるくん、法梅ちゃんと話している時が最近は一番楽しそうだな——)


 連雀は少し顔を曇らせた。


 ○


「班のみんな、ごめんねー?今日は遅れちゃって」

「私、神山田白かみやまたしろって言うんだ。よろしくね!」


 どこか抜けているような感じのその少女の名は田白というらしい。

 仕草、振る舞い、全てにおいてどこかあどけなさを感じさせる。

 短めに切られているそのボブがもう春も終わろうとしている風に草の香りを少し混ぜてゆるりと揺れている。

 その姿はまるで洗い立ての絹のようだ。


「こちらこそ!よろしくね?私の名前は利連雀。趣味はー…色々?」


 連雀は趣味について少しだけ濁した言い方をした。


「名前は、伊藤司だね。趣味はスポーツ全般かな?特にサッカーが好き!」

「とにかく体を動かすのが大好き!」


 ○


 一同はここから歩いて15キロほどある大きな公園へ旅路を進めている。

 みんながみんな思い思いのまま好きなように歩いている。


「へぇー?司ちゃんってもっと山奥の方出身だったんだー?」


 楊子は隣に歩く司のことに興味津々だった。


「そうなんだよー…めっちゃ田舎町で…本当に山の中に切り開かれた集落って感じででねぇ…ずーっと山の中で遊んでるような幼少期を過ごしたからなぁ…」


「それで運動が好きになったってこと?」


「まぁざっくり言えばそうだね?きっともうすでにあの時から運動の虜に取り憑かれていたのかもしれないねえ」


「え、待って?じゃあさ、今司ちゃんってどうやて学校来てるの?だって明らかに遠いじゃん?」


「今は下宿してるんんだよー?『小西荘』ってところ。歩いて多分…ここから15分くらいのとこにあんの!」


「……っっぇええええええええええええぇえぇぇぇぇぇええええええ!!!!!!!!!」


 楊子は司の斜め上の発言にとんでもなく驚く。感情が豊かで可愛いなと感じた。


「ちなみにー、連雀ちゃんも一緒のところに下宿してるんだよー?」


「えぇ…」


 予想外の出来事に楊子は明らかに思考が追いついていないようであった。


「ていうかさー、一個楊子ちゃんに聞きたいことあるんだよね」


 司は一つ気になっていたことを楊子に聞く。


「なになに?なんでも答えるよ?」


「田白ちゃんとはどんな関係?」


「なんだぁー?そんなこと?さっき言った通り本当にただの友達だけど?」


 楊子は優しい笑顔でそう答える。


「初めての出会いはー…確か中学1年生の時だったかな?初めての中学校でまだ何にもわからなくってひとりぼっちだった私に話しかけてくれたの!」


「……」


「それが本当に嬉しくて!その時は本当に泣いて抱きついてしまいそうなくらいだったの!そこからずーっと田白ちゃんと一緒にいるわ!」


「なになにー?私がどうかってー?」


 目の前を連雀と一緒に歩いている田白がこちらに振り向く。

 司たちが話していた田白の話に興味津々のようだ。


「楊子のこと、もっと聞きたいなら聞いてね!いっぱい教えてあげるからさ!」

「めっちゃ可愛かった中1の頃の話とか?」


「だめー!」

「あれまじで本当に黒歴史だからほんとにもうさっさと記憶から消して!」


 楊子は顔を真っ赤にしていた。


「あとは舞の話とか?」


 田白の顔は不気味な笑みで満ちていた。


「それもだめー!!」

「あれほんとに無くしてほしい……恥ずかしすぎるんだよぉ…何で思春期真っ盛りの他人の目に一番敏感な時期にあれをやらせようとするんだよぉ…」


「あれそんなに嫌いだったっけ?」


 田白が聞く。


「え?うん、一年のうち一番嫌いな日その日だし」


「舞…?」


 あまり聞きなれない言葉に連雀が不思議そうに聞く。


「そう、実は言ってなかったけど私神社の娘だからさ、ほぼ確実に後継なんだよね…だから巫女になるための修行見たいのを毎日やらされての!」

「別にその巫女になる為の修行みたいなやつはいいいんだよ?だって楽しいもん」

「だけどあの究極のあの恥辱プレイのあの舞だけはほんとに嫌!私が巫女になったら絶対に廃止させてやるんだから!!」

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