第19話 高校生!!3
「ただいまぁー」
連雀はガシャガシャと立て付けの悪いドアを無理やり開ける。
玄関には成坂の靴のみ置いてあるが当の本人が家にいる気配は全くない。
(あれ?誰もいないのかな?)
この建物には滅多にない平日の夕方の静寂が連雀を襲う。
(まあいいや。——にしても今日のLHRめっちゃ疲れたなぁ…何で学年レクでドッチボールすんのよ…)
特にすることもないので成坂に買ってきてもらったお菓子を食べて体力を回復させる。
(しかし司ちゃんもすごいなぁ…あんなに動き回ったあとでよく部活に行く体力が起こってるよね…)
今日の司はすごかったのだ。
高校にもなってするドッチボールは気迫が全くない。ただ過ぎ去りし時間を弄ぶだけである。
しかしながら彼女は全く違った。
どんなボールもキャッチし投げれば必ず誰かに当たった。
その姿はまるで小学生さながらの無邪気さで、そのはてなき体力をクラスメイトに感じさせた。
彼女らのクラスは優勝こそはしなかったが司の活躍は彼女のクラスメイトに印象付けた。
(すごいなぁ…よくあんなに動き回れるよねぇ…私だった絶対に無理…だってそんな体力もう私にはないもん)
(体型維持するだけで精一杯よ…)
「なるくんのためにね…」
部屋には1人しかいないのだが、連雀にしか聞こえないほど小さな言葉で愛を叫ぶ。
連雀は彼女のさらさらとした黒髪を指先に絡めるながらうつけるように空を見上げる。
むぅとため息をついてTwitterを見始める。
成坂はどうやら夕食を作り始めるようだ。野菜を切っている。あ、今日は
「ん?」
疑いのない日常的な風景に連雀は疑問を呈する。
連雀の視線の先には成坂がいた。
「ぎゃあぁぁぁぁあぁぁぁぁあああああ!!!!!!!!」
「ねぇ!!!!なるくん!!!いつからいたの?え????もしかして私が独り言言ってるの聞こえてた??ちょっと待って?私まじで放心状態だったんだけど?私なるくんに変なこといってないよね?まじで大丈夫だった?私のこと嫌いになった?」
「おい、落ち着けって?別に連雀、お前変なこと言ってないからな?ていうか何なら今のお前の状態がさっきよりよっぽど変だぞ?」
「ったく…なんかあったのかよ?」
「いや?別に?ただ単に——なんていうか?疲れただけ …だってまだ学校始まってから日が浅いし」
連雀はソファーにあるクッションを力強く抱きしめて
○
「「いただきまーすっ!」」
3人で夕食を食べ始める。今日は回鍋肉だ。やったぜ。
「いやー、この中華…本当に…犯罪的だっ!しみ込んできやがる体に!」
司は回鍋肉とご飯を吸い込むように食べていた
「何か地下労働で働かされてそうね…その発言」
「無理はいけねぇ・・・無理は続かない・・・自分を適度に許す事が長続きのコツさ・・・!」
成坂はそっと司の横にキンキンに冷えているお茶を注ぐ。
「あ……ありがてえっ………!」
司の手には軍手をつけているように見えてきた。
「いつまでそのノリ続けてんのよ!!!てゆーか全然時系列違うじゃねーかよ!!」
どうやら連雀も地下労働物語を読んでいるそうだ
「てゆーか何でお前ら知ってんだよ!」
司と連雀のその圧倒的なノリの良さと的描くなツッコミに成坂すらもツッコミを入れてしまう。
「親が『このような大人にならないように』と見せてきたっス!」
「どんな経緯があって教育としてあの漫画を子に授けるんだよ…」
○
「あれ?そういえば千歳さんと法梅さんはどっかいったんスか?」
司は法梅と千歳がいないことに気づく。
「いや、ふつーにバイトだよ。だってあいつら大学生じゃん」
「あの2人って何のバイトするんだろー?」
「あー…確かに…そういえば俺あいつのバ先しらないなぁ…」
「何でしょうねぇ…ひよこ鑑定士とか?」
少し考えて出たこたえがこれだったので成坂は少しがっかりした。
「あんなの絶対に素人に任せちゃダメだろ…」
「だったらー…コンカフェとか?」
もちろん、連雀の頭の中はほぼ成坂のことで埋め尽くされている。
「それはただ単に連雀がやりたいだけだろ…」
「じゃあなるくんは何だと思ってんの?」
連雀は少し不機嫌な目つきで聞く。
「まぁ千歳は普通にどっかのレストランのキッチンとかかな?あいつ接客絶対に向いてないし」
成坂は残りの回鍋肉を取りながら答える。
「あー…確かに…千歳さんは人と話すの大の苦手でスもんねぇ」
「じゃあ法梅ちゃんはホールとかかな?」
「いや、あいつのあの他人に噛み付くようなきつい性格じゃあ多分客と喧嘩になりかねないからあいつもキッチンだろうな」
成坂は法梅が迷惑客と喧嘩しているのを容易に想像ができる。
それを少し想像して少しにやけてしまう。
「そういや、秋葉坂の一年ってもうすぐ遠足じゃないのか?」
「そーっスよ?ちょうど明日っスねー」
「あ、じゃあ弁当必要なのか?」
食べ終わった食器を洗いながら成坂は聞く。
「なるくん、遠足ってどれくらい歩いたの?」
ソファーに座ってテレビのバラエティーを見てる連雀が聞く。
「たぶん往復で15キロは歩かされた気がするんだよな…まともに運動してなかった俺からするととにかくきつかったのは覚えてるなぁ…」
「最初の方はみんなと楽しくおしゃべりしながら歩けるんだけれど、だんだん疲れてきて学校に帰ってくる頃にはみんな何かしらの悟りを開いた時のような顔をするんだよな…」
成坂は思い出を頭から引っ張り出そうと努力している。
「班決めとかもうしたの?」
「そうだよ?なんか司ちゃんとあと2人の合計に4人の班なんだけど初めての人だから緊張するんだよねー大丈夫かなぁ…司ちゃん」
「え?ああ、うん…そうっすネぇ楽しみっスね!!」
司は少し浮かれなさそうな顔で何かを考えていた。
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