第20話 女子高生と遠足の話

「ったく…何で高校に入ってまで遠足なんてしなきゃいけないのよ…」


連雀と司はため息をつきながら通学路を歩く。


「いやー、でもさ、授業しなくても出席日数稼げるって考えれば私たちかなり得してるんじゃない?」


司はこの状況を純粋にポジティブに捉えようとしているようであった。


「いいわねー?運動に取り憑かれてる女は」


連雀はため息をつきながらそう答える。


「まぁでもいいじゃん?私たち成坂さんにお弁当作ってもらったんだし?」


「ハッ!!!!!」

「さあ!どんな空より高い山でも、駿河湾より深い海でも!自然よ!この無限の力を持つ利連雀にかかってきなさい!私はどこへでもいけるわ!だってこのお弁当があるのだもの!!」


「ほんとに成坂さんのこと好きなんだねぇ〜」


司はその一途な連雀の心に深く感心する



「はぁ?お前ら明日遠足なの?」

「じゃあ昼飯はどうするんだよ?」


成坂は食べ終わった夕食の食器を洗いながら司に聞く。


「そうなんスよ〜明日遠足なんすよねぇ〜?」

「んで、実はお弁当持参でして…」


司はおずおずと明日の昼食を作ってもらうように頼んだ。

成坂がお弁当を作ってくれるのか少し怪しかった。

基本的に秋葉坂高校は学食であり、成坂がお弁当を作ることがほとんどない。

それ故に司はどんなものが出されるのか少し身構えてしまうのだ。

ぶっちゃけ、赤の他人が作る弁当ほど怖いものはないからね。


「えぇ?めんどくせぇなぁ…」


「そこを何とかお願いしまス!成坂様!明日遠足の時に昼食を食べないと体力不足で学校の帰路につく時に貧血か何かでぶっ倒れてしまう可能性がございます!」


司は顔の前で合掌をして、なんとかお願いする。


「……ったくよぉ…」

「もっと早く言えよ?そういうことは。んで、何入れればいいんだ?簡単なものでいいか?それともガッツリ栄養補給的なやつがいいか?」


洗い物をしながら成坂はチラリと司を横目で見ると静かに喜びを噛み締めるように飛び跳ねていた。


「何食いたいんだ?」


「何でっもいいっスよ?」


「じゃあザリガニでもオタマジャクシでもいいんだな?」


成坂は無責任な答えに対して意地悪そうに聞き返す。


「ダメです!!何でそんな人が好んで食べないような食事をお弁当として出そうとするのですか?」


「はぁ?だっておめーが『何でもいい』って言ったじゃん」


「違うっすス!その『何でもいい』という言葉の裏には『人間が好んで食べることの出来る範疇のうちで』という言葉が暗に示されているんスよ!」


司は先ほど自分が言った言葉の意味について一生懸命に説明する。

よほどザリガニやオタマジャクシが嫌なようだ。


「まぁいいさ、何となくそれっぽいの作っとくから明日の弁当、期待しておくんだな」


成坂は食器を洗い終えると明日の弁当の材料を考え始めた。



「えーっと…連雀ちゃんだよね?」


おずおずとそう聞いてきたのはミディアムの髪を下ろしている明らかに育ちが良さそうな女子だった。


「…そうだけど?」


(なんとなく法梅さんに似てるな…)

(名前は確か…えーっと…)


確か同じクラスの女子だったはずだ。

けど名前が全く思い出せない。


「名前は六所楊子ろくしょようじっていうわ。今日一日一緒に頑張ろうね!」


「六所って言うんだ?珍しい名前だねー、司ちゃん?」


連雀の住んでいるところではなかなか聞きなれない苗字であった。


「………」


司は驚いていた。

何に驚いているかはわからなかったがいつもとは違うような感情がそこには映し出されていた。

いろんな感情が彼女には渦巻いているようだったが先行して表に出てくるのは驚きのみであった。


「……司ちゃん?」


流石に明らかに司の状況がおかしかったので連雀は声をかける。


「……!どうしたの?こわい顔して?」


連雀の声に気づいて司はいつも通りの状態に感情を上書きする。


「それはこっちのセリフだよ!!だって急に固まって何も話さなくなるんだもん!一瞬たったまま気絶したのかと思っちゃったからね?」


連雀は本当に心配していたようだ。いつもの司に戻って安心している。


「も〜大袈裟だなぁ〜今はちょっと考え事してただけだって?話聞いてなかったのはごめんね?」


「大丈夫?——司ちゃん?昨日もこんなことなかった?体調悪いなら今日学校休んだ方がいいんじゃ…」


連雀は友人の体調を少し心配するように聞く。


「大丈夫だってば!別に何も体調悪くないし?」


司は友人の心配を宥めようとする。


「ほんとー?大丈夫ならいいけどさ、無理しないでよね?私心配なんだからさ」


「ありがとね。ほんとに今日は何ともないから!いつも通り元気だからね!!」


「あれ?もう1人いるはずだよね?」


連雀は4人班のはずなのに3人しかいないことに気がついた。


「あー……多分遅刻してるんんだと思うよ…私の友達なんだけど、時間に超ルーズな奴だからしょっちゅう時間に遅れるんだよねぇ〜…いつも待ち合わせ場所で私が待たなくちゃならない…」


(どうしてがこんなところに?)


司は真剣な面持ちで思考を巡らせていた。


(何でこんなところで出会う?)

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