第18話 高校生!!2

 日も傾いた頃、2人の高校生が小径を並んで歩いていた。

 小径に沿って生えている少し小ぶりな木々たちは可愛らしい葉をつけ始めている。


「司ちゃん、どうだった?入学式」


 秋葉坂高校の入学式はつつがなく厳かに行われ一年生約500名は無事入学を果たせた。


「そうっスねぇ…」

「とても楽しい一年になりそうっス!部活も、学校生活も、全部!」


 司の目は希望に満ち溢れていた。


「なぜなら司ちゃんと一緒だからっス!」


「そ、そう?」


 その司の子リスのような可愛らしい笑顔と誰もが一度は聞いてみたいその言葉を難なくかけられた連雀の顔は真っ赤になっていた。


 ○


「おかえりー!どうだった、入学式?」


 居間でオットセイのような体勢でソファーに横たえてスマホをいじっていたのは法梅だ。


「よかったよ?」


 連雀はなんて返せば良いか分からず思春期の親子の日常会話みたいな返しになってしまった。


「私、連雀さんと一緒のクラスになったっス!」


「ふ、2人とも何組だった?」


 隣で座っていた千歳が聞く。


「えーっと?確か…B組?」


「てことは……文系の特進?」


 千歳はかすかにあった高校時代の記憶を探し当てる。


「うーん…あんま自分でもよく分かんないんスけど多分そうっぽいっスねぇ」


「す、すごい!司ちゃん運動もできて文系の特進クラスなんて!」

「私はどんなに頑張っても特進クラスにすら入れなかったからなぁ…」


 千歳は高校時代の余分な記憶すらも思い出して苦笑いをする。


「えー?でも千歳さんには『絵画』っていう誰にも引けを取らないような特技があるじゃないっスかー」

「っていうか千歳センパイ秋葉坂出身なんですか!?」


 司は綺麗なほどのノリツッコミを披露する。


「そ、そう!実は私秋葉坂の出身なの!」


 千歳は仲間が居ることの喜びを隠すことなく笑顔でそう答える。


「えぇーーーなんで今まで言ってこなかったんスか?」


「えへへー サプライズ?的なやつかな?」


「法梅ちゃんは高校時代どうだったの?」


 連雀は学校でもらった荷物を整理しながら法梅に聞く。


「うーん?何というか—あんまり楽しくなかったかなぁ…」

「とにかく『勉強!』って感じであんまり自分の好きなことにたくさん時間を避けれなかった感じだなぁ…」

「あ!でも友達はめちゃ優しかった!とにかく高校は宿題が多くてねぇ…それを手分けしてみんなでやってたんだよ…大変だったなぁ」


 法梅は山ほどあったその課題のことを思い出してため息をついてしまう。

 けどその顔は少し笑顔が混じっていた。


「そう言えば成坂はどうだったのよ?」


 法梅はいつの間にか音もなく買い物から帰ってきて夕食の支度をし始めている成坂にきく。


「あ?俺の高校生活?別に?たいしてそこら辺にいる高校生と変わらんだろ?放課後にカラオケ行ったり、赤点ギリギリで回避したり」

「まぁでも、大学よりも高校の方が楽しかったなぁ…」


 成坂は高校時代の思い出を引っ張り出そうと少し瞑目している。


「あんたどこの高校だったの?」


「秋葉坂高校だが?だから、千歳と一緒の高校だし」

「だけど千歳との面識は全くなかったけどな」


「えぇぇぇぇぇぇぇえええええ!?!?」

「知ってた?千歳!あんたとあいつ同じ高校なんだって!」


「えぇ…知らなかったなぁ」

 ——ほんとは…


「だって俺そもそも1年生から理系の特進クラスだったし?」

「俺らの時は1学年12クラスもあったんだから面識もなくて当然だろ」


「り、理系の特進てことは…E組だった?」


「そう。E組だった。男ばっかで全然恋愛とかなかったなぁ」

「本当に多分千歳とは面識がないクラスだったんだろうな」


 ——ううん。違う


「どうしたんだ?千歳。急に黙りこくって」


「ふぇえ?だ、だだだだ大丈夫ですっっっ!」


 千歳は淡い過去を思い出して悟られるのを防ぐように大丈夫のように振る舞う。


 ——大丈夫なわけない…なんで今こんな記憶思い出しちゃうんだろ…この記憶は忘れなきゃって決めたのに…


 千歳は俯いて何かに縋るように、何かに祈るようぎゅっとに目を閉じる。

 その光景を成坂は横目で見ていた。


 ○


「伊東司って言うっス!特技はサッカーっス!多分部活はサッカー部に入ると思います!」


「と…利連雀って言います……好きなことは誰かとおしゃべりをすることと、音楽を聴くことです…よろしくお願いします」


 新学期初めてのHRは自己紹介からだった。

 揺り籠から今の所までほぼずっと同じ面子で学校を過ごしてきた司にとってはこのような場所はとても苦手である。

 連雀も同じように、このような初めてでの場所は自分が今喋った内容が本当にその場に相応しいのかなどといった余計な心配をしてしまう。それ故、あんまり彼女が思った通りの言葉は出せなくなる。



「司ちゃん、緊張しなかったんだ?」


 1限のHRが終わるなり連雀は迷子の子供が親元へ駆け寄る時のようにすぐに司のところへ飛んできた


「いやいやー全然緊張するっスよ?ただ、その緊張しているっていう感情を表に出してないだっけスよ?」


「どんな特殊能力よ…」


「いわゆるスタンドってやつっスねぇ〜」


 2人は喋りながら教室を出て行った。



(まさか…あいつ…司って言ってたな?)


 その姿を見ていた男が1人いた。

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